登山
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ダスカー王都でも薬草の納品を頼まれた。薬草が育たない事は聞いていたので、多めに持ってきてある。
「こんなに?助かるよ」
「何でしたら、ポーションとかも買って頂けますか?」
「それは助かるけど…これから冒険に出るのに、いいのかい?ていうか、随分品質がいいけど、どこで手に入れた物?」
「知り合いに錬金術師がいるので」
「へえ。分かった。なら遠慮なく買い取らせてもらうよ。振り込むから、カードを渡して」
買い取りカウンターのお兄さんが、ギョッとした顔をする。
「!…これ、君のギルドカード?…いや…他人のギルドカードに振り込んでも仕方ないけど」
「…私、10歳に見えません?」
「い、いえ…!ちょっと、待ってて下さい!」
あれ?買い取りのお兄さん、どこ行くのかな?厄介ごとは嫌なのに。
ギルドで、丁度私達が登ろうとしている山に、スノーベアの上位種、スノーグリズリーが出たと聞いた。
あの白丸もふが大きくなったとか、どんなのだろう!いや、相手は魔物だって分かっているけどさ。
興奮気味のマナを、ギルマスと買い取りカウンターの青年が不安そうに見る。
「…仕事振る相手間違えたか?」
「けど今、Aランク冒険者は彼らしかいませんよ?」
「マナは大丈夫ですよ(多分)美味しい食べ物ともふもふが大好物なだけだし」
「大丈夫よ。それとも私達の実力を疑うの?」
「い、いや…頼む」
不思議なパーティーだ。もふもふ家族と言いながら、獣人の彼女がリーダーではなく、一番小さな子供。
だけど、ギルド本部が認めるスーパー冒険者だ。やってくれるだろう。
ギルドを出たマナは怒っていた。
「もう!私だって魔物を前に油断したりしないってば!」
「マナはパルタの町ダンジョン10階層の、巨大なモコモコを前にした時のことを忘れたのかな?」
「うっ…」
それをいわれると何も言えないのさ。
この辺の野に生えている野菜は、寒さに強いシロナが目立つ。パンになる小麦は町の壁の中側に作られているけど、その他の野菜は、壁の外側だ。
誰が管理している訳でもないけど、種まき位はやっているんだろうな。
田舎の町では野菜も余った土地に植えられている。そういう物が、店で売られたりするんだろう。
輸送費の分高くなるけど、マナは買っている。野菜よりも肉の方が安かったりするけど、これ位しか使い道がない。
お酒は、ユキ以外は少しずつ飲んでいる。スカイがお酒に弱いのはお約束みたいな物だ。
ユキは、果実水の方がいいみたいだ。私は専ら炭酸ジュース。
二人しか飲まないし、そんなに飲む訳じゃないから、熟成小屋で作る位で充分かな?
この山には木が殆ど生えていない。岩山で、それでも物陰にはユキタケと呼ばれるキノコが生えている。
それを採取しつつ、私の背丈よりも高い岩にジャンプして登る。
もうここまで来ると、スノーグリズリーが怖いのか、誰も登ってこない。
「もう少し近づいたら、マナはアカツキを出して入って」
「でもアカツキではこの岩場は不利じゃないかな?」
前に戦った魔熊程じゃないけど、強い魔物の気配を感じる。
「前の魔熊のように、魔法が効かない時はアカツキの力が役に立つ」
「ん。分かった」
リーダーは私だけど、作戦を立てるのはルードの役目だからね。
広めの岩盤に出たので、アカツキを出した。勿論ヒヒイロカネの、魔改造した方だ。
椅子の下に付けたコイル状の仕掛けで、揺れは随分改善された。
スノーベアが進化した姿とは思えない凶悪な面構えに、マナは本気を出した。
ユキとスカイの魔法の援護に、ルードがまず近づいて、剣を振るう。
傷はついたけど硬い!でも、魔法は効いているみたいだし。
ルビー母さんの糸が、暗黒魔法を纏う。糸にダークソードを纏わせたのか。考えたな。
手足に絡めた糸が、スノーグリズリーを傷つけた。
アカツキに乗って近づいたマナは、頭を狙ってロケットパンチを出す。
頭を潰されたスノーグリズリーは、地面に倒れた。
魔法が効くならアカツキは必要なかったかもしれないけど、別にいい。
魔晶石に魔力を充填して、アカツキを元のように、影にしまった。
「うん。マナが暴走しないで良かった」
「それって…アカツキは保険て事?」
「保険て?」
「私がもふもふできないように、アカツキに乗せたって事?」
「ええと…」
ルード、目が泳いでいるよ。
まあでも、今回は私もあんまり怒れないかな。スノーベアの前例があったし。
「ごめん、マナ」
「むう…なら、この山を天辺まで登るよ!」
倒したスノーグリズリーを収納庫にしまって、歩き出す。
「にゃー、また登るにゃ?」
「ユキは、私の背中に乗る?」
アルケニーに戻ったルビー母さんの背中に、ユキが飛び乗る。
「そろそろ夜だけど、まだ登るの?」
「天辺から、朝日が見たい!」
新年じゃないけど、きっといい景色が見られるはず。
「それに何の意味があるの?」
「ルビーは飛べないから見た事ないと思うけど、高い所から見る朝日は格別だよ」
スカイの言葉に頷く。
「そういう事」
私は笑顔でルビー母さんと手を繋いだ。
薄く伸びた雲間から見えてくる朝日は最高に綺麗で、ルビー母さんもユキも感動していた。ルードとスカイも、みんなでこの景色を見られて嬉しそうだ。
みんなと手を繋いで、マナもいつまでもその景色を見ていた。




