結界碑の設置と兵士達
世界樹に行って、黒竜さんに聞いてみた。
「世界樹の雫ですか…では魔宝石を」
「へ?」
「私の魔力でやってもいいんですが、あなたの魔力の方が、質が高いと思いますので」
黒竜さんに魔宝石を渡すと、この前見た、雫の雨がぱらぱらと降る。
「あの葉の上の雫がそうですよ」
マナは反重力で浮き上がり、葉を揺らして小瓶に雫を回収した。
何と!あっさりと手に入ってしまった。…でも世界樹の番人が仲良くしてくれないと、無理には手に入らないよね?これ。
まあいいや。
「ありがとうございます!」
「これ位お安い御用ですよ」
マナは笑顔で手を振って亜空間の中に消えた。
やれやれ。お礼を言いたいのはこちらの方なのに。
世界樹の番人になってから、奪うばかりの人族のせいですっかり人嫌いになってしまった私がこんなにも暖かい気持ちになれるのは、あなたのお陰です。マナ様。
ツリーハウスでスカイに貰った栄養剤とレシピを手に、マナはアカツキを連れて、今はすっかり研究室と化している農園の家に。
「じゃあ、採掘お願いね」
マナは畑で育てていた薬草を摘み取る。
レシピはあっても魔素水と合うかどうか。…あ。ルードに魔素水貰うの忘れた。まあいいや。本で覚えた方法で、自分で作ってみよう。
自分の魔力で作った方が、他の素材と合わせる時に合うはずだし。
かなり時間はかかったけど、魔素水が出来た。
『補助魔法 魔素変換を覚えました』
1回自力で出来れば魔法化する所は創造魔法と一緒だね。
世界樹の雫まで使った凄い植物活性剤が出来た!
魔晶石の粉で書いた発動基盤は既に作ってある。魔宝石を粉にしたらもっと効果が上がるかも?と思ったけど、魔宝石と魔晶石の性質は実はかなり違う。
世界樹の枝葉と合成して、聖別の結界碑として作っていく。
出来た!計算上では30%位効果が上がっているはずだけど、結界破壊の魔道具に耐えられるかは正直賭けだ。絶対とは言えない。
はあ…あとは見られていない時を狙って交換すればいい。…やっぱり夜かな…。
はっと気がついたら、亜空間にいた。寝落ちしたらしい。
(主…採掘中ダッタノデスガ)
「ごめんね。寝ちゃった」
(イエ、オ休ミニナラレタ方ガヨロシイカト)
お昼ご飯は…いいや。眠いし。
というかもう夕方だ。これ、中の時間加速がなかったら何日かかるんだろう。
ペロペロ、もふもふ。
心地良い感覚に目覚めて、寝ぼけたままもふもふを引き寄せる。
「もふもふは嬉しいけど起きるにゃー」
「ん…ユキ、何かあった?」
「船が近づいてくるにゃ!」
「ん…ルード起こして」
「起きないにゃー。無理にゃ」
仕方ないなぁ。
「起きてよ、ルード」
叩いても、揺すっても起きない。
こうなったら最後の手段だ。
収納庫から焼きたて肉串を出して、鼻先に近づけると、目を閉じたまま食べようとしたから、手をさっと引いて肉串を離す。
(…うん?)
「起きた?」
(肉…)
マナが後ろ手に隠した肉串を、一口で食べて、欠伸した。
「船が近づいてくるって」
(…もっと)
「置いていくよ?」
「…分かったよ」
ルードが伸びをしても亜空間の壁には当たらない。
海岸線の向こうに船が見えた。兵士達は海岸の方に行ってしまったので、今がチャンスだ。誰も見ていないので、堂々と取り替えられる。
発動させると、思ったよりも威力が上がっている。計算間違ったかな?
船から運び出された魔道具は二つ。そのまま同時発動したが、今回は耐えてる。歪みも出ていない。一点集中じゃないから、結界の威力の方が勝ったんだ!やった!
「おい、威力は上がっているはずだよな?」
「錬金術師の奴ら、ちゃんと仕事してるのか?前の方が威力あったんじゃないか?」
大剣を振りかぶって勢いよく当てるけど、物理も魔法も無効だ。
「ちっ。くっそ硬えな!」
「教皇様の忠実な部下の俺たちが何もできないなんて」
「おい、滅多な事は言うな。教皇様は離れている者の心も読み取るんだ」
「ちっ…使えねえ。橋の建設も思ったように行かないし」
「距離がもう少し近くなら、アースランスも届くんだがな」
「地道に土台を作っても、精霊の悪戯で上手く行かないし」
「だから気弱な事は言うな。正義は俺たちにあるんだからな!」
そうは言っても誰もそんな風には思っていないだろう。言った本人さえも、絶望的な表情を浮かべている。
裏側に回り込んだところで結界の壁が薄くなっているはずなどない。
こんな小さな結界碑さえどうにもならないのだ。
しかも噂によると、これを作ったのは神ではなく人だったとか。
放っておいても問題はなさそう。あとは諦めて帰るのを待つか、帰りたくなるように何かしてみようかな?
みんなで話し合ってみよう。




