討伐依頼 2
ルビーはその頃、森で見張りに立っていたオークを狩っていた。
後ろからこっそり近づき、斬糸で首を落とす。
(こっそりも難しいわね。首を落とした時に音が出ちゃうわ)
完全に死なないと収納庫には入らないので、多少のタイムラグがある。落とした直後はまだ生きているのだ。どさっと頭が落ちて、結構大きな音が出る。
一番大きな小屋に一番偉い奴がいるだろうと当たりをつけて、こっそりと侵入する。
他種族の雌に、種付け中だったようだ。マナはマナドレインで意識を奪い、とどめはユキに任せる。
残念ながら生きてはいないが、女性の遺体も見つけた。
それを回収すると、ユキもキングにとどめをさした所らしい。
マナ達は、侵入した時と同じく、こっそりと反対側の出入り口に向かい、ルードに連絡を入れる。
「マナ達の方は終わった。5秒後に潰す」
シャロンは慌てて呪文を唱える。
「チッ…(使えねぇ)」
スカイとマナに合わせて雷魔法を集落全体に落とす。遅れて風魔法も発動した。
死に切れなかったオーク達が、出入り口に押し寄せてくる。
ルードはそれらを危なげなく切りながら、二人組を見る。討伐スピードが遅いからか、オークの習性もあってすっかり囲まれている。
こいつら、本当にBランクか?
個人的にはどうなろうと知った事じゃないけど、死んだらマナが悲しむだろう。
マナ達の方は、レベルアップ酔いから回復したユキと、途中から合流したルビー母さんのお陰で危なげなく群れを倒している。
状況が分かるので、スカイはルードの応援に行かせた。
ルビー母さんは、元のアルケニーに戻って戦っている。
これだけ豚肉があれば、当分肉には困らないだろう。けど残念。これらは証拠物件として提出しなければならない。
ソルジャーオークをこっそり収納庫にしまっているルビー母さんを見て見ぬふりしながら、休まず短剣を動かす。主婦は大変なのだ。
やっと全て片付いて、ルード達と合流した。
(マナ、僕頑張ったよ?もふもふして)
(あとでね)
マナは、怪我しているミリアさんとシャロンさんに回復魔法をかける。
「うっ…マナちゃんまで無詠唱なのね」
ルードは、オークの死骸を回収している。
(ルード、怪我人の治療が先でしょ?)
(僕は光魔法も聖魔法も使えない事にしてあるの。面倒だから)
(面倒って…)
「マナちゃん達は、大丈夫だったの?」
「問題ないですよ?オークキングも倒したし、ルビー母さんとも合流できたので」
「ほ、本当にいたの?」
マナは、収納庫からでっぷりと太ったキングを出してみせる。
「あ…あなたも時空魔法の使い手なの?」
「あ」
しまった。小さいうちは目立つから、隠してたんだ。
「妹はランクCだけど、それはギルドの規則があるからだ。それに人の能力を探るのはマナー違反だろ?」
粗方片づけたルードが戻ってくる。
「さすがに酷いのは、魔石だけ拾ってきた。帰ろう。血の臭いで他の魔物が寄って来るのも厄介だし」
「あなたのお兄さん、強いのね。彼女はいるのかしら」
「ミリア、それはちょっと…」
「シャロンだって、興味ない訳じゃないでしょ?」
「いないと思うけど」
馬車に乗り次第寝てしまったルードの話で盛り上がるけど、寝ながらも聞いているかもしれない。
こんな所で熟睡するルードじゃないのだ。そしてスカイは私の頭の上で熟睡している。あ、落ちた。
「スカイ、影に入ってる?」
(うん。眠い)
「テイマーの人って従魔を影に入れるっていうけど、どこにいるの?」
「さあ?私の中かな」
「ね、お兄さんの趣味って何?」
「…寝ること?」
「お兄さんの事、色々教えて?」
「…マナ、その辺にしといて」
「?!起きてたんですか?」
「さすがに知らない場所で熟睡しない。それで?僕の事聞いてどうするつもり?」
「そ…それは。また一緒に依頼受けたいし、できればプライベートでも」
「悪いけど、その気はないな」
「確かに今回は守られてばかりでしたけど、汚名返上させて下さい!」
「悪いけど、大切な人がいるから」
「へ?初耳!いつも寝てるのに、いつの間に?まあ、プライベートまで詮索する気はないよ」
何故かジト目で見られた。
「あー、ルードさんなら、きっとよりどりみどりですよね」
馬車が町に着いた。大剣を背負った女の人が走ってくる。
「やば!ターナさんだ!」
「よかった。無事で」
「わ、私達もやれば出来るのよ?」
「何言ってんだい!済みません。Aランク冒険者の方々ですよね?ウチら私はAランクなのでパーティーとしてはBランクなんですけど、個人で言うとこいつらCランクなので、ご迷惑をおかけしました」
「ああ。なる程。いっそのこと放っておけばよかったですね」
「ええっ!ルードさん、酷い」
「酷いのはあんたらだよ!面倒をかけたんだろう?」
「僕達がいなければ死んでいましたね」
「本当に済みませんでした!ギルドで訳を話したら、依頼料金は全額あなた方に支払われるそうなので。こいつらは資格停止半年になりました」
「まあ、妥当だね」
「迷惑料代わりに奢りますのでのみに行きませんか?」
「それはいい。うちには小さい子もいるので」
そのままギルドに戻り、解体場で魔石とキングの肉以外を全て買い取ってもらった。
(マナ、オークキングは脂っこいよ?ソルジャーオークの方が美味しいよ)
「じゃあ、証拠が必要との事なので、キングは買い取りでいいです。その代わり、ソルジャーオークの肉は貰います」
「ぜ、全部か?」
「収納庫があるので」
「いや…せめて半分だけでも」
「30位か。それでいいです」
「助かる!高級肉はすぐ売れるんだ」
船代が随分助かった。




