生き返ったけれど…
体力の全てが主に流れ、眷族全てが主を失った。
蘇生石が砕け、復活するも、繋がりは戻らない。
スカイとユキは影から強制的に放り出され、ルードは自分の亜空間の中に二人を入れ、動きを止めたアカツキを、ルビーに手伝ってもらい、亜空間に入れた。
ツリーハウスに戻り、現状を確認する。
マナとの繋がりは完全に切れていた。
付けてもらった名前も意味をなさない。
「マニャー!」
ユキは、泣いている。スカイは混乱して飛び回っている。ルビーも呆然としている。
指示を、間違えた。亜空間に入れば攻撃を受けなかったかもしれない。
次は食べ物の階層じゃないからと引き返せば良かった。
ルビーと同じクラスの、災害級の魔物。街一つを潰すのにも容易い、それを抑えられるのは上位竜か、特殊に進化して、レベルも高いルビー。それとアカツキか。
場合によっては属性竜よりも強い魔物。
「みんな…とりあえず落ち着いて、マナはまだ、帰って来ないと決まった訳じゃないわ」
(でも…僕達の繋がりも消えてるよね?)
「それは、マナを通して繋がっていたからだ。マナは神々に加護を貰い、只人から進化もしている。そう簡単に死ぬとも思えない」
「帰って来るにゃ?」
「…信じましょう。少なくとも私達は生きているんだもの」
ああ…私は死んだんだな。
目の前の河には、沢山の白い魂が流れている。
眷族達は?先に行ったのかな。こんなに早くに死なせてしまってごめんなさい。
命が安い世界だと分かっていたのに。特にあのダンジョンは、魔物も強くて。
まさか死にたかった前世よりも早くに死ぬ事になるなんて。
河に、足を踏み入れる。
「あ、待って下さいー。場所が違いますよー?」
やけにのんびりとした声に振り向くと、自分と同じ歳位の少女がいた。
「もー、寝ぼけているんですかー?ここは一般の魂が来る場所ですよー?」
「…へ?」
「しかも死んでないじゃないですかー?」
「あの、あなたは?」
悲愴な雰囲気が台無しである。
「グリムですよー?金色魂を持ってるあなたは、どこの世界の神様ですかー?」
「ううん、神様とは違って…えっと、死んでない?」
「もう、まだ寝ぼけているんですかー?いいから、主神様の所に行きましょう!」
強引に手を引かれて光る雲の上に登ると、魔法陣が光り、何やら作業しているサマルト様の手前にいた。
「おや…マナ!グリムも」
サマルトは手を止めて、マナを見る。
「うん。体が死んだショックに魂が弾き出されたんだね。でも蘇生石の効果でまだ体は生きているよ。あまり長く離れるといけない。私が送ってあげよう」
サマルトはマナを抱きしめて頭を撫でる。
「まだここに来るのはちょっと早いからね。戻りなさい」
マナは、ふっと消えた。
「新神さんですかー?」
「今のグリムと同じ立場かな?そのうちちゃんと紹介するよ。グリムは仕事に戻って」
「見習いの後輩?むー。私が忙しいのはサマルト様のせいですよー!」
自分の亜空間の中でマナは目を覚ました。辺りにはたくさんの血が飛び散っている。
あれ…生きてる?サマルト様と、可愛い女の子に会った気がする。
体が酷く怠い。せめてベッドに入ろう。
う…無理。歩けない。
目の前にあったもふもふクッションをたぐり寄せる。
みんなは…。みんなって、誰?
意識が遠のく。出血は止まっているみたいだけど、血が足りていない。
「知らない天井だ」
いや、天井がない?私は…コンビニ強盗に刺されて…服に穴が開いている。血もべっとりと付いているし。
体は動く。頭も体も重いけど、動けないほどじゃない。
外へ出ないと。…外へ。
ホルアスダンジョン入り口。外へ出たマナは、ふらふらと歩いてその場に倒れた。
「うおっ?!」
弓を持った男性冒険者は、いきなりの気配に飛びすさる。
「何?子供…?」
杖を持った女性は、左足側の服と、肘から下がが不自然に切れた服に首をかしげる。
「おいクマゴロー、ちょっと待てよ」
男性冒険者が呼びかけると、大盾を持ったケモミミ男が振り向く。
「おい、生きてるかい?」
同じパーティーの長剣を持った女性が、服にべっとりとついた血に、眉をひそめる。
「生きてるな。とりあえずギルドに運ぼう。その前に、クリーン。クマゴロー、頼む」
女性はケモミミから盾を受け取り薄紫色の髪の少女を預ける。
「ざっと見た感じ、傷はないな。服は切れているが、頭でも打ったかもしれん」
「ギルドカードは?」
「無いが、鎧も着けているし、冒険者だろう。んで、漆黒の牙?」
「漆黒の刃だ。この子はダンジョン入り口でいきなり倒れたんだ。血だらけだったが、マリーがクリーンで綺麗にした」
「ん…」
マナがゆっくりと目を開く。
「お?起きた…か?!」
「うそ…金色の瞳…」
「あー…大丈夫か?」
「ここは…」
「ギルドの救護室だ。冒険者…だよな?」
「?ええと…」
混乱してる。これは実際の記憶…だよね?
夢みたいだけど、私は小説みたいな世界で冒険者になって、活動した記憶がある。魔法だって、いっぱい使える。
ギルドカードは、収納庫に入っているはず。たくさんの物と一緒に。
収納庫を意識して、手を伸ばす。ああ…開いた。夢じゃない。ギルドカードを意識すると、カードが手に触れた。そのまま掴んでおじさんに手渡す。
「収納庫…!噂には聞いたが、Aランクを超えるスーパー冒険者、もふもふ家族のリーダーは、まだ小さな子供で」
「子供じゃないですよ?10歳だもん…!みんな、は?」
「パーティーメンバーか?生憎と運び込まれたのはお前さん一人だ」
繋がりが感じられない…一人がこんなに淋しいなんて。
「お、おい…泣くなって。魔物にやられたのか?何階層だ?」
「22階層…蜘蛛の魔物にやられて」
「22!いやいや無理だわ。漆黒の刃は、6、7階層をメインに戦うパーティーなんだ」
「す…済みません。迷惑かけちゃって」
「こんな時に何だが、ダンジョンの情報をもらえると有難い」
「あんたは鬼か!」
「し、仕方ないだろ!俺はギルド職員なんだ。今の所、16階層までの情報しかない。オーガのフロアを超えられた奴がいないんだ」
「オーガ…の次は、シュークリームだった。その次はずいぶん前だから覚えてないです。19階層は海苔です。次のボスがキメラで、21階層はサテュロス」
「うわ…キメラとかサテュロスとか、恐ろしいな。俺達には無理だわー」
「で、蜘蛛の魔物か」
「えっと…ブラッディースパイダー?」
「はあぁ…そりゃ勝てんわ。そんな災害級の魔物まで出るのか。正直…海苔はいいが、シュークリームには魅力は感じない。無茶は禁物だと伝える。情報提供有難い」
漆黒の刃のパーティーにもお礼を言って、マナはギルドを出た。
疲れた。帰ろう。
帰るって、どこに?
ぞくり、として体が震える。帰って誰もいなかったら?
眷族達の命を吸い尽くした。今の自分が生きているということは、そういう事だろう。
蘇生石も、砕けている。加護が間に合わなかったという事だろう。
目の前が真っ暗になる。マナはとりあえず亜空間を開いて中に入った。
夥しい量の出血の跡。生きてる方がおかしい。
クリーンをかけて綺麗にして、亜空間の中を見渡す。
大好きな空間。眷族達みんな私の空間が好きだった。
キッチンセット、ソファー、みんなで寝た大きなベット。
炬燵の上には果物が乗っている。その向こう、大きな絨毯を敷いた所はルードがいつも寝てて、ユキが玩具やアカツキを追って、走り回っていた。
このままツリーハウスに移動して、誰もいなかったらどうしよう?蘇生石は全員に持たせた。
少なくとも不死を持つスカイは生きているはずだ。
だとしても、私はみんなの命を得て生き返った。そんな主、普通なら要らない。私だって逆の立場なら、もし生きていたなら、こんなに頼りなくて、自分勝手にみんなを振り回して、その上でまたのこのこ顔を出すなんて、厚顔無恥甚だしい。
どうしよう…怖い。凄く怖い。合わせる顔がない。




