新年と、断れない依頼
スカイの花火の置物をちょっと改造してみた。とはいえやった事は簡単。下に発光するだけの魔道具の発動基盤を取り付けただけだ。
魔力を流すと、赤や青など、色々な色に光る。クリスマスツリーみたいだな。
クリスマスと言えばケーキとプレゼントが貰える日だと思っていたけど、実際は神様の誕生日だから、この世界にクリスマスがないのは当然だね。
サマルト様の誕生日にも何かお祭りがあったらいいのに…そもそも誕生日が分からないか。
新年の光が見られるのは今日だ。普通の家庭では、ごちそうを食べたりとか、ちょっとした新年イベントみたいな事をやるようだ。あとは初詣みたいに、教会に出掛けたり。
去年は私、寝てたから今年はおせち料理でも作ってみようかな。
蒲鉾と、伊達巻きなら作れそう。白身魚もあるし。
栗きんとんも作れるし、黒豆…はないから、赤豆を煮ればいいか。
もち米がないから餅は無理だな。あとは筑前煮と、羊羹。
ルビー母さんにも手伝って貰おう。
裏ごし用のザルを作って、亜空間に戻った。
スカイの置物をテーブルの上に置いて魔力を流す。
「わ…凄い!僕のきらきらが、本当にきらきらしてる」
「へえ。普段のガラクタとは比べ物にならないな」
「綺麗にゃー」
「収穫祭を思い出すわね」
「明日には新年だから、おせち料理を作りたいの。みんな手伝ってくれる?」
「僕も出来るのあるかな?」
「そうだね…魚の裏ごしとかやって貰おうかな?ルードは材料を切ってね。作る物がいっぱいあるから、農園用のコンロも持ってきた」
ユキには、今晩用の蕎麦を打ってもらっている。
「随分とやる事が多いのね」
「ん…本当は出来ている物が買えたら楽なんだけどね」
「なら、買ってくる?」
「ううん。そもそも売っていないよ。私が作る料理は前世の物がほとんどだから、食生活も随分と違うし」
「そうね。確かにマナの料理は、町で食べるものと違うと思っていたわ」
「他の町に広めたりはしないの?」
「む、無理だよ…私が知らない人に料理教えるとか、絶対無理!」
「まあ、そういう所はマナだな…」
マヨネーズを教えたのは、ソーニャだからだ。まだあれから1年しか経っていないのに、随分久しぶりな気がする。
夜になり、みんなでツリーハウスの天辺に上った。
重なり合う二つの月。それが完全に重なる時、新年の光が見える。
今年は平和な年になるといいな。
みんなで炬燵に入っておせち料理をつまむ。
「この蒲鉾?面白い食感ね。それに美味しいわ」
「肉が少ない」
本当にルードはそればっかりだな。食べたければ収納庫に入っているんだから、食べればいいのに。
「にゃーはこのウサギの林檎が気に入ったにゃ。可愛いにゃ」
「皮のこの部分は耳?」
「まあ、こっちで言えばラビットかな?元いた世界では、凶暴なのはいなかったけど」
マナは、好物の伊達巻きを口に入れる。独特の形じゃなくてロールケーキみたいになっているのは、巻き簀がうまく作れなかったからだ。前もって作っておけば時間に余裕もあったのに。
味が変わる訳じゃないからいいのさ。
その夜は、みんなで団子になって寝た。
その数日後、簡易転移装置から紙が吐き出された。
ギルドからの、依頼の紙だ。
「…は?何この依頼」
〈教会の高僧が、ウィンゼル島の崩壊を予見した。調査に行ってほしい〉
マナは、紙をルードに渡した。
「ちょっと、本当の事かどうか判断しかねるね。マナは神様から何も聞いてない?」
スマホに、いつの間にかメールが届いていた。日付を見ると、去年の暮れの頃だ。大変な時期だったから、気がつかなかったのもまあ、仕方ないかな?
「ギルドからの依頼は、本当みたいだよ」
〈やあ、マナ。大変な時期にメールしてごめんね。実はウィンゼル島の様子がおかしくてね。猫ちゃんが大丈夫になってからでいいから、ちょっと調べて欲しいな〉
マナは、文面通りに話した。
「ウィンゼル島って、どの辺にあるの?」
「どの辺ていうか、魔族が住む島デモンズイルの北西で、空に浮かぶ島だよ。エルフの国のずっと南辺りかな」
「そ…空に?それって、物凄く高い所?落ちたら死んじゃう?」
「落ちてもマナは、飛翔のスキルもあるし」
そんな何でもない事のように言わないでよ!高い所とお化けは大の苦手なのに!
「マナ?まさか神様からの依頼を断ったりしないよね?」
嫌ああぁ…!!




