第7話 報酬を受け取ろう
俺たち4人はトラットリアの森から無事街に戻った。
帰る道中で話をしたが、エルフの少女アルシェリアはやはり魔法使いとのことだった。
今日は森には近場での散策のつもりで入っていたらしく、装備はほぼなしの軽装で来ていたようだ。
ギルドにて。
「みなさんご無事でよかったです。お疲れさまでした」
受付のおねーさんが暖かい笑顔で迎えてくれた。
ひよっこハンターは、まず無事でいることが一番の成果なのかもしれない。
「ありがとうございます。
魔物の討伐による達成報酬を受け取りにきました」
レティが代表して討伐報酬を受け取る。
ロウバード、リトルラビット、アイスバッド、その他Fランクの魔物は一律銅貨5枚だった。
Eランクのラッシュボアは銀貨2枚。
そんなわけでそれぞれの報酬は、
レティは銀貨1枚と銅貨5枚。
クレアは銀貨2枚。
俺は銀貨9枚だった。
ちなみに貨幣の価値は銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。金貨100枚で正金貨1枚。他略。
普通の人が腹いっぱい飯を食べるのには、モノにそれほどこだわらなければ銀貨1枚ってところだ。
「ベネットってそんなに倒してたのか。よくそれだけ魔物と遭遇するな。感心するぞ」
「遭遇というよりかは気配察知がずば抜けてるのだと思うわ。
一緒に行動してからあきらかに魔物との遭遇率が上がったでしょう。
私たちが見逃す敵を、ベネットはしっかり感知してたってことね」
……うーむ、気配察知ねぇ。
山での生活で動物とかには敏感だったからかなぁ。
「ところでアルシェリアは? 全然倒してなかったのか?」
「何匹かは倒したけど……私はまだハンターじゃないから。部位も取ってきてないよ」
あははと苦笑するアルシェリア。
単なる散策だったっけ? それであのデカブツと遭遇するとは、なんというかもってる奴である。
「以上でよろしいですか?
みなさん、無事なだけじゃなくてしっかりと討伐もしてくるなんてすごいですよ。
最初はなかなかうまくいかないものなんです。
私の経験からすると……」
「すみません。もう一匹討伐した魔物がいるのですが」
「あらあら、失礼しました。それでモノはどれになりますか?」
レティは大型のラッシュボアの爪を置いた。
さきほど置いた普通のラッシュボアと比べて、当然だがあきらかでかい。
「えと……これは……ううん、ラッシュボアに似てるけど大きいし……なにかしら」
「ああ、これは私たちがたまたま遭遇したラッシュボアのユニークと思われます」
「へぇ………………ちょ、ちょっと待っててくださいね!」
受付のおねーさんが奥に引っ込んでしまった。
そういやユニークモンスターって普通の魔物とどれくらい報酬違うんだろう。
倍くらいもらえんのかな?
と、おねーさんが渋いおっさんを伴って戻ってきた。
「どうも、私はフレアファスト支部の補佐、グレネスティです。
こちらのモンスターを狩ったのは、そちらの4人ということでよろしいですか?」
頷くレティ。
あ、そうだこれも渡しておこう。
俺は皮袋から大型ラッシュボアが放ってきた刺を取り出す。
長いから半分に折ってるけど。
「これ、その魔物が戦闘中に身体から生やした刺みたいな部位です。
飛ばして攻撃してきたんですけど、一応一本持ってきました」
俺が刺を渡すと、グレネスティさんは興味深そうに端から端まで見たり、コンコンと軽く叩いたりしてる。
グレネスティさんは、はっと気づいたように顔を上げる。
「はは、どうも失礼しました。
それで、このラッシュボアらしき魔物の体長はどの程度でしたか?」
「5メートル程ですね。死体は……ああ、地図をよろしいですか」
レティは受付の横にある森の地図の一点を示した。
大型の魔物で、価値ある素材となるものはギルド職員が回収しに行くこともある。無事回収ができれば勿論その分の報酬も支払われる。
なので、受付には説明用として周辺の狩場となる地図が置かれているのだ。
「5メートル……それだけの大きさのラッシュボアですか。
このような刺を射出させることからも、もはや別個体といえそうですね……。
わかりました。ご説明ありがとうございました」
グレネスティさんは受付のおねーさんに何か話してから、ラッシュボアの刺を持ってまた奥に引っ込んでいった。
「それではお待たせしました。こちらが討伐報酬となります」
ぽんと、俺たちの前に置かれたのは……。
「ほう、金貨2枚か。Cランク相当の討伐報酬とはな」
にっこにこ笑顔になるクレアの前に、受付のおねーさんが別の硬貨を置く。
「それとは別に、ユニークモンスターの情報提供及び討伐。特にこれは異なる攻撃方法の情報料も入っています」
「な……金貨10枚……だと!?
一生遊んで食っていけるじゃねーか!!!」
「いやそれふつーに無理だよね」
俺のボケに冷淡に突っ込むアルシェリア。
まぁ無理なんだが、まさか初討伐でこれだけの報酬もらえるとは思わねぇって。
俺は最悪無報酬でも、経験になるし仕方ないかなとか思ってたんだぞ。
ともあれ貰えるものはありがたく貰っておきましょう。
喫茶店にて。
皆が紅茶を頼み、レティが報酬をまとめて机の上に置いた。
「まず、私たちがそれぞれ倒した魔物の討伐報酬は個人に帰結するとして」
レティは銅貨と銀貨をそれぞれ自身と俺とクレアの前に置く。
「そして、このラッシュボアの分の報酬は……」
レティが金貨12枚をすっとアルシェリアの方へ寄せる。
アルシェリアは意味がわからないのか小首を傾げる。
「私たち3人はあくまでアルシェリアの援護に入っただけ。
もともと魔物と戦っていたのはアルシェリア1人。
突然横入りしてきた私たちが報酬をもらう権利はないのだから、それはアルシェリアが受け取るべきね」
レティの言葉にクレアが、うんうんと頷く。
「ちょっと待ってよ。私こんなの貰えないよ!
だって皆がいなかったら私死んじゃってたかもしれないんだよ?
どうやったら恩を返せるのかなって思ってたのに……」
「それは私たちが勝手にしたこと。恩を感じてもらえるのは嬉しいけど、報酬の話はまた別。
私たちは新米だけど歴としたハンター。矜持があるの。
これはアルシェリアが受け取る正当な報酬よ」
「そ、そんなこと言われても……」
う~と唸るアルシェリアに涼しい顔のレティ。
クレアは完全にレティの側のようだ。
さて、双方とも言ってることは間違ってないんだよなぁ。
どうすっかねこれ。
悩んでいると、くいくいっと袖を引っ張られた。
「ちょっと、ベネットもなんとか言ってよ」
「ンなこと言われてもなぁ。俺もハンターだしレティの言うことのがうなずけるんだが」
「……君、さっき金貨出されたとき指3本立ててたよね。
4人で分けるつもりだったんじゃないの?」
こいつ、なんて目ざといんだよ!
「ベネット、あなたは他人の獲物を横取りするようなハンターなのね……」
「善人を装って助っ人に入り報酬を奪う。悪いやつだなぁベネットは」
レティは軽蔑するような目で、クレアはなぜか楽しそうにしている。
「誤解だって! そりゃ確かに4人で分ける計算はしたけど、ありゃ反射的なもんだって」
「ええぇ、あの目はすごく素っぽかったよ」
ぽそっと言うアルシェリア。レティの温度がどんどん下がっていく。
なんなのこのエルフ。超絶面倒臭ぇ!
「とにかく! この金貨はアルシェリアのもんだから黙って受け取れ。
んで、それをどうするかはアルシェリアが決める。これでいいだろ」
「え……うーん」
しばしアルシェリアは目の前に置かれた金貨を見て、
「やっぱり皆で分けよう。
そもそも私はハンターじゃないし元々は受け取れない報酬だった。
それに皆がいたからあの魔物は倒せたのは間違いない。だからこれは4人で分ける」
アルシェリアはまっすぐな瞳で結論を出す。
そしてぴんっと人差し指を立てた。
「で、ここの支払いはベネットにしてもらおう。
これでいいでしょ?」
「……仕方ないわ。それが妥協点ね」
「私も異論はないぞ」
アルシェリアの謎結論になぜか賛同してしまうレティとクレア。
「……お前ら、さっきまで分配することに反対してなかったっけ?
あと、なぜ俺が奢ることになってるのかマジで意味がわからない」
「報酬はアルシェリアのものになった。それを本心から好意で分配するのであれば、共に戦った者として受け取るわ。
ベネットが奢るのはそういう約束だったものね」
そんな話もうっすらあったけど、あれ約束とか言えるような上等なものじゃないですよね。
「男の甲斐性だな!」
「この状況でその言葉出すの反則だよな」
「両手に持ちきれないほどの花だね。よっ、色男」
自分で言うなや。
黙ってれば花に見えるだろうに。
「あ、それと私のことは今度からアルって呼んでね。仲のいい子はみんなそう呼ぶの」
「ふーん。そういえばアルって何歳なんだ?」
なんの気なしに聞くと、
「65歳」
……マジか。
エルフやばいな。
なお、全員銀貨1枚以上は食べた模様。
楽しかったからいいか。