旅とギルド
ここは夢の中だろうか?
(ごめんね、マナ。まさか私に係わりのある者が君の平穏を壊す事になるなんて)
光ってて何も見えないけど、神様…?
(別に神様のせいじゃないです。それより、色々ありがとうございます)
目を覚ますと、ルードが不思議そうに首をかしげていた。
(さっき、強い神気を感じたんだけど…マナ?)
(神気って?)
(マナは何も感じなかったのか。母様の所かな?)
亜空間から外に出ると、空がうっすらと白んでいた。
(娘、お前は神の関係者かえ?)
(いや別に、関係者ではないと思いますけど)
(先程神の声が聞こえた。娘の自由を奪うなと。何百年ぶりの神の声か。お前が何者かは分からぬが、神が気にかけている者を拘束する訳には行かぬ。今すぐ魔の森に返そうか?)
(いえ、歩いて帰ります。ルードが…ええと、あなたのお子さんが送ってくれるそうなので)
(そうか?魔の森は遠い。遠慮は要らぬぞ)
(本当に、大丈夫です!)
あんな思いする位なら、何日かかっても、歩いて帰った方がまし!
(魔の森に住んでいるんだ。あそこも魔素が濃いから、強い魔物が多いだろう?)
(うん。ミノタウロスは美味しかったねー)
皮は固いのに、中の肉は程よく筋肉質で、サシも入っていて、次に食べる時にはステーキソースを自作した程だ。
(この辺にもいるから、旅の間の食料用に狩っていく?)
(おー!それは嬉しい!私にも戦わせてね!)
(大丈夫なの?)
(重力波を頭に当てれば脳みそが麻婆豆腐になるから、意外と楽に狩れるよ?)
(…本当に5歳児?)
(正確にはまだ4歳。あと少しで5歳だよ)
(えええ…)
(私には前世の記憶があるの。ここと違って魔法のない世界だったけど、知識はあったから、ポイントで全部の魔法を覚えて、生後間もなくから魔力操作の訓練していたから、魔法に関しては自信あるよ)
(は?…ポイント?前世?良く分からないけど、マナが強いのは分かったよ)
(ううん、私はまだ弱いよ。ルビー母さんには全く敵わないし、ルードも強いでしょう?)
(そりゃあ僕は、ドラゴンだからね。半人前とはいえ、人に負けるほど弱くはないよ)
久しぶりのミノタウロス戦!軽いレベルアップ酔いは感じたけど、以前程じゃない。それに殆どルードが狩っていたし。
10匹近く狩って、血抜きだけして収納庫にしまった。
一匹はルードがつまみ食いしていたけど、魔石は出したので、頂く事にした。
(マナ、余っている武器はない?そろそろ人の姿をとっていないと、騒ぎになるからね)
(作るよ。希望の武器は?)
(え…作るって、今から?)
(しばらく待っててくれればいいよ。そんなに時間はかからない)
(なら、長剣で…!ええっ?!消えた…マナ?マナ!)
ミスリルは多くストックしてあるので、簡単に作れた。それとステーキソースを作って、外に出た。
「うわ?!…マナ、良かった」
「すぐに戻るって言ってたじゃん?これでいい?」
「ミスリルの剣?これってかなり高価なんじゃ?」
「このスマホは、私のスキルでもあるの。そのゲームの中に入れて、中で野菜や果物も育てているし、ミスリルも採掘で採った物だから元手はかかっていないよ」
「…その小さな板がスキルで、野菜も採掘もできるって事?」
「うん。ルビー母さんもスカイも中に入れなかったから、中を見せてあげる事はできないけど、中で実際に過ごしている時間よりも外の時間の方が遅いみたい。たまに中に入る事もあるけど心配しないで」
「…なんか色々と規格外なのは分かったよ」
「規格外?確かにスマホはチートアイテムだね。元々私のスマホだけど、神様がプログラムに介入したっぽいし」
「え…やっぱり神の関係者なの?」
「違うと思うけど、気にかけてくれてるみたい?」
「凄いね…ある意味母様より」
「凄いのはスマホだよ。私は普通」
謙遜じゃなく心の底からそう思っているんだな…まさか母様以外に凄いなんて感想を抱くなんて。しかも人族の子供に。
確かに普通の子供じゃない。しかも世間知らずで他人を疑わない。…これは僕が注意しないとダメだな。
「これから人の町に降りるけど、マナは僕から離れないように。まずは魔石をお金に換えて、マナのベッドを買おうか」
「そっか…なんにせよ、お金は必要だよね。異世界初の町かあ…ちょっと楽しみ!」
「偽装は切らさないように。それとマントは持っている?…うん。とりあえずそれを着て、僕達は兄弟って事にしておこう」
「そうだね。説明しにくい関係だし」
石塀の中の町に入る前に、入街税という物を払った。ちなみに4歳の私は無料だ。ルードは17歳と偽っていた。確かに見た目はそれ位だ。
町は結構大きく、馬車も走っている。馬車の通る広い道は、石畳が敷いてある。
(こら、キョロキョロしない)
あっという間にお子様抱っこされて、自由を奪われてしまった。
「手続きが面倒だからギルドカードを作ってしまおう」
おお!あれは獣人かな?犬耳と尻尾が生えている。
(マナ、目!)
いけない。ちなみに偽装をかけると茶色の髪と瞳に見えるようだ。ルードも金色の髪と瞳から、グレーの髪と黒い瞳に見える。
思ったよりも派手な色はないみたいだな。あ、でも今すれ違った人の髪は赤かったな。
目だけじゃなくて、薄紫色の髪の毛も目立つかもしれない。
ギルド内は、異世界定番の作りになっている。ボードに貼られた依頼書に、カウンターにギルド職員。その向こうには買い取りカウンターがあり、反対側はちょっとした食堂になっている。
「ギルドに登録したいんだけどいいかな?僕と妹の分」
「妹さんはお幾つですか?」
「今は4歳で、もうすぐ5歳になります」
「…年齢制限はありませんけど、自己責任ですからね?」
「大丈夫です」
水晶に手を触れると何度か光り、シースルーのボードが現れた。
「結構ですよ。犯罪歴はありませんね。お名前と使用武器をおっしゃって下さい」
「僕はルード。長剣も使うけど、魔法も使う。妹は魔法と短槍かな?それと二人でパーティー登録をしておいて」
「かしこまりました。本日は依頼を受けられますか?」
「素材の買い取りだけで」
ルードはショルダーバッグから、魔石とミノタウロスの角を出した。結構な数だ。
「!登録したての若者が狩れる魔物じゃねーぞ?」
「家族の分がほとんどですから。金貨以下は現金払いでお願いします」
「は、白金貨3枚と大金貨一枚、金貨22枚と銀貨30枚になります」
「白金貨一枚だけこっちのカードに入れてもらえますか?」
ルードはマナのカードを出す。
「ちょっとルード…お兄ちゃん!」
「いいの」
(買い物もした事ないだろう?色々入り用だから)
確かに。カード払いなんて前世でもないよ。




