眷属達と新しい依頼
次の日も、マナはスマホを手に取った。ルードの尻尾が、スマホを弾く。
(マナ、たまにはブラッシングして)
「もう、ルード…スマホが壊れたらどうするの!」
(それって壊れるの?)
「壊れ…る?」
どうかな?普通は10年も使えないよね?バッテリーもダメにならないし。
スマホを拾って確かめても、傷一つない。
(ごめん。壊れてない?)
「大丈夫だけど、精密機械だから、衝撃とか与えちゃだめなの!ね?」
(うん…ごめん)
マナは、収納庫から鱗用のブラシを取り出す。…これも随分へたってきたな。
けど鱗用のブラシってあんまり売ってないんだよね。
創造魔法から作れないかな?キュアから、傷口を治すんじゃなくて、物を…
「再生」
(ええっ!生きてない物を治すなんて普通は不可能なんだけど!)
「創造魔法から、なんかできちゃった」
(えええ…)
「ほら、体伏せて」
(いいの?!)
「スマホを乱暴に扱ったのは駄目だけど、しばらくブラッシングしてなかったし。尻尾パタパタしないで」
パタパタというか、バタンバタンて感じ。もはや凶器。
ブラッシングを始めると、ルードはうっとりと目を閉じた。
「ぐにぐにの国から帰ってから、ずっとスマホにこもりきりでごめんね」
(今は、魔道具作りに嵌まっているの?)
「嵌まって…いるのかな?」
単に図鑑を埋めようとしている訳だけど。結局究極の目的は魔宝石だし。
まあ、なんにせよ、みんなには淋しい思いさせちゃったと思っている。
「それにしても長くなったね」
(長くって…まだ大きくなるよ)
「もう大きくならなくていいよ!ブラッシングが大変なんだから」
決めた。今日はみんなとゆっくり過ごそう。
ルードはブラッシングが終わった時の長い姿勢のまま、寝てしまった。ああも無防備にしていると、最高位の竜なのに、簡単にやられちゃうかも?
「スカイー?何作ってるの?」
「!マナ…あのね、ブローチ作ってみた」
「…へえ…ここの所、こうすればいいかも?」
羽根が広がったみたいに見える。
「あ、いいね!さすがマナ…!ピッ」
スカイの腕を強く引くと、鳥になってしまった。
そのままもふもふする。
スカイの立派な尾羽が目に留まる。…不死の霊薬、か。材料はあっても作れないだろうな。
「マナ?マンナンの実は、どう使えばいいの?」
「煮物でもいいけど…あ、生食も大丈夫そうだね。なら刺身で…あとね、煮物にする時、ここをくるっとすれば、手綱こんにゃくになるんだよ?」
「面白いわね!」
「あとはこう、から煎りして…」
ルビー母さんとこうやってキッチンに立つのも久しぶりだな。
「にゃー?マニャ、今日はスマホに入らなかったにゃ?」
「うん。ユキは狩り?」
「収納庫に入ってるにゃ!もふもふするにゃー!」
突進してくるユキを受け止めて、毛に顔を埋める。
「ユキは、お日様の匂いだね」
きっとこの世界のお日様には、紫外線は含まれていないんだろうな。気にしてなかったけど日焼けもしないし、アルビノのユキには紫外線は火傷を起こしてしまう。
私達の中では力も弱いけど、劣ってるとは思えない。ユキは素早さに突出しているし、精霊魔法も使える。
これはもう、個性だよね?スカイは未だにお箸を使えない。
不器用な芸術家っていうのも変だけど、どの辺が芸術なのか分からないけど、これもスカイっぽい。
こんにゃく料理をつまみながら、久しぶりにゆっくりと過ごす。
「あら?マナ、手紙よ」
手紙はギルドからで、トラス皇国の西にある山にワイバーンが大量発生したので、一度ギルドに来て話を聞いて欲しいと書いてあった。
「トラス皇国は、マロの実の国だよね」
「さすがに食べ物が絡んでいると、よく覚えているね」
失敬な。
「トラス皇国の西…か。それでギルドから依頼が来てるんだから、国からの正式な依頼だと思うけど…少し厄介かな」
ルードは少し考えこむ。
「もしかすると、形だけの依頼になるかも?トラス皇国は、冒険者が軽んじられている。
教皇が治める国で、聖教騎士団がいるからだけど、その西の山の向こう側には、エルフの国があるんだ。
だから、国土を広める為にワイバーンが邪魔って所じゃないかな?」
「じゃあ、行かない方がいいよね?」
「むしろエルフの国、サマルカンドへ行く事になるかも?…ただその場合、通常ならトラス皇国を通るしかないんだ。それこそ魔の森を縦断するしかない。とりあえず、ギルド本部には行ってみよう」
「メーダの町のギルドじゃ駄目なの?」
「いや、近くまで来てたって事にして、明日行ってみよう。どうせ亜空間は知られているんだから」
エルフは、一度見てみたいと思ってたんだよね。




