スカイのテスト
湖内ダンジョンに入る為の魔道具が完成したようだ。口に咥えて魔力を流すと、空気が出てくる。
冒険者には格安で販売されるみたいだし、湖内ダンジョンは賑やかになるだろう。あのコウモリのダンジョンコアには恨まれそうだ。
ダンジョンコアと言えばリルの所にもしばらく行っていない。
素材を売りに行ったら、メダルの授与パーティーがあるから、全員で出席して欲しいと言われた。
「そういうのは要らないので、メダルだけ下さい」
「わ、私に言われても困ります」
それはそうだ。受付のお姉さんを困らせちゃだめだよね。
本部のグランドマスターに言うか、…ルードにもついて行って貰おうかな?あの脳筋おっさん何か怖いし。
戻ってルードにその話をしたら、そういう事を考えるのは貴族達なので、無視しちゃっても問題ないけど、どこまで分かっているか知りたいと言った。
「なら、どうするの?」
「メダルは当分無視して、僕は潜入捜査かな」
「ルードだけで?だめだよ!危険だよ!」
「僕も透明化のスキルは持っているからね。マナは、待ってて」
「嫌だよ。一人だけ危険な目に遭わせられないよ!」
「なら、マナにも課題。スカイ連れてギルド本部に行って。ちゃんと門は通ってね?そして警戒は絶対に怠らない事。スカイの命中率だと、Aランクはまだ無理かもしれないけど、別に一度しかトライできない訳じゃないし、今回は目的が別にあるから」
確かに。それにもふもふ家族のリーダーは私だから、私が行かないと話にならない。
弓は残念ながら習熟している訳じゃないけど、スカイには魔法もある。…っと、ラズリだっけか。うっかり忘れそう。
もふもふする時には切るけど、五感強化のスキルは、普段は使うようにしている。どうやら索敵に補正がかかるみたいだからだ。僅かな物音。空気の震え。魔力感知に頼らない索敵が出来るようになってきている。
面白い。もっと極めれば戦いにも役に立つだろう。
スカイを連れて、王都に入る。私のギルドカードでも、貴族、高ランク冒険者用の入り口から問題なく入れた。
(マナ、抱っこしていい?)
(駄目!今回は特に、舐められる訳にはいかないから)
それにさっきから、視線をいくつも感じる。抱っこなんてされたら咄嗟に動けない。
まだスカイのランクは最低のFランクだ。普通なら相手にもされないけど、スーパー冒険者の私の紹介だからと試験を受けさせて貰えた。
…スーパー冒険者ってやめて欲しいんだけどな…商品が安く買えそうな名前だ。
私も横で見ていたけど、弓の練度はまだまだ低い。
魔法も、元々使えていた雷と風はかなり上手いけど、辛うじてあとは火魔法が中級レベルか。それと時空魔法。亜空間までは見せていいと言った。あとは聖魔法かな。進化してついたスキルだけど、フェニックスという種族のお陰か、練度は低くても強力な癒しの力を使える。
ただ、もふもふ家族の中ではどちらも没個性。私やルードのせいもあるんだけど、出来れば他のAランクパーティーに補助で入って欲しいとテストしてくれた人にも言われた。
「残念だがスーパー冒険者とは言えねーな。お前さんが連れてきた冒険者だからどんな奴が来るかと思ったら、意外と普通だな。まあ、無詠唱の魔法は凄いと思うが、マナもにーちゃんもあの獣人の子も無詠唱だからな。ああ。母ちゃんも暗黒魔法の使い手だったよな?」
「でもラズリはもう私達と行動を共にすると約束しているんです。余所のパーティーに入れたりしません」
「まあ、そこそこ強いから、通常依頼なら受けてもいいと思うがな…しっかしこんな強さでギルド登録も最近だなんて勿体ない。いい大人が、今まで何やっていたんだ?」
「その辺は個人情報なので。強さが求められるのは、別にギルドだけじゃないですし」
「まあ。そりゃそうだ」
「それとグランドマスター、あまりラズリを脅さないで下さいよ。ラズリは気が弱いんですから!」
「はあ。それはそうとマナ。今日はにーちゃんは来ないのか?」
「来ないですよ?それが何か?」
「いや、一度位その強さを体感してみたかったんだよ」
「なら、私と腕試ししてみます?お兄ちゃん程じゃないですけど、私もちゃんと強いですから」
「いや…さすがにギルドトップとして不味いかなと」
それはどっちの意味でかな?まあいいや。できるだけ手の内は明かしたくない。ここの本部でならセキュリティーがしっかりしてるから、侵入できないみたいだけど、外では分からない。
「それでス…ラズリは何ランクで?」
「Bだな。実績が少な過ぎる」
うーん。さすがに甘くない。ダンジョン素材の売却だけでは実績にはならないか。
「ごめんね、マナ。力不足で」
「いいの。一緒にいられない訳じゃないし」
「おいおい。子供に慰められてどうすんだよ。冒険者家業は舐められたら終わりだぞ?」
「これがラズリだから、いいんです。あ、私を狙って来る人がいたら倒していいんですよね?」
「あー…命までは取るなよ?見せしめだろう?ってか、情報収集が足りないな」
「もうすぐ10歳の子供だから、舐められるのは仕方ないですね」
まあ、さすがに私も、町中で魔法を使ったりできないし。
本部を出てマナは、小石をいくつか拾った。
(スカイは手出ししちゃだめだよ?)
一応隠れているみたいだけど、バレバレなんだよね。
マナは隠れている塀や屋根に小石を投げた。
去って行く気配と、それでも留まる気配がある。
依頼主は複数人いるのだろう。
王都にはジーナもいるから、なるべく問題は起こしたくない。
ジーナに迷惑はかけたくないからね。




