次の町への移動
次の日。本当なら湖の対岸まで船で渡るはずだったけど、船の調子が悪いとかで、なおるまで街に留まるか、湖を迂回して行くかしかなかった。
マナ達は、乗り合い馬車で進む事にした。急な事なので、馬車はすし詰め状態。それに文句を言う人もいたけど、仕方ない。
しばらく進んで、馬車は森に差し掛かった。
うなじがチリチリとするような、嫌な感覚。魔物にはこんな感覚はないから、人だろう。
(マナも気がついた?盗賊だね。数は22人。どうする?)
(麻痺の魔法を使うよ)
マナは慎重に範囲指定して、闇魔法を使う。
『闇魔法を全て覚えたので、スキル 暗黒魔法を覚えました』
おお。遂に暗黒魔法を覚えた。
(盗賊は殺しても罪にならないよ。害悪にしかならないものなんだから、毒の方が良かったんじゃないか?)
(毒消しのポーションを持っていたら、すぐに復活されちゃうし)
(違うだろう。人を殺すのにためらいがあったんじゃないか?)
その通りだけど、ルードに言われると何か悔しい。
(ルードだって、いつも何もしないじゃない)
(僕は、護衛だからね)
そんな事があったとも知らずに、馬車はゆっくりと進んでいく。遅いだのきついだの、文句を言うおっちゃんはいるけど、概ね平和だ。
森を抜けた辺りの平地で、一泊する事になった。
マナ達は、見られないようにこっそりと亜空間に入った。
ルードは何か考え事をしているようだ。
「今晩、ちょっと出掛けてきていい?」
「いいけど…明日までに戻ってこなかったら、馬車は出ちゃうよ?」
「そうしたら、次の町で会おう」
「分かったよ」
次の日の朝、起きたら辺りが騒然としていた。馬がいなくなったらしい。
念話でルードを呼んでみたけど、範囲外にいるようで、繋がらない。
それと、狭いとか遅いとか文句ばかり言っていたおっさんもいない。
「とりあえずいないのは、アイツとお嬢さんの兄さんだけか」
「お兄ちゃんは用事があって、夕べ早くに出掛けました。だから馬はお兄ちゃんじゃありません」
「ああ。状況的にも怪しいのはあの男の方だ。けど、こんなに小さな妹を置いて行くなんて」
「次の町で合流する事になっているので、大丈夫です。スカイ…従魔もいますし」
「そのサンダーホークはお兄さんの従魔じゃないのかな?」
「私のですよ。幼体の時に捕まえたので」
「まあ…大人しいし、大丈夫だろう。ここで立ち止まっていても仕方ない。先を急ごう」
「次の町に着いたら、冒険者を雇わなかった危機管理意識について問いただせてもらうからな」
「ですからそれは、乗客が多すぎて雇うにしても元々定員オーバーだったと…そもそも船の故障が原因で」
あーもう!ぐだぐだ言ってる暇があったら、進んだ方がいいのに。
「町はこの道沿いですよね?」
一人でさっさと行こうとすると、止められた。
「この辺には盗賊が出るという噂もある。一人では危ない」
盗賊は昨日、麻痺させたけどね。まあ、一時的な物だから、とっくに動けるようになってるだろうけど。
「とりあえず、進みませんか?」
私は小さいから、歩幅が小さいんだから、早く行きたいんだけど。
でも、先にへばったのは大人の乗客の方だった。
(やっぱりレベルの差かな?)
(そうだと思う。マナは強いよ。でも僕は、マナの護衛だからね!!例えマナの方が強くても、ドラゴンがいても…)
(頼りにしてるよ!スカイ)
(うん!)
そろそろ休憩も終わりになるようだ。
(マナ?何かあった?)
(ルード?戻って来た?実は馬が盗まれて、歩いて移動している所)
(そうだったんだ。走っても間に合わないかな?夜までには町に着くと思うけど)
(分かった。町で待ってるね!)
何とか暗くなる前には町に着いた。対岸の町ではないけれど、それなりに栄えている。
大人達は、兵士に連絡したりとかやっていたけど、私は特に不満はない。
歩いての移動も楽しかったし、魔物は雑魚しかいないけど見つけ次第スカイが倒してくれるし、魔石も持ってきてくれる。
スカイもルードがいなかったから、楽しかったようだ。
プライドって面倒くさいね。
夜ご飯を食べ終わった頃、やっとルードと合流出来た。
私の亜空間に入って、ルードが真剣な顔で話してきた。
「マナ、僕を従魔にして欲しい」
「…へ?」




