鶏肉祭り
ツリーハウスに、ルビー母さんが帰って来た。改良された設計図を持って。
内容的にはほぼ予想どおり。これなら、私の結界碑を盗られる事は無いだろう。
それと、教皇のやり方が強引なせいで、聖騎士達の心が離れつつあるらしい。
魔の森への無理な出兵。長期間に渡るウィンゼル島への出向等理由は色々上がっているけど、それらがことごとく失敗しているのが大きな原因らしい。
「それで、内戦になるかもしれないって噂を聞いたから、早めに故郷へ帰るって事にして、引き上げて来たのよ」
どうやって設計図をもらったのかとか、謎は残るけど、ルビー母さんが無事に帰ってきてくれたからそれでいい。
「それならさ、前みたいに師匠も呼んで、パーティーやりたいな」
「あはは。何か恒例になりつつあるね。いいよ。今回も協力してもらったし。メニューはどうする?」
「蟹鍋がいいかな」
おや珍しい。肉食獣のルードが肉をリクエストしないなんて。
ああ…もしかしたら収納庫の中の肉が少ない事を気にしているのかな?
「私はジンギスカンがいいわ!」
「そうだね。もう綿は要らないけど、ルード、そこでミノタウロスとか鳥肉とか、色々焼いていいんだよ?」
「本当?なら蟹は後でもいいかな」
蟹はスープで出してもいいよね。
「じゃあ鶏肉は、美味しいダンジョンに行こうか」
「あそこは誰かに任せても」
「22階層は行かないよ。海苔は欲しいけど。それに私が行った方がヒナイドリが出る確率も上がるし」
「あ、それはいいな。ホワイトホークでもいいし」
「でも、あの階のレアは分からないよ?だったら、ヒナイドリの方がいいな」
「みんなで行くより、二手に分かれましょうか。マナが美味しいダンジョンに行くのは決定だとして、二人ずつね。じゃんけんよ!」
結果、私と行くのはルードとユキで、スカイとルビー母さんがジンギスカンだ。
鶏肉はそんなに要らないから、採れたらあとはミノタウロス狩りに行くつもりだ。
ビッグコッコの方も卵が採れたりするけど、それはモコモコも一緒だ。
ホルアスダンジョンの入り口は、今日もレア種狙いの冒険者で一杯だ。低い階層には、冒険者以外の姿も見える。普通の服で、使う武器が包丁な所が逞しい。
「マナの短剣も貸して。こう人が多かったら長剣だと誰かを傷つけかねない」
「ん。ユキは大丈夫?」
「いざとなったら爪で殺るにゃ」
卵も羽根も集めて、肉も随分集まった。
「親子丼も食べたいにゃ」
確かに、ここで採れた肉なら本当に親子丼になるな。
「まだヒナイドリも見つけてないし、もっと集めようか」
その時、地面が揺れた。
「地震?」
「マナ、ユキ、すぐに脱出だ。モンパレが起きるぞ!」
「もんぱれって…!」
人々が、一斉に出口を目指す。結構奥まで進んでいたマナ達は、咄嗟に動けない。
軽い地震が収まると、ビッグコッコが次々にポップしてくる。
そういえば、小説で読んだ事あったな。モンスターパレード。
呑気に考えながらビッグコッコを捌いているけど、文字通り束になってかかって来られてもビックコッコ位になら負けようがない。蹴爪で蹴られたり、つつかれたりしてもルビー母さんの服の上からなら傷もつかない。
ルードも素早く斬れる短剣の方がこの場では戦いやすいようだ。
ユキも、人目を気にしなくても良くなり、爪で切り裂いている。
茶色い羽根のビッグコッコも何羽かやったから、ヒナイドリも採れたと思う。
いつまで続くのか。もうヒナイドリの肉しか回収していない。
ふっと、場の空気が収まる。
「抜けた。一階層で助かった」
リカバリーをかけるも、すぐに動く気になれない。
「本当にあるんだね。モンパレって」
「僕も実際遭遇したのは初めてだよ。地面が揺れて空気が変わったから、そうかなって」
ヒナイドリは嬉しいけど、どうせならパルタの町のダンジョン一階層で起きれば嬉しかったのにな。
「…マナ?どうせならモコモコに埋もれたいとか考えてない?」
「そっ…そんな訳ないじゃん」
なんでこうもお見通しなのかな?
「何でモンパレって起きるのかな?」
「さあ?ダンジョンが栄養過多とか、色々考えられてるらしいけど」
栄養…私の血?いやまさか。あれは22階層だし、ないよね?
「ダンジョンのお礼とか」
「お礼にゃ?」
「血には魔力がたくさん含まれているから」
「ちょっと!私のせい?」
「凄く疲れたけど、ヒナイドリはたくさん採れたよね?」
「ルードの意地悪」
もう…しばらくは鶏肉いいや。
ビッグコッコももふもふしているけど、どうせなら巨大モコモコの方がいいな。
「にゃ?…マニャのもふもふにはにゃーがいるにゃ!」
ユキまで…そんなに私って分かりやすいのかな?




