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帰るべき場所

 亜空間の中、誰もいない中で、マナは独りきり。

 死んでから、どれ位の時間が過ぎた?…ううん。そんな事どうでもいい。


 かなりの時間が過ぎているはずだけど、何も食べる気がおきない。

 誰もいないツリーハウスを見るのが怖い。生きていたとして、拒否されたら?


 堂々巡りだ。独りになって、この世界で生きるのが怖い?


 独りになりたかったはずだ。周囲の人全てが私を傷つける。…ううん、友達も、少ないけどいた。

 でも私といると虐められるから、自分から離れた。


 辛くて、辛くて、ただ辛かった。


 この世界に生まれ変わって、周囲に人はいなかった。大きな蜘蛛の魔物。ルビー母さん。

 森の奥に迷い込んだスカイを助けて、ルードのお母さんに攫われた時は生きた心地がしなかったな。

 ジェットコースターでさえ怖いのに、ドラゴンに掴まれて空を飛ぶなんて、心臓が止まらなかったのが不思議な位だった。

 ルードは、今よりも大分小さかったな。それでも人よりは大きいけれど。

 群れから虐められていたユキを助けて、凄く強い魔物も現れた。

 その頃だったかな?みんな眷族になってくれたのは。

 

 そのあと学校にも通ったっけ。常識知らずの私を、同じ寮のみんなは受け容れてくれた。

 人の中で育っていない、異質な私は虐められると思っていた。

 でも違った。この世界の人達は優しい。貴族とか盗賊とか、度し難い連中もいるけど。


 学校を卒業して、本当に色々あった。進化したり、テイムできない筈のゴーレムのアカツキが仲間になってくれて。

 あの時、アカツキを強化する為に錬金術を使いまくらなければ、ユキを助ける事はできなかっただろう。

 サマルト様は分かってて、アカツキを与えてくれた。

 どうしてそんなに依怙贔屓してくれるのかな?私には勿体ない位。


 大好き過ぎるから、怖いんだ。失った事を知る事が。拒否される事が。

 それでも、私の帰るべき場所はツリーハウス。人の住めない、魔の森の奥地。


 みんながいなくても、一人で住もう。もしみんながいたら、謝ろう。

 それでも拒否されて、殺されても文句はない。生きてていてくれたら、それだけで嬉しいんだから。

 それを確認もせずにこの先生きてなんていられない。


 おおらかで、全てを受け止めてくれるルビー母さん。

 きらきら大好きだけど、いまいちセンスが分からない、ちょっと臆病なスカイ。

 気ままで甘えっ子、純真で最高のもふもふのユキ。

 ひたすら従順なアカツキ。

 過保護過ぎるルードは。物知りで一番頼りになる。でも実は、一番寂しがりやかもしれない。私に対する独占欲は、シスコンの範疇を超えちゃってる。

 そのルードが私を拒否するなら、もう仕方のない事だろう。ぱっくんされて、むしゃむしゃ食べられてもいいや。

 

 戻ろう、ツリーハウスへ。


 立ち上がり、亜空間移動した。

 

 扉を開けて、飛んできたスカイに体当たりされた。

 ユキには泣きながら尻尾で絞扼されて爪をたてられるし、ルビー母さんには大きな胸で窒息させられそうになり、離さない為に蜘蛛糸で巻かれたけど、蜘蛛の糸はトラウマだよ…。

 そして竜に戻っていたルードは、口を開けて、大きな舌で舐めた。

 ぱっくんされなかった。


「マナ…本当に良かった」

「生きててくれたにゃ!」

「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

「謝らなくても、無事でいてくれたら、それだけでいいのよ」

(むしろ謝るのは僕の方だ。僕の判断ミスで、マナを死なせた)


 ずっと動かなかったアカツキも、起動した。

(ア…ルジ、確認。我ガ主!)

 そのまま走ってきてホールドされたら、みんな死んじゃう!と思ったけど、そうはならなかった。ただ再会を、喜んでくれた。


「三日も音信不通で、それでもマナの帰る場所にいるべきだと思って信じて待っていたのよ」

 三日?うだうだ悩んでいたのは一日もなかったはずだ。

「分からないけど、生死を彷徨っていたのかな?サマルト様にも会った気がするし。記憶も最初は混濁してて」

「服もボロボロね。寒くない?おなか空いてない?」

 そういえばこの三日間、食べるどころか、水すら飲んでいない。

 人間て、食べなくても1週間は生き延びるけど、水を飲まないと三日で死ぬんだよね?私…よく生きてたな。あれ?死んでいたんだっけ?


 とりあえず亜空間に入って果実水を飲む。…あれ?どうしてみんな入ってこないの?


 ああ。私の馬鹿。今の私達には繋がりがないんだから、入れる訳ないじゃん!

 亜空間の扉を開けると、みんななだれ込んできた。

「繋がりがないって怖いわね。亜空間に入っただけだと分かっていても、姿が消えて怖くなったわ」

「マナ、眷族にして!」

 腕の中に飛び込んできたスカイに、マナは戸惑う。

「スカイ…みんな。私は主失格だよ」


「とりあえずご飯にしましょう?ルードもそんな顔してないで、手伝って」

 ルビー母さんはため息をついて次々に指示を出す。

 私も手伝おうとしたけど、顔色が悪いからと、一切手出しさせてもらえなかった。

 

 ハイオークの生姜焼きに野菜たっぷりスープ。茶碗蒸しまで出された。

 正直、食欲がない。スープを少し飲んで、茶碗蒸しにスプーンを入れる。

 あ…蟹入り茶碗蒸しじゃない。白身魚とキノコの茶碗蒸しだ。という事は、ルビー母さんが作ったんだ。

 料理の腕も抜かれたかな?たくさんの料理を一緒に作って、きっと必死に覚えたんだろうな。私を喜ばせる為に。

 そう思ったら、泣けてきた。愛されている事を実感して、涙が止まらない。

 隣に座っていたユキが、涙を舐めてくれる。ざらついた舌がちょっと痛いけど、私の思い違いを気づかさせてくれる。


「ありがとう、みんな。変わらず大好きでいてくれて」




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― 新着の感想 ―
[一言] お帰り、マナ。 君はもっと強くなれるよ。 心も体も。 ・・・身長は・・・創造神(作者様)に頼んでおくれ。
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