エリクサー
ツリーハウスに戻り、炬燵で丸くなっているユキを撫でる。
「もう少し待っててね、ユキ」
「にゃ…無理、しないでにゃ」
「うん。大丈夫」
マナはブーツだけを履き替えて、スマホの中に入った。
ブラッドピジョンの血、スカイの尾羽、ルードの鱗、それと世界樹の葉…材料は全て揃っている。
ブラッドピジョンの血が少ないから、分量的には…3回。
もし失敗したらと思うと、怖い…私、すごく緊張してる。
図鑑を見て手順を確認して、深呼吸した。
乳鉢を持つ手が震える。もう一度深呼吸して、気合いを入れ直す。
よし…あとはここに魔力を少しずつかけて…!!
ボン!と音を立てて、ビーカーが爆発した。
ああ…失敗だ。どこが悪かったのかな…そもそもが緊張しすぎだったのか。
(鉱石採掘完了シマシタ)
アカツキが戻ってきて、いつものように種類別に鉱石を収納棚に入れてくれる。
(次ハ何ヲシマスカ?)
「とりあえずここにいて」
相変わらずなアカツキを見ていたら、少しだけ緊張が薄れた気がした。
そうだ。アカツキの予備の魔宝石も作らないと。
黒竜さんに渡した物は、言えば返してもらえるかもしれない。少しは認めてもらえたみたいだし。
緑茶を入れて、羊羹を出して食べる。栗入りだ。
緊張しなくてもあと二回はチャレンジ出来るし、最悪、ブラッドピジョンを探して討伐してもいい。
とにかく私は運だけはいいんだから、大丈夫!
リトライ。今度は失敗したりしない。大人しく座っているアカツキを見ると、僅かに首をかしげた。ちょっと可愛い。
ひんやりと冷たいボディに触れると、体の熱もスッと引いた。
よし!今度こそ!
慎重に、慎重に…!よし!
看破 エリクサー 不死の霊薬とも呼ばれる。
1回の成功で5本分。一つは出荷箱に入れて、あとはユキに使って成功したら、収納庫の肥やしかな?
戻ったらもう、夜中だった。入った時がお昼過ぎていたから、仕方ない。
もふもふクッションの上で丸くなっているユキを見て、ちょっと驚いた。呼吸をしていないように見えた。
「…うにゃ?」
「出来たよ…飲める?」
ユキの体を支えながら、小瓶を渡す。
「に″ゃ!?」
「どうしたの!」
「すごい味にゃ…マニャ…ありがとうにゃ」
「ユキはもう、大丈夫?」
「うん…多分?」
「お腹空いてない?」
「大丈夫だよ。パンとか入っているし、私はもうしばらくしたら寝るから」
ルードは…大丈夫みたいだな。少なくともケガはしてないみたい。
「ユキなら母さんが見ているから、マナはもう休みなさい。何かあったらすぐに起こすから、任せて」
「ん…ありがとう」
今日は大変な一日だった…すごく疲れた。少しでも、眠ろう。
翌朝起きてみると、ユキはもう元気だった。
「にゃー!体が嘘みたいに軽いにゃ」
「ユキー、いっぱいもふもふさせて!」
思う存分もふもふして、ユキの感触を堪能した。
良かった。本当に。
夕べは結局何も食べないで寝てしまったので、すごくおなかがすいている。
筍の炊き込みご飯だ。嬉しい!
味も丁度いい。普段はしないお替わりをして、味噌汁を飲んだ。ジャガイモの味噌汁が、疲れた体を癒してくれる。
食べ終わる頃になって、やっとルードが起きてきた。
「ユキは元気になったみたいだね」
「うん。良かったよ。ルードはあれから大丈夫だった?」
「大丈夫じゃない…しごかれてボロボロになったよ」
「それは…お疲れ様」
「あ、そうだ。師匠から魔宝石、預かってきた。ただ、充填されてた魔力は、世界樹の為に貰ったって」
「別にいいけど…役に立つの?」
「マナの魔力だからね」
私の魔力は、食料や肥料にもなるのか…。ちょっと複雑。
スカイが寄ってきた。
「マナ、あのね、ユキの回復祝い」
スカイが収納庫から出したのは、硝子細工で出来た立体的な花火。
「マナのあの魔法、すごく綺麗だったから、絶対に再現したくて。こうやってライトの魔法を当てると、もっと綺麗でしょ?」
「本当だ。すごいね、スカイ。まともなのも作れるじゃん!」
「まともなのもって…」
「あ、ごめん。これは、テーブルの真ん中に置いておこう?綺麗だし」
落ち込むスカイをもふもふしてご機嫌をとった。
とにかく、平和な日常が戻ってきて、本当に良かったよ。




