ポーラと魔晶石
ポーラに会うのも久しぶりだな。
そして、この町も変わらない。って、卒業してから1年も経ってないから当たり前だけど。
定期的に手紙のやり取りはしてるけど、今日も連絡も無しに来てしまった。
「いらっしゃいませ」
ポーラのおばあちゃんだ。ポーラはお出かけかな?
「あの、私…マナと言います。ポーラさんはご在宅でしょうか?」
何かのセールスみたいだ。でも緊張するんだもん。
「あらあら。ご丁寧にどうも。ポーラはこっちよ」
おばあちゃんはそう言って奥の工房に案内してくれる。
「!マナちゃん。来てくれたの?」
「突然ごめんね。薬を作っているの?」
乳鉢の中には、すり潰した葉が入っている。
「うん。私の作品も、やっとお店に置かせてもらえるようになったんだ」
ポーラがエプロンを外して立ち上がる。…くっ、負けた。いや、身長では勝っているけどさ…小柄なのに、発育がいい。羨ましい。
「途中で止めちゃっていいの?」
「ん。どの道失敗作だから」
「普通は道具を揃えて作る物なんだね」
「え?」
「小瓶に水魔法で水を入れて、合成。これでいいんじゃないの?」
肩に手を置かれて、ため息を吐くポーラ。
「マナちゃんが非常識なのは分かっていたけど…その前に、錬金術のスキルを持っていた事も驚いたけど、それは今更かな。…おばあちゃん!これ見て」
「!まあ。大成功じゃないの、ポーラ」
「違うの。これマナちゃんが作ったの!しかも合成の力だけで」
「まあ…あらあら。マナさんは凄い錬金術師だったのね」
「ぜ、全然凄くないです。独学で…道具がなかったから。最初は鍋とか使ってたんですけど」
「…鍋…錬金術は、いつから始めたの?誰に教わったの?」
「ちょっとマジックポーションを作った位だよ。2歳位かな?スマ…本を読んで、独学で」
「スマホン?」
ちょっと惜しい。
「本を読んだんだよ。独学だから、誰かにちゃんと教えて貰おうかなと思って」
「うーん。おばあちゃん、どう思う?」
「そうね。上手になる為には数をこなす事も大切だけど、使う人がこの薬で良くなって欲しいという気持ちも大切よ」
「マナちゃんが作りたいのは薬?魔道具?」
「えっと…魔晶石」
いきなり魔宝石とか言ったら驚かれるもんね。
「ええっ?魔晶石って…でもマナちゃんは、魔法を使うのに、杖も使ってなかったよね?」
「それは、この腕輪に術式制御の付与も付けたからだよ」
「…付与魔法…」
あ、いけない。
「それだけのスキルを手にする為にどんな無茶したの?!」
「無茶は…」
生前の事が無茶と言えるかどうか分からないけど。
「偶々、色々な偶然が重なっただけだよ…心配かけてごめんね?」
「魔晶石は、私みたいに何十年と錬金術に携わっていても難しいものよ。使う道具も特にないし、ただ、沢山の魔石が必要になるわね」
「おばあちゃんは作れるんですか?」
「昔は幾つか作った事があったけど、成功率も低いし、私程度の腕前の錬金術師なら、結構いるものよ?」
「作って見せてもらっていいですか?自分の作り方と比べてみたいです!」
マナは、魔の森で採れる魔石を二つ渡した。
「こんな立派な魔石、見たことないわ。それに必ず成功するとは限らないのよ?」
「あ、大丈夫です。それは自分で採った魔石ですから。私、魔の森に住んでいるので」
「おばあちゃん、マナちゃん相手に一々驚いていたら、心臓持たないよ?私も魔晶石を作る所見てみたいな」
「分かったわ」
マナは、魔眼でおばあちゃんをじっと見た。すごく綺麗な魔法の使い方だ。自分みたいな力技とは違う。
合成された魔石が、綺麗な球形になる。
「本当に何年ぶりかしら?でも成功して良かったわ」
経験の差、かな。私みたいに魔力が多いからってそれだけで作っていると、どうしても雑な感じするし。
「すごく参考になりました!ありがとうございます。あの、いくらお支払いしたらいいですか?」
「構わないわ。魔石の質が良かったから成功したようなものだし、元々マナさんが持ってきた魔石だし」
「じゃあ、この魔晶石と交換でどうですか?おばあちゃんの魔晶石には及びませんが」
「!これを、あなたが?」
「マナちゃん…もう出来ているって事は、まさか魔宝石を作ろうとしてるの?」
「うん…どうしても必要で」
「どれだけ魔石が必要になるか分からないんだよ?それを魔の森で集めるなんて…」
「家族も集めてくれるし、そんなに無茶じゃないよ?」
「でも、売ればお金持ちになれて、町に住む事もできるじゃない!」
「…私達は、森がいいの。ごめんね?」
「謝らないでよ。でも、無理は本当にしないでね?」
「うん。大丈夫」
大丈夫。私は一人じゃないから。




