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女神の贈り物


ヒデオはクシャクシャになっているハンカチで涙を拭うと、クロウと名乗った黒い男の手を取った。


「イイダ ヒデオと言う。」


「ああ。よろしく。」


その手はひんやりとしており、不思議な手触りだった。


「俺が、大地の女神に選ばれた…?」


「ああ。そうだ。」


「あなたは何のことを言ってるんだ?俺はシルエのように魔法も使えないし、特別な力なんて何もない。ただの男だ。


誰かと勘違いしてるんじゃないのか?」


「ここまで来れたのに本当にそう思っているのか?」


クロウは不思議そうに言った。


「それはどう言う意味だ?」


「そうか…。まだ、気づいてなかったのか。まぁ、限界以上の力なんてそう出そうとは思わないからな…。


それなら、今から思いっきりジャンプしてみてくれ。それで、俺の言っていることの意味がわかるはずだ。」


クロウはそう言った。


「ん?ああ。」


何のことを言っているのだろう…。そう考えながらもヒデオは膝と腰を曲げて思いっきり力を込める。すると、何やら不思議な感覚。体から何か湧き上がるような不思議な感覚がした。


そして、力を解き放ち、思いっきり跳躍する。


すると…。


割れる地面。消える視界。頭に鈍い衝撃。そしてなぜか落下する感覚。


「え?なんだ?落ちてる?」


「おじさん凄い!」


シルエの賞賛する声が聞こえる。


ヒデオは混乱した。全く自分の置かれた状況に気がついていなかったのだ。


それも仕方のないことだった。

ヒデオは、自分の今の身体能力と元の身体能力の差に気がついていなかったのだ。


彼は、跳躍した。但し、その跳んだ距離は普通ではない。ヒデオは気がつかないうちに女神像よりも高く跳躍し、頭を天井にぶつけてしまったのだった。


その距離約30メートル。

10階建のビルに相当する高さにヒデオは地面を一蹴りするだけで到達したのだ。


当然頭をぶつけたので、その後、落下することになる。


ヒデオは今まで感じたことのない浮遊感に恐怖を感じながら無様な格好で地面へと落ちていく。


「うわぁあああああ!!死ぬぅうううう!」


そして、地面に激突しそうになったその時。


颯爽とクロウがヒデオを受け止めた。


「大丈夫か?」


真っ黒なイケメンにお姫様抱っこされる45歳中年。


「あ…。ああ。」


ヒデオは恐怖で汗だくになりながらも苦笑いで返した。



少し時間をあけ、ショックから固まってしまっているヒデオをシルエがなだめているとクロウが話し出した。


「どうだ。これで嫌でもわかっただろう。お前がここに呼ばれた理由が。」


「どうして俺にこんな力があるんだ…?若い頃は運動は得意だったが、あんなに距離を跳躍できるなんて人間の域を超えてるじゃないか…。」


胡座を組んで座り込み、ヒデオは考えるように言った。


シルエが氷嚢をヒデオの頭に当てている。


「それが女神の加護というものだ。」


「…仮にそうだとして、どうして俺にそんな力が…。」


「さぁ。それはわからない。でも、お前がガイアテルスに愛されているのは間違いない。」


「よくわからないな…。」


「今は、まだそれでいい。」


「そうか…。」


「ヒデオ。お前はエレウテリアの生まれではない。よって、マナを供給する為の受容体はないが、お前には無尽蔵に蓄えられた魔力の存在する魔臓があるようだ。」


「じゃあ、おじさんには魔法は使えないけど、身体能力に魔力の補正がついて、限界を超えた力が出せるって事だよね?」


「ああ。その通り。」


「どんどん話が進んでいくが、俺には全く理解できないんだが…。そもそも魔臓ってなんだ?名前を聞く限り、魔力を貯める臓器のように聞こえるが…。」


「わかってるじゃないか。話が早くて助かる。」


クロウは牙を見せてニッと笑った。


「…そんなものが体の中にあるなんて、なんだかあまり実感が湧かないな。」


「そうだろうな…。魔臓はお前にとっての心臓の事を言ってるんだからな。別に臓器が一つ増えたわけではない。」


「え?そうなのか?」


「ああ。まぁ、そんな事よりも、お前には話しておかなければいけない事がある。」


「ん?なんだ?」


「その前に。

シルエ。お前は自分の部屋に戻っておいてくれ。」


「え?どうして?私は聞いちゃダメなの?」


「まぁ、そうだな。大人の話ってやつだ。お前にはまだ早い。」


クロウの言葉にシルエは不満げだったが、意外にも素直に従った。


「クロウ兄ちゃんが言うなら仕方ないか…。

じゃあ、私は部屋に帰ってるね!」


「ああ。悪いな。今日の夕食はシロナにお前の好物にしてもらうように頼んどくよ。」


シルエはクロウのその言葉に顔を輝かせた。


「やった!じゃあ!デザートにハニービーの幼虫のステーキが食べたい!」


「わかった。話が終わったらまた呼びに行くから、部屋でおとなしくしててな。」


「はーい!ありがとう!クロウ兄ちゃん大好き!!

じゃ!おじさんまたねー!」


シルエはそう言って楽しそうに奥の扉の方へと歩いて行った。


シルエが自動扉の奥に消えるとクロウが申し訳なさそうに話す。


「騒がしい子ですまないな…。シルエはシロナに似てしまってあんなおちゃらけた性格になってしまったが、根は素直で良い子なんだ。


少しお転婆だが、許してやってくれ。」


「いや、俺もあの明るさには助かってるよ。」


ヒデオは優しい顔で言った。


「そう言ってくれて助かる。」



「しかし、どうしてシルエに聞かせたらまずいんだ?ヒカリの話だろ?」


「ああ。【ヒカリの話だから】まずいんだ。」


クロウは真剣な顔をして言った。



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