芸術って難しい。
ギルド本部を出て、見覚えのある顔に、足を止める。
「バレッタ伯爵」
護衛依頼を受けて、一緒にスーレリアまで行った人だ。
「そう警戒なさらずに。折角森から王都まで出てこられたのですから、我が家でお茶でも如何ですかな?」
「いえ。もう帰るので」
「息子もあなたに会えるのを、楽しみにしているのだ」
ルードが、私の前に出る。
「マナは帰りたがっている。あまりしつこいようなら、王に訴える」
「私はただ、お茶に誘っただけだ」
「要らないです。ラクルさんとも特に会いたくありませんし」
「くっ…無礼な!平民上がりのたかが準爵が、伯爵に楯突くとは!」
「そのたかが準爵風情に執着しているのは何故なんだろうな?まだ子供だから、どうにでもなると思ったか?」
後ろにいても分かる、ぞくりとする程の殺気。向けられた方はたまったもんじゃないだろう。
「マナをどうにかしたかったら、まずは俺を排除するんだな?」
慌てて逃げていく伯爵に、私はほっと息を吐いた。
伯爵がどれだけ偉いのか分からないけど、権力者なんだから、聖なる色とかそういうのにこだわらなくてもいいじゃん?ていうか、サマルト様が自分に似せて作っただけで、私は本来臆病で、人付き合いも苦手な子供だ。
多少チートなのは認めるけど、スマホのお陰だ。
何で私がギルド本部にいる事が分かったのかな?門番に教えてもらったとか。
ルビー母さん達は…大丈夫そう?楽しそうな気持ちが伝わってくる。スカイは一緒にはいないみたいだけど、きっときらきらを見ているんだろうな。
「ルード、ありがとう」
「ん。僕がマナを守るのは当然だよ?」
抱っこされそうになったので、ルビー母さん達の気配の方に向かって走った。
「マニャ、見てにゃ」
赤くて小さい、サクランボ位の実。ユキが買ったそれを一つ食べてみた。
食感はグミみたいで、味はキャラメル?
「ミグの実って言うらしいにゃ。スーレリアの北のダスカーの国からの輸入品にゃ!」
「おおお…!ユキ、お手柄だよ!これは木になるの?それとも蔓?」
「お店の人も知らないらしいにゃ。寒い所で育ったものだにゃ」
うん…農園はいつも暖かいから、育つかな?そしてどんな風にはえているか知らないと、出て来ない可能性もある。
「ふふふ。マナは今すぐダスカーの国に行きたそうね?」
「う…依頼終わらせたら速攻行くかも!」
とりあえずは農園に種が売っていないかチェックだな。
スカイはどこかな?
ガラス細工店の前で、何か困っているみたい?
「どうしたの?スカ…ラズリ」
ああ、偽名とか面倒!
「マナ、あのね、欲しいきらきらがあったんだけど、お金が足りなかったから、僕のきらきらコレクションと交換して貰おうと思ったんだけど…」
「あの?足りないなら、出しますよ?」
「とんでもない!これだけの芸術品、私の作品には釣り合いませんよ!ですからお金をお支払いしたいのに、困ってしまわれて。しかもご自分で作られたとか!是非私に売って下さい!」
…え?芸術?
「マナ、僕どうしたらいいの?」
「…ラズリが要らないきらきらコレクションを、いくつか出してみたら?」
「い、要らなくないのはないけど…これとか」
「おお…!これも素晴らしい物ですな!」
「ならそれを、お店の方の決めた値段で買って下さい。そうしたらその綺麗なガラス細工を買えるんじゃないかな?」
「この二つを売って頂けるので?ありがとうございます!!」
芸術って難しいね。店長さんが損しなきゃいいけど。
「うーん、でも」
(スカイはまた作れるからいいんじゃないかな?ガラス細工はスカイは作れないし)
「分かった!」
「では、お一つ金貨3枚の値段で買わせて頂きます。また何か作品が出来ましたら是非当店にお売り下さい」
「芸術って難しいな。店主が損しなきゃいいけど」
ルードが、私と同じ事考えている。なんか笑える。
「ガラクタが売れたにゃ?」
「潰して金塊にすればそれ位の価値はあるかもね?」
二人とも何気に酷いけど、私も同意見。
喜んだ店長さんが、ガラス細工を只でくれた。スカイは凄く喜んでいるけど、本当にいいのかな?




