小さな結界碑
ツリーハウスに戻って、ちょっとびっくり。大きな蜘蛛の魔物が、新しく巣作りしていた。
「キラースパイダーの分際で!」
おおう。一瞬の出来事だったな。
ルビー母さんの怒りの一撃で、キラースパイダーはあえなく撃沈。
「マナ?ちゃんと見ててくれるんじゃなかったの?」
「ごめんなさい!海遊びが楽しくて、つい」
「はあ…もう!仕方ないわね…待って!アイツの糸片づけるから、しばらく進入禁止!」
ルードのいつも寝ている広場に行くと、ルードの鱗が落ちていた。それを何気なく拾って、考える。
「やっぱり、ここを守る結界の魔道具か、ゴーレムを作るべきかな…」
「作れるの?」
「今は無理。結界は亜空間移動でしか進入出来なくなるし、ゴーレムには私以外が攻撃されちゃう」
「それは面倒だね。ゴーレムの方は論外だし」
「だって、錬金術まともにやり始めてから半年も経たない素人だよ?私」
「その素人が魔宝石作っちゃうなんて、信じられないんだけど」
「偶然だよ。咄嗟の換えがあった方がいいかなと思って、もう一つ作ろうとしたら、全然出来なくなっちゃった」
「普通はその、奇跡の1個を作り出すので精一杯なんじゃないかな」
「まあ、じゃなきゃ国宝級の宝になんてならないよね」
ルードが人の脚の上に頭を乗せてきた。
「こら、何さり気なく膝枕してるの」
「ここ僕の寝床」
む、確かに。
「亜空間入るにゃ?」
「今日はちょっと冷えるし」
当然のようにルードも入ってくるけど、まあいい。
ホットミルクを作ってみんなの分も並べて、ソファーでスマホとにらめっこ。
どっちが現実的かと言えば、結界の魔道具の方かな。
みんなで出掛けている間だけ、進入禁止にしておければいいんだよね。
出来ればエルフの国みたいに常時発動型の方が夜も安心だけど。
改めて気がついたけど、憑依の魔法を使うのに使う並列思考は、私が眠ってしまうと発動しない。
まあ、これは考えてみれば当然なのさ。本人の意識がないのにスキルが動いている訳がないのさ。
となると、やっぱり何か作らないと、不安だよね。前の依頼みたいに一ヶ月も空けてたら、他の魔物に家を乗っ取られる可能性もある訳だし。今回もそれで失敗したし。
ユキのお腹をもふもふしながら考えていたら、ルビー母さんが入ってきた。
「もう大丈夫?」
「巣はあまり破られてなかったから平気よ。ごめんなさい、マナ。思わず怒っちゃったけど、無理な事もあるわよね?」
「うん。私が寝ている間は無理だから、常時発動型の結界で、私達以外が入れないようにする物を作れないかなと思って」
「無理しないでいいわよ?巣の管理は母さんの仕事だし」
「でもそうすると、母さんは亜空間で眠れなくなるじゃない?」
「自然の中でならそれが普通だけど、マナといる時間が減るのは嫌ね。これも眷属化の影響なのね」
「私だってルビー母さんと一緒にいたいから、何か考えるね」
という訳で、スマホ内の工房にやってきた。アカツキには採掘をお願いして、思いついた方法を試してみる。
思いついたのは、ギルドカードが個人の魔力を特定している所だ。
仕組みは割とあっさりした物だったけど、これを6人…ううん、5人分認識できればいい。アカツキの魔力は、パスを通して魔力が行くので、私と同じ性質になっているのだ。
うん。私の腕でも作れそうだな。結界はそんなに魔力使わないから、魔晶石で充分だし。
出来たのは、ミニチュア版の結界碑。あとはみんなに魔力登録して貰えばいい。
そうだ。図鑑埋めるなら、エリクサーもだよね。材料はもう揃っているし。スカイの尾羽もこの前抜けてたから持っているし。
材料を並べるけど、オート制作されない。ん?変だな。
図鑑を調べてみたら、材料が足りない上に最高難易度の制作技術が必要だから、私の今のレベルでは無理みたいだ。
足りない材料は、世界樹の葉。黒竜さんの所にあるけど、私が頼んでも貰えなさそうだな。嫌われてるし。
まあ別に、無理に作らなくてもいいし。今作るのは無理だと思うし。せめて魔宝石が安定して作れる位上手くならないと、無理そう。
まだ魔晶石のストックはあるので、試しに練成してみた。
やっぱり砕けた。砕けても使い道があるからまあ、いいかな。液体になったぐにぐに金属は、分離しても、魔晶石の粉は取り出せないし、弾を外したら諦めるしかない。
ぐにぐにの国にはまた行って、買ってこよう。
アカツキが戻ってきたので、鉱石を練成してインゴットにして収納庫にしまう。
あとは米だけ収穫して種を蒔いて終わりにしよう。
みんなに簡単に結界碑の説明をして、魔力を登録してもらう。
「これってどの位持つの?」
「フル充電で、1週間位かな?長期依頼でも戻れる時に充電すればいいし」
「充電?魔力は充填て言うよね?」
「そこは突っ込まなくてもいいよ。ルード…とにかくこれで、ツリーハウスは安全になったから、安心できるでしょ?」
「僕の寝床まで届いているの?」
「ごめん…半分位。効率優先にしたから」
「責めてないよ。寝てても警戒は怠っていないから平気だよ」
警戒、してたんだ…。ルードって結構無防備に見えるのに。
魔の森で警戒しない方がおかしいよね。常在戦場の加護が便利過ぎて。いけない。ちゃんと自分で警戒しなきゃ。




