森の異変
ツリーハウス。マナは夕食の時に今日あった事を話した。
「やっぱりその鳥、役立たずじゃん?食べていい?」
「そうよね、主人を守るどころか危険の原因になるなんて」
(鳥肉は美味しいにゃー)
ええ! そっちの方に話が行くの?
「そんなに怯えなくても、冗談よ」
「僕は冗談じゃないけど?」
「ピエッ?!」
「大丈夫だよ。元の世界の言葉でダメな子ほど可愛いって言うから」
(酷い!)
「ていうかさ、そんな温いやり方じゃ、またマナが狙われるんじゃない?」
「これ以上は過剰防衛だよ」
「やりすぎって事?魔物は剣を向けられたら、相手の命を取るよ?」
「私は魔物じゃないもん。それにスカイも手出しされてないし」
「まあ、僕もマナの従魔だから、マナのやり方に合わせるけど。あと、ランクを上げるのは賛成だね。断れない依頼とか、煩わしさはあるけどAランクになればちょっかいはかけられなくなるし、それなりの権力も手に入る」
「権力は別に要らない。私はただ、穏やかに暮らしたい」
「穏やかに、ね」
今はまだ子供だからだけど、大きくなったら周りが放っておかないだろうな。
最近ツリーハウスの周りが騒がしい。普段なら魔の森深淵部に住んでいるはずの魔物をたまに見かける。敵意を向けてきたら全力で迎えうつけど、ルードのおかげで頭のいい魔物は近寄って来ない。
おかげでミノタウロスの生息地が遠くなってしまった。大損害だ。
「という事で、調査に行ってみようと思うんだけど、どうかな?」
「その前に、母さんが知り合いの魔物に聞いてみるわ。噂好きの魔物だから、何か知っているかもしれない」
へえ。そんな人?いたんだ。初耳。
「私も行っていい?」
「ごめんなさい、毒をまき散らしちゃうから、危なくて連れて行けないわ。大丈夫。すぐ戻るから」
怖。どんな魔物なんだろう?
「留守は任せてよ」
(にゃーもいるにゃ)
スカイもここで男らしく守るって言って欲しいんだけど無理だろうな。上空を飛ぶワイバーンの姿に畏れをなして私の影に逃げ込んでしまった。
「マナ!ブラッディーバイパーだ!」
赤黒い、10メートルはある蛇の魔物がこちらに向かってきている!
ユキがソニックウエーブを放つけど、表面の皮に浅く傷を付けただけだった。逆に尻尾で狙われ、隣にいたマナも吹き飛んだ。
すぐにユキに回復魔法を使い、自分にもかけるけど、鎧が強力だったから私にはあまりダメージが来てない。
マナも氷魔法で突き刺すつもりだったけど、皮が硬過ぎるのか、刺さらなかった。
竜に戻ったルードが、頭を踏みつける。
「ルード!どいて!」
魔力を思いっ切り込めてダークソードを発動する。そのまま剣を振り下ろした。
頭と胴体が切り離されてやっとほっとした。けど、同時に強いレベルアップ酔いに悩まされた。
鑑定 ブラッディーバイパー 蛇系魔物の最上位。肉質は油分を適度に含み、非常に美味。毒袋に注意
マナは内臓を引き出して、そのまま収納庫にしまった。
(マニャ、それも食べるのかにゃ?)
「うん!美味しいって!」
「にゃ…」
ユキが引いているけど、強い魔物は美味しいので絶対に食べる。サンダーイールみたいに蒲焼きにしようかな?
ただ硬過ぎるので、解体にはルビー母さんの力も借りよう。
エリアピュアで血のあとを消して、ツリーハウスに戻った。
ルビー母さんが戻って来た。
「なんでも、オーガロードが出現したらしいわ。オーガキングの進化系とも言われているけど、今回の場合は違うみたい。急に現れて強い魔物を従えて、反抗する者は、容赦なく殺戮しているって」
「魔物って、そんな風に急に現れたりしないよね?ダンジョンじゃあるまいし」
「普通ならあり得ないな。しかもオーガロードはレア中のレアだ。何らかの作為でもないと、急に現れたりしない」
「あくまでも噂だから本当の所は判らないわ。でも、何かが起こっている事は確かね」
「ちょっと母様の所に行ってくるよ。何か掴んでいるかもしれない」
「ルードが留守にするなら、本当に気をつけないとね。マナも、ブラッディーバイパーを倒そうなんて考えちゃだめよ?」
「…はあい」
蒲焼きにして、鰻丼ならぬ蛇丼にしたら超絶美味しかったのだ。身はクセがなく舌に乗せると蕩けて口いっぱいにとろりと広がる。
まだ沢山あるけど、ウチには大食いがいるからな…。




