捏造の王国 その13 国会中継やらんかい!やらなきゃ全部公開しちゃうぞ!
久方ぶりのお茶の時間を楽しもうとするガース長官のもとに再び驚きの一報が。国会議事堂、官邸の監視カメラの映像がサイバー集団アンノニマスの手に渡ってしまった。彼らの要求はガース長官をさらに慌てさせるものだった。閣僚、ジコウ党議員の失言、暴言、ヤジやら野党側の鋭すぎる突込みや質問、アベノ総理の失態を隠すため制限していた国会中継を再開しなければ、監視カメラの映像を全世界に放映するというのだ!
彼岸も近づき、すっかり春めいてきた今日この頃。
ガース長官はいそいそと桜餅を袋から取り出した。
「道明寺の桜餅もよいが、私はこの桜色の皮で餡をつつんだ桜餅が好みだ、さてこれに合わせる茶はどれがよいかな。さすがにサクラ茶はちょっとまずいかサクラの二重だし、ほうじ茶が、定番の緑茶か、麦茶もあいそうだが」
と、浮き浮きとお茶を選ぶガース長官。ストックしてある茶の缶をいくつか取り出して眺めていると、気分ぶち壊しのスマートフォンの振動音。
「う、いっそ無視してしまいたい、しかし放っておいたら、ジコウ党の危機が来るかもしれん、大げさだが」
と、文句をいいつつ取り上げると
「ああ、タニタニダ君か、なに」
と、いう返事をする間もなく、タニタニダ副長官がスマートフォン片手に飛び込んできた。
「大変です!国会の監視カメラがのっとられました!」
まさにジコウ党の危機到来。ドンピシャの嫌な予感に思わずガース長官はよろめいた。
反動で桜餅が机から落ちそうになるのをすんでのところで抑える。
「わかった、わかったから、落ち着いて説明したまえ」
またもやお茶の時間を台無しにされるガース長官であった。
「その、INUHKでも国会中継の時間を大幅に少なくしたのですが」
と、汗を拭きふき話し出すタニタニダ副長官。ガース長官は不機嫌さを何とか隠しつつ適当に返事をした。
「総理や大臣の発言を野党やら庶民どもに突かれるからな。知る権利云々といっても、どうせニュースもロクにみない無関心の税金献上民だし。バラエティやらニホンスゴーイ番組でお茶を濁せば満足の奴等だろう」
「そ、それがその、一連の総理のご発言やら大臣のツィッターやらで、国民が関心をもちまして。“俺たちの生活にかかわってるんだ、中継やれ”とか“変な政策勝手に決めないよ、嘘つき”とか“総理の発言って下手なコントより笑えるぜ、もっと見せろ”などの声がありまして。さらに裏で我々とつながりのあるメイジの党のマンマルヤマ・アホダカのドアホが、一般人にツィッター粘着し、大炎上。本人はフォロワーが増えたと喜んでいるようですが、酔ったうえでの噛みつき傷害事件までさらされ、“こんな凶暴凶悪狂犬のような奴をおいとくメイジの党はホントに政党か?反社会的集団の間違いじゃないのか”と党のイメージは大幅ダウンです。この調子ではもうメイジの党は補完勢力としても使えません」
「まったく、余計なことをSNSで発信する奴がいるから。メイジの党、いやジコウ党の全員にはSNS禁止令を出しておかねば。いや野党側にも禁止令を出さねばならん。国会中継を切り取りなしで放映する奴まで出てくるし」
「それも禁止になさろうとしたので」
「もちろんだ、野党のやつらに花をもたせることになるからな」
「それを怒ったリベラル側がその、例の、集団、アンノニマスに依頼しまして」
「なんだとー。奴ら、この間の総務省の調査でわが政府に報復だ、云々いっているからな。一応、間違えたんです、ごめんなさいと秘密裏に謝罪はしておいたが、やっぱり根に持っていたのか。で、何を」
「か、官邸と国会議事堂の監視カメラの映像を公開すること、です。国会中継を再開しなければ、全映像を世界に放映するとリベラルの一部が主張しておりまして」
「ぎょええええええ」
ガース長官は目を見開いた。一気に血圧が上昇、体温が春から夏の温度に急激に上がる上がる。真っ赤な顔で興奮気味のガース長官の様子に驚き、タニタニダ副長官は
「わー長官、だ、大丈夫ですか、こ、これ」
急いで机上の水をガース長官に飲ませた。
水分を補給したためか、それとも思考が落ち着いたのか、ガース長官の顔の赤みは少し引いてきた。
「つ、つまり監視カメラの映像はアンノニマスの奴等がすでにもっているということなのか」
「その、システムごと乗っ取られたようで。こちらも対応しているのですが、なにしろ担当の会社が下請けの事業者や会社が休みで連絡がとれないと」
「そ、そんなことまで外部のものにやらせてたのかー」
「経費削減というか、ダケナカさんの派遣会社の口利きと言いますか、その」
「オオイズミ内閣から口をだしてロクなことをしないダケナカか。今回もなんてことを」
「とにかくシステムを正常に戻すまでに時間がかかりそうです。幸いマスコミやらは押えましたし、フリーランスの記者たちもまだ半信半疑ですが、映像が公開されれば」
「すべて公開されたら、どうなるんだ!国会中継どころの騒ぎではない!ジコウ党の控室やら身内で固めた委員会での発言、ひょっとしたら廊下の立ち話まで」
あんなことやこんなこと。賄賂やらコネの相談、天下り先のあっせんやら、第三者委員会と称して御用学者ばかり集めたことも、大臣や閣僚のちぐはぐな発言をどうすり合わせるかの相談も、総理の会食メンバーをどう集めたかも、モリモリカケカケ関連の証拠処分のあれやこれらの悪だくみも、すべて白日の下にさらされてしまうのである。
「ま、まずい、不味すぎる。すぐに全議員に周知させ、官邸、国会内で迂闊なことは口走らないように言っておけ。議員会館も危ないのか」
「おそらく、危険かと。そのアトウダ副総理などには馴染みのクラブのほうに避難していただいてますが」
「ほかの閣僚にもだ。この部屋は大丈夫だとおもうが、一歩出たらカメラがどこにあるか、私もすべてはわからん。今からでも」
ガース長官ははっとした、もしや。
「システムごとといったな。ひょっとして何年か映像を保存してあるのか」
「そのようです。なにしろ最近のハードディスクは容量が大きいですから、おおよそアベノ総理が第二次政権をおとりになったころからの分は」
タニタニダ副長官の言葉に、血の気がひいていくガース長官。その顔色は赤から白へと変化した。
「そ、それではモリモリの話もカケカケのエコひいきも、マイマイナンバー使って国民を支配する構想も、本当は景気も賃金もミンミン党の方がよかったのに統計で誤魔化ししろといったことも全部ばれてしまうじゃないかー」
「あ、そういえば、そうですね。ヤバいですね、どうしましょう」
「ううむ、どうすれば奴らをとめられるのだ」
「おそらくリベラル側の要求を飲めば、よろしいかと」
「よ、要求とはなんだ」
「えっと、“国会中継再開、公的な場で国会を無修正で流すことを許可しろ、さもなければ国会議事堂、官邸、議員会館のすべての監視カメラの映像を公開する、国民の知る権利のために”とのことで」
「それだけか。どうやら監視カメラの映像が保存されているのを知らないのか、知っていて後で要求をあげるつもりか」
どちらにしろ、すぐに過去のヤバすぎる映像が公開されることはなさそうだ。ほっと胸をなでおろすガース長官。だが
(今は公開しなくても、こちらが国会中継を拒み続ければ業をにやしてすべて公開するかもしれん、そうなったら)
第二次政権発足からの陰謀、裏話、策略はもちろん、総理含む全閣僚、ジコウ議員のあんなことや、こんな振る舞いも公開されるかもしれない。どんな破廉恥、大恥映像がワールドワイドで閲覧されるかわからないのだ。タカギギ大臣のセクハラ行為、ガタヤマ大臣の秘書に対する暴行暴言、アトウダ副総理のこっそり飲酒。はてはガース長官が“育毛茶”を検索したことも…。
恐ろしい想像に悶絶するガース長官。しかし、すぐに気を取り直し
「し、仕方ない。ここは奴らの要求を飲むしかあるまい」
と決心した。
「え、よろしいのですか。国会中継を再開し、リベラルの奴等にありのままの国会を中継させたら、また総理や閣僚の失言いや発言が公の場に」
「やむをえまい。裏のことがすべてさらされるよりましだ。国会には野党議員もいるし、傍聴する庶民もいる。どうせわかるのだ」
「確かに。テレビがないような時代でも国王の愚行や宰相の職権乱用は揶揄されていましたから。今の時代、隠したところで、どうせわかってしまいますね」
「どうしてもバレたら困ることがあるのだ。それを守るために捨てるものは捨てるしかあるまい」
「わかりました、では国会中継再開をINUHKに要請します」
「仕方あるまい。国会パブリックビューエングだかビューイングも許可しておくように。それで奴らの出方をまとう」
「はい、そのように」
と言ってタニタニダ副長官は退出した。
「はあ、今日もお茶を邪魔されたか。しかし一大事だったのだ、仕方がない。気をとりなおして茶を」
と茶の缶を開けると、空だった。
「な、ない!しまった補充を忘れたか。別の缶は」
次々に缶を開けたが、ほとんど空。最後の一つは
「し、湿気でカビが。乾燥剤をいれるのをわすれたのか」
途方に暮れるガース長官。すでに日は傾き、職員も帰り始めている。
「ああ、お湯も沸かせないかもしれない。せめてペットボトルのお茶を~」
自販機のお茶系ペットボトルが売り切れになっていないことを願いつつガース長官は休憩室に急いだ。
どこぞのお国でもなぜか、国会中継は夜中とか切り取りになりつつありますねえ。国民の知る権利のために国会中継をライブ放送で流していただきたいものです。