無駄な努力と新しい依頼
戦争とはいえ、核も銃火器もないんだから、そんなに被害はないのかな?魔法はあるけど、数の問題じゃないよね。
嫌だな…。
「どうしたの?マナ」
私がいつまでもパン粉を付けているのが気になったのか、ルビー母さんが顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん…ちょっと考え事」
今日はとんかつだ。豚じゃないけど、他のみんなはそういう料理名だと認識してるみたい。
とはいえ、私にできる事は何もない。亜人への差別は無くしたいけど、それこそどうしたらいいのか見当もつかない。
「マナ、昨日の事まだ悩んでいる?」
「昨日にゃ?」
ルードは、亜人対人族の戦争が起きている事を話した。
「差別を無くするのはどうしたらいいのか見当もつかなくて」
「他人に言われて考えを変える物でもないと思うけどな」
「にゃーが大活躍したら、獣人は凄いって思われないかにゃー?」
「ユキはそれでいいの?本当はケットシーなのに」
「別にいいにゃ?どんな姿でもにゃーには変わりないにゃ!」
「どの道魔物と認識される方が問題あると思うけど」
「じゃあ、私からユキにリーダー変更する?」
「それは嫌にゃ」
「というより、うちのリーダーはルードだと思われてるわよね?」
確かに。
「難しい話になるとマナ、逃げるんだもん」
「それは、適材適所だよ」
「たまに抜けてるけど、マナは頭いいと思うよ?初等教育しか受けてないと思えない」
それは前世のお陰だね。
「マナが僕達の主なんだから、そこは間違えないでね」
「ルードには頼り過ぎかな?」
「頼ってくれるのは嬉しいよ?戦闘能力も僕の方が上だからね」
私も頼ってばかりじゃだめだよね。
「じゃあ、指名依頼だけじゃなくて他の依頼もどんどん受けるようにしよう!ユキだけの為じゃなくて、スカイの事もあるし」
「僕はまだ、スーパー冒険者じゃないんだよね…」
「一緒に依頼を受けていれば、認めざるを得ないと思うけどな」
Aランクの依頼で探してみると、魔の森の素材とか、丸ごと納品とか簡単に受けられるのが幾つかあった。
獣人族の地位が上がるかは分からないけど、というより活動が地味で言いたい事が分からないかもしれないけど、人族が優位だという間違った考え方は最低でも正したい。
なるべく色々な国でAランク依頼を受けるようにした。
そんな事をしていたら、ギルド本部から手紙が届いた。
ギルド本部に揃って行くと、スカイの…ラズリの昇給試験を受けさせてくれるらしい。
グランドマスターの勘違いだけど、それは別にいい。その方が同じチームとして活躍しやすいから。
結果としてはスカイもやっと正式にスーパー冒険者と認められた。
「弓はまあまあだが、魔法や格闘、短剣の扱いも上手くなってる。なんにせよ、やる気になってくれて嬉しい」
「私達のパーティーにユキがいる事によって獣人が認められたりしないかなって」
「…あ?うーん。まあ、貴族は冒険者の事はあまり気にかけないからな」
「じゃあ無駄…」
「ラズリがパーティーに入れたんだからいいじゃねーか。そんなお前達に、受けてほしい依頼があるんだが」
「…はあ」
正直依頼続きで疲れているんだけどな。
「スーレリアとギルティアの間に山脈があるだろう?そこに町というか小さな村が出来た。国境越えてるからスーレリア側だが、そこはスーレリア王の認めていない集落で、もしかすると盗賊村かも知れない」
「スーレリア側では調査したんですよね?」
「無論だ。王都から領主として貴族が派遣されたが、居着かないし住民も税は払うが元の長以外の言う事は聞かないそうだ」
「別に珍しくないんじゃないですか?新しい集落が出来るのは」
「兄ちゃんの言う通りだが、最後に派遣された男爵が、以降王都に出向かないらしい」
「その集落の産業は?」
「一応狩りと野菜の生産だが、盗賊が増えている事と、野菜だけでは税が収められない事が疑わしい理由だな」
「我々が囮になって殲滅しろと?」
「まあ、そういう事だ。出来れば何人か生け捕りにして、証言も欲しいが。勿論、スーレリアの騎士も討伐には協力する」
「全員生け捕りでもいいですよ?強制労働者が増えれば嬉しいでしょう。足手纏いは要らないけど…使い所はあるかな?」
「リスクがでか過ぎる!いくらお前達でも、100人近い規模の盗賊団を生け捕りになんて無理だ!」
「確かにそうね。私も命を奪わない自信はないわ」
「まあ、ちょっと考えがあるんだ。ここは僕に任せてよ」
(ルード…私に気を使って危険な方法取る訳じゃないの?)
(まあ、何人かは引っかからないかもしれないけど、残ったら僕達が始末するから)
「無理はするなよ?」
確かにもう人殺しなんて、いくら盗賊でも体験したい事じゃないけど、ルードの考えは上手くいくのかな?ちゃんと聞かないと。それと覚悟も決めておかないと。




