ルード
スマホで地図を検索してみたら、かなり遠い事が分かった。
「体調が戻ったら、僕が連れて行ってあげるよ?」
「嫌!怖くて死ぬかと思ったんだから」
「ええと、名前はマナでいいのかな?」
「うん。あなたの名前は?」
「無いよ。僕はまだ半人前だから、名前をもらえないんだ。適当に呼んでいいよ」
ゴールドじゃストレート過ぎるかな?…でも名前呼んだら従魔化しないよね?
「じゃあ、ルードで」
あ、良かった。従魔にならなくて。テイムの条件は、私が力でねじ伏せるか相手の魔物が望めばだから、大丈夫だったんだね。
「うん。分かった。飛ばないで行くとすると、馬?それともさっきの鳥みたいに他にも従魔を呼べるの?」
「ううん。スカイは収納庫を持ってて、私の大事なスマホを持ってたから偶々呼べただけ。偶然にね」
「ふうん?良く分からないけど、ならやっぱり僕が一緒に行く必要があるね」
「私はここに戻るつもりはないよ?そういえば番って何?」
「分かり易く言えば夫婦かな」
「…は?じゃあルードのお母さんは、私とルードを結婚させる為に連れて来たの?」
あり得ない。当事者が初対面なのに。
「本当に、困るよね。僕にとっては100年なんて大した事ないけど、マナからしたら、一生を棒に振るようなものなのに。例え後から気持ちが変わっても、僕は人の中で生きられないし、子供だってできる訳ないのに」
「ドラゴンの寿命ってどれ位なの?」
「正確には分からないけど、母様はもう一万年近く生きているんじゃないかな?僕はまだ55年だけど」
若者に見えて実はおっさん?
「何か今、失礼な事考えなかった?とにかく僕の姿はマナが大人になっておばあちゃんになっても変わらないんだ。だから人の中では暮らせない。嫌だろう?」
私も人の中で生きるつもりはないけど、人外と結婚するつもりはない。
「まだ5歳児なのに、将来を決めるつもりはないよ」
「えー!本当に、まだ生まれたてじゃないか!その割にはしっかりして見えるけど」
「まあ、魔物に育てられたりとか、普通じゃできない経験積んでいるから」
「魔物って…マナは人、だよね?」
「そうだよ。私、孤児なの。生まれてすぐに捨てられたっぽい。親の顔も覚えてないから、今はアルケニーのルビー母さんが、本当のお母さんだと思ってる」
「…アルケニー?」
「母さんは強いよ?ドラゴンとどっちが強いかは分からないけど」
「ドラゴンの方が強いよ。まあ安心して。マナを番にするつもりはないから」
「良かった。ルードがいい人で」
「インペリアルドラゴンはこの世界の神の代行者だからね。どうして母様がマナに執着したかは分からないけど、その目かな?」
「え?何で目?」
「金色は神に係わりがある者だけが持つ色だと言われているからね。その金色の瞳は偽装した方がいいね」
あれ?私の目は黄色じゃなかったかな?見ようによっては金色にも見えるのか。
「偽装のスキルは持っている?」
「持ってないけど、覚えられるから平気」
マナはスマホを操作して、100ポイントで偽装をとった。
「こんな感じ?」
「…驚いた。それは何?」
「スマホだよ。魔道具みたいな物かな?」
「いや、そんな物は…。もしかしてそれが母様の言うマナの力の秘密なのかな?」
「かもしれない?正直私は只の子供だから、ドラゴンに攫われるような覚えは全くなかったんだよね。もしかしたら私の本当の親は有名人かもしれないけどね」
「王様とか?」
「あはは。さすがにそれはないと思うけど、ルビー母さんによると私はその有名人に似てるらしいから、偽装が覚えられて良かったよ」
「覚えたてだからかな?気を抜くと目が元に戻るから、気をつけて」
「ありがとう」
練習が必要かな?それと今晩はどこで寝よう?ルードに一晩中抱っこも頼めないし。
とりあえず作りおきのご飯を出して、食べた。
「食べる物は大丈夫そう?寝る所だけど、とりあえず僕の亜空間に入る?何もないけど、夜露は防げるよ」
「入ってみたい!」
「はは。君は少し警戒心を持った方がいいと思うよ。まあ、僕は何もしないけど」
亜空間は、いつかアカトリエル様と入った無機質でほの暗い空間にそっくりだ。あれもアカトリエル様の魔法だったのかな?
広い空間には、本当に何もない。ルードはドラゴンに戻った。
(僕にもたれて眠るといいよ)
ドラゴンの鱗は少しひんやりと冷たいけど、その鱗の向こうに温もりがあった。




