一つはできた?
ダンジョンのボス部屋で、ルードはアースドラゴンと相対した。退化した翼に前脚は太く、四つ足で立つ姿は、同じ種族には見えないなと思った。
すぐ後ろには女王が先が三つに分かれたミスリルの鞭を持っている。それを守るようにアゼルルが立ち、最後尾にはプリメーラがいる。
走り寄るルードに、ドラゴンは前脚で潰そうとする。加速してあっさり切り抜けて、腹部に切りつけるが、鱗に阻まれて、浅い傷しか付けられない。
「ガウッ!」
女王の鞭が、顔面にヒットした。傷を付けた女王にドラゴンが前脚を振るう。
アゼルルの大剣が女王を守り、前脚を傷つけた。
プリメーラの魔法が顔面に当たるが、効いているようには見えない。
ルードはオリハルコンの長剣に魔力を込めた。それをそのままドラゴンに叩きつけると、ドラゴンの姿が消えた。
ドロップアイテムは、竜の肉だ。
爪は出なかったけど、ダンジョンに入る前に渡された爪は既に収納庫に入れてある。肉も入れて下層に続く扉が開くのを見た。
「あーん。私も竜の肉、食べたかったですぅ。ちょっと位分けてもらえません?」
「欲しければ自分でとどめを刺すんだな」
「そうだな。プリメーラ、学生時代より腕が訛ったんじゃないか?」
「ええー。フィーちゃんが、強くなっただけだもん」
その呼び方をされるのも、何十年ぶりか。女王に就いてからの何年かは、仕事を覚えるので精一杯だった。
その何年かの間に前王の銀獅子の一族に何度も命を狙われた。
他の国とは違い、世襲制ではないのだから、強者が王になるのは当然。それが分からぬ馬鹿共は、容赦なく牢にぶち込んだ。
前を歩く青年は、ひょっとすると、その自分よりも強者かもしれない。
人化して、能力が封じられているにも関わらず、我々だけなら苦戦は免れない竜種をいとも簡単に倒してみせた。
戦ってみたい。けれど、彼は魔族ではない。
ソースを作っていた手を止めて、ルビーはうどんの生地を捏ねているユキを見た。
「ちょっと作り過ぎじゃない?」
「今日は味噌煮込みうどんを作るにゃ」
味噌は…まだ大丈夫ね。とはいえ、味噌はマナが熟成小屋で作る方が早い。
「そういえば、お味噌汁の具材も切っておいた方がいいわね」
出来たソースを瓶に入れ、冷ましておく。
「大変にゃ!シジミーがもういないにゃ!」
「あら本当ね。なら、ダンジョンに狩りに行きましょう」
シジミーの味噌汁はマナも大好きなので、切らさずにおきたい。
(スカイ?私達は湖内ダンジョンに行くわね)
(ふうん…なら、僕はジンギスカンを採ってこようかな)
(そうね。久しぶりに食べたいから、たくさんお願いね)
聖別の魔道具は何とか作る事ができた。でももう一つが、出来ない。
うう…神経の使い過ぎで頭が痛い。
リカバリーを使っても、体力回復じゃないからか、効かない。
少し…休もう。
ダンジョンコアが力を取り戻しても、乱れた魔素から離れる事が出来ない。
久しぶりに道具屋を覗いて見たら、小豆の種が売っていた。モチゴメの種籾を買いに来た時は、気がつかなかった。
赤豆じゃお赤飯には向かないと思っていたから、嬉しい!ささげじゃなくても充分だ。
それに諦めていた粒あんも作れる…ふふふ。
何でかな…もしかしたら料理をたくさん出荷した事にも関係があるのかも。
よし!気分転換にも料理を作ろう!
収納庫を見たら、ルビー母さんが料理をたくさん入れてくれていた。
マナは、まだ出荷していない料理を選んで一人前ずつ出荷箱に入れた。
ちょっと現実逃避かもしれないけど、もう今日は一つ課題をクリアしたし、料理に力を入れる事にした。
うーん。蟹が足りない。けどもうすぐ夜だし、海は明日にしよう。
最後に熟成小屋の中を全部出荷して入れ替えて、お酒の種類を考えて、米を入れた。
これで日本酒が出来るはずだけど、お酒はそもそも作る回数が少ないのでよく分からない。
ベーコンやハム、ジャーキー等はすぐに無くなるので、すぐに肉を部位に分けて熟成小屋の決まった位置に置いた。
それとソーセージ用の肉も。ここに魚を置けば魚肉ソーセージになるのかな?あとで試してみよう。
うう…今日は疲れた。戻ろう。




