ヤキモチと、ダンジョン
ダンジョンは、河を少し遡った先の滝の下にあるらしい。
「じゃあ準備しないとね!」
準備は、もちろん食料品の買い出しだ。マナが持ち込んだ魔物の素材をギルドで買い取ってもらったので、お金は充分にある。
復活したスカイが、頭の上にとまる。
(えー?そこなの?スカイ)
(マナの肩は狭すぎてとまれないし、マナを守るように言い聞かせられてきたから)
まあ、別に重くないしいいか。
買い物するのにはもう一つ理由がある。手に入れた異世界野菜が、ゲーム内でも育てられるようになったのだ。だからちゃんと鑑定して、少しずつでも買って着々と種類を増やしている。
魚も種類が増えるかと思って、買っている。
「マナ?ダンジョンに何日潜るつもりなの?」
「もちろんクリアするつもりだよ!」
「…いや、別にいいんだけどね」
「用事あるなら、スカイがいるから帰っても大丈夫だよ?」
「!いや別に、暇だし?」
何かスカイが来てからルードの様子が変だ。
夕方のうちに進んで、ダンジョンに入る前に亜空間で寝る事になったけど、何でルードが私の亜空間に入ってくるの?
「仲間外れは嫌だ」
いや、私が亜空間を覚えてからは別々に寝てたじゃん?
「子供?」
「竜族では子供だよ」
まあいいけどさ。亜空間は広いし。
ルードは自分の亜空間から持ってきた絨毯を敷いて、竜に戻る。
スカイが驚いているけど、今更だと思う。
私はスカイと一緒にベッドに入った。スカイはもふもふで暖かい。
もう少し家具も揃えたいな。
次の日の朝、起きてびっくりした。人化したルードが、私とスカイの間に潜り込んでいる。
「ちょっとルード!スカイにヤキモチとか、本当にどうしたの?」
今までの一線を引いた関係はどこに行ったんだ。
「んー…まだ眠い」
ルードは結構お寝坊さんだ。は、いいんだけど、人を抱き枕にするのはやめてほしい。
しかも力強いし。
「もう!今日はダンジョンなの!起きて!」
ルードの腕の中で暴れると、やっとルードが目を開けた。金色の瞳で、じっと私を見る。
「…あれ?僕ベッドに入ったっけ?」
「寝ぼけてる?朝起きたら私は抱き枕にされてたんだよ」
「そうだったんだ…何かごめん」
「ルード、スカイにヤキモチ焼いてる?」
「僕が、ヤキモチ…?ああ、うん。そうかもしれない」
「かもじゃないと思うけど?」
「うーん。…マナは僕が魔の森まで守って、ちゃんと送り届ける予定だったのに、鳥に邪魔された」
「スカイは私を心配して来てくれたの。従魔なんだから、仲良しなのは当然だし」
「…むう。それは分かるけどさ」
気を取り直して、ダンジョン攻略だ!
上層部は他の冒険者の姿も沢山見えた。スカイが戦っている所を初めて見たけど、並の冒険者よりも強い。
10階層を過ぎた辺りから、冒険者の数も減ってきた。
ダンジョンの魔物は、ゲーム内と同じで死体が残らない。そして経験値もパーティーで均等に入る。
スカイの広範囲雷魔法でエリア内のシルバーウルフを殲滅させる。
ドロップアイテムの牙や皮を集めながら、スカイを褒める。
ルードは、殆ど戦闘に参加しない。一度、私が危ない時があってその時に白い光を放ったけど、何の魔法か分からなかった。
ただ、あれ以来自分の亜空間には入らず、私の亜空間で竜の姿で寝ている。
さすがに寝ぼけたのは初日だけだったけど、仲間外れは面白くないみたいだ。
次は15階層。降りてみると中は水浸しだった。私の膝位まで水がある。
(感電が怖いから、ここで雷魔法は禁止だよ?)
(んー?わかった!)
魔物は20センチ程度の魚で、鑑定ではソードフィッシュと出た。顔の先が尖った槍の先端のようになっていて、突き刺して攻撃してくる。
風魔法と闇魔法のダークショットで攻撃して、近くに来た奴は、短剣で刺す。
魔物の殆どはルードに近寄らない。見てると軽い威圧を放っているようだ。
ドロップアイテムの角と魚の切り身を大量に仕入れて、次に進む。
レッドスパイダーという毒持ちの小型の蜘蛛を魔法でやっつけていく。こいつは隠密性が高いし、壁も天井も関係なく襲ってくるから注意が必要だ。
余談だけど、人の姿がない時は、偽装を切っている。練習にはなるけど魔力を常に使っている状態になるし、注意も払ってなきゃいけない。
次の階層には、ポテ芋の魔化した植物が襲ってきた。壁も保護色なのか、深緑色で、注意していないとポテ芋弾を放たれる。プロ野球選手並の剛速球で、芋だからと侮れない。
1メートル以内に入ると攻撃してくるので、魔力視で注意深く見ながら魔法を当てる。弾として発射された芋は普通に食べられそうなので、頂く。
ドロップアイテムはもちろん芋だ。
20階層はボス部屋だ。巨大な亀が高速回転してウォーターカッターを放ちながら襲ってくる。
スカイの風魔法も、私の闇魔法も効かない。重力魔法で押し潰そうとしたけど、甲羅が硬過ぎる。
見かねたルードがあの白い光を放つ。聖魔法、かもしれない。
その一撃でビッグトータスは倒れた。
後に残ったのは巨大な甲羅。防具の素材になりそうだけど、亜空間用のお風呂としても使えそうだ。
「そろそろダンジョンも、厳しくなってきたんじゃない?」
「うー。確かに今の魔物は強かったけど、中ボスだし」
次の階層では、ダンジョン内に雨が降っていた。スカイを亜空間に入れて、向かってきたウォーターベアーの頭に重力波を当てる。
「マナ、疲れているだろう?今日は早めに休んだ方がいい」
ウォーターベアーの皮を回収して、頷いた。




