蜘蛛母さん
眼を開けて初めに見た物は、大きな蜘蛛だった。
紅い瞳がじっと私を見つめている。不思議と怖くなかったけど、餌にされたりしないよね?
蜘蛛の糸で作られたベッドから、器用に抱き上げられて、皮で出来た水筒からミルクを飲まされる。
ぷにぷにと小さな手。目はまだよく見えないけど、産着を着ているようだった。
「うー、あー?」
上手く喋れない。こういう転生物って、ある程度大きな姿で異世界にいる物じゃないの?贅沢言える立場じゃないけど、赤ちゃんスタートは無理ゲーじゃないの?
当然排泄物も自分でどうにも出来ない。けど蜘蛛が、オムツも換えてくれた。布で拭かれて、蜘蛛は自分の糸で器用に新しいオムツをさっと作り、穿かせてくれる。
どうやら餌候補じゃなくて、本気で私を育ててくれるようだ。
設定では人族を選んだから、蜘蛛が産んでくれた訳じゃないだろうし、蜘蛛が産むのなら卵だ。
孤児を選んだのは私だし、人のいない所での生活を望んだのも私。不思議ではあるけど、受け入れるしかないんだろうな。
蜘蛛の足下を見ると、スライムが私の汚したオムツを綺麗にしていた。蜘蛛がスライムを飼っているんだろうか?
ふと見ると、私の白いスマホがあった。けど、自力で動けない私に、それを手にする事は出来なかった。
他にする事もなかったので、周りを見た。よく見えないけど、蜘蛛母さんと蜘蛛の巣、それにスライムしか見えない。あとはここが木の上らしい事しか分からなかった。
ふと思い出して、自分を鑑定してみた。
マナ(0)
人族 孤児
レベル 1
HP 1000 MP 2000 力 500
精神 1000 敏捷 500 幸運 10000
特殊スキル
言語理解 自動回復 悪意感知 スマホ
アクティブスキル
属性魔法 結界魔法 付与魔法 補助魔法
時空魔法 魔眼 索敵 魔力操作 錬金術
鍛冶 テイム 気配隠蔽
パッシブスキル
家事 解体 状態異常耐性 物理耐性 槍術
称号 転生者
主神サマルトの加護 アカトリエルの加護
うん。ステータスは設定通り。アカトリエル様、加護をありがとうございます。
主神サマルトのことはよく覚えてないけど、加護をありがとうございます。
言語理解は転生者だから。自動回復はサマルト様の加護のようだ。悪意感知はアカトリエル様。そして何故かスマホが特殊スキルになっていた。スマホがスキルとか良く分からないけど、残ったポイントは後でも振れるらしいから、有難く使わせて貰おう。
蜘蛛母さんも鑑定してみたけど、弾かれた。レベルとかの縛りがあるのかもしれない。
後は魔法が使えない。こっちは年齢の縛りかな?力もそんなにある感じはしないし、赤ちゃんの今は、制限がかかっているようだ。
魔眼は使えるし、魔力操作なら出来た。
魔眼で蜘蛛母さんを見ていると、蜘蛛糸を吐き出した後に何か空気中から取り込んでいるようだった。
鑑定では魔素と出た。これが魔法の素になっているのかな?
蜘蛛母さんは脚を動かして布を作っている。この肌触りのいい産着も蜘蛛母さんが作ってくれたのかもしれない。
蜘蛛母さんは、出来た布を私にかけてくれた。
(ありがとう。私を育ててくれて)
喋れるようになったらちゃんと伝えたいな。




