小さな幸せ
ルードは、次の日にあっさりと帰って来た。
どう反応していいか分からない。なんとなく、このまま帰って来ないんじゃないかなと思っていたから。
「どうしたの?マナ」
「えっと…お帰り、でいいの?」
「え?どうして疑問形なの?」
「だって、すぐに彼女の所に行くのかなって。あ、先に言っておくけど、眷属は解けないよ?無理だし」
「何で?」
「解き方が分からない」
「じゃなくて、どうして僕がマナの傍を離れると思ったのさ」
「あ、あの人と…結婚するのかなって」
「前にも言ったと思うけど、人族に興味ないし。ずっとマナのそばにいるよ?」
「本当に?…良かった…!」
マナは、ぎゅっとルードにしがみついた。
「マナ…淋しかった?昨日来たのは、もしかしてヤキモチ焼いてくれたの?」
「心配したけど…ヤキモチ?」
マナは、首を傾げる。ルビー母さんは、私の事お兄ちゃん子だって言ってた。ずっと家族の姿が見えないのは、心配だと思う。
「まあいいや。僕は潜入捜査に行ってただけ。僕が出張っていれば、マナに注目が集まる事は減るかなと思った。ちょっと微妙な年齢だし、マナは可愛いから」
そういえばそうだった。ここでは大人になる少し前に婚約しちゃう人も多い。ルードは優良物件て訳だ。
でもルードの場合、姿が変わらないから、一般の人ならともかく、貴族のお嬢様は無理だろうな。
心配して損した。…ちゃんと考えれば分かる事なのに、私は何で苛々してたんだろう?まあ、とりあえず今まで通りでほっとした。
「マナ、久しぶりにブラッシングしてよ」
「うん。ルードは頑張ってきたんだもんね」
だらんと寝っ転がるルードの鱗を、丁寧にブラッシングしてやると、目がトロンとしてくる。
「じゃあ、ユキを連れて行かなくて正解だったね」
(いや。ユキは獣人だと思われているから大丈夫だよ。貴族は人族至上主義者が多いから)
「へえ。そういう物なのか」
(まあ、金色を持っているのは僕とマナだけだから、他の眷属は大丈夫だよ。それに、偽装をかけられなくなる魔道具なんて、そんなにある訳ないし)
まあ、ダンジョン産だと思うし。ギルドの国だからそういう魔道具も集まるよね。
「戦争とかは起こらないんでしょう?」
(んー。むしろ僕達の存在を巡って争いが起きるかも?)
「でも、この国の人がばらすとは思えないし」
(そうだけど…)
あー、ルード寝そう。
(マナは…教会でスキルボード取った事は…)
「ある訳ないし。鑑定で見られるから」
(なら…)
あ。寝た。ひっくり返ったまま寝て背骨とか痛くないのかな?
お疲れ様。ルード。変に疑ってごめんね。
亜空間の外に出ると、ルビー母さんとユキがうどんを作っていた。
「あ、私も手伝うよ」
「茹でれば終わりだから大丈夫よ。スカイを呼んできて」
そう遠くには行っていない。
マナがパスを頼りに近づくと、弓の練習をしていた。
「スカイ、どう?」
「なかなか難しい。思った所に飛ばない」
「まだ、弓を使い出して1年経たないもん。仕方ないよ」
スカイの場合、人化しながらだから、余計に大変なのかも。
「ご飯にしよう…あ、こら!」
ルードに対抗してか、やたらと人を抱っこしたがる。
でもスカイの抱っこは危なっかしい。
「!わ…」
木の根で転びそうになって、私は素早くスカイの腕から飛び降りる。
スカイは、なかなか人の体に慣れない。ユキは割とすぐ二足歩行にも慣れたのに。
眷属揃っての食事は美味しかった。ルードは半分寝てたけど、いつもの場所に座って食べてるから、家族団らんが心地いいのだと思うし。
こんな心地よい時間がいつまでも続けばいいな…。




