第6話 チームワークでいこう
金髪のエルフの少女と大型のラッシュボアが対峙をしている。
エルフは荒く呼吸をしていて少し服が乱れているが傷はなさそうだ。
ラッシュボアに大きな傷はないものの、ところどころ血が流れている。
結構善戦しているようだった。
俺はラッシュボアの横に突っ込み、全力で剣を振り下ろした。
身体はそれほど固くなく斬ることは可能だったが、浅い。致命傷には程遠いだろう。
ヴォォォオオオオオオ!!!
ラッシュボアが怒声をあげて、俺に向き直り突進する。
大口をあけて噛み砕こうとするのを、俺は余裕を持って回避して間合いを取る。
「き、君は……!?」
「自己紹介はあとだ! あんた魔法使いだよな? だったら下がってでかいの撃ちこんでくれ!
俺と仲間が時間を稼ぐ! 頼んだぞ!!」
エルフが慌てて頷いて後方に下がっていく。
その間に、後方からレティの弓矢が飛来した。
狙いたがわずラッシュボアの背中に命中する。
ダメージは与えてるようだが、これも浅く決定的とはいえない。
こりゃ、本当に魔法頼みになるな。
頼むぜぇクレア!
ヴォォォォ。
大型ラッシュボアは、よく響くが小さな声で唸って突進してきた。
なんだ、違和感がある。
突進が少し遅いような……。
嫌な予感がして、俺はラッシュボアの突進を躱すことだけを考えて大きく左に跳んだ。
ヴフォオオ!!!!
ラッシュボアが吼え、奴の側面に大きな刺のようなものが数本生える。
刺は銀色で俺の腕くらいの長さはある。
不用意に接近して剣を振るってたら刺に串刺しにされていたかもしれない……って、
「うお!?」
ラッシュボアの身体から生えた刺が突如俺に向かって飛んできた!
俺は反射的に剣をふるってそれをたたき落としたが、次々とんでくる。
やばいやばいやばい!
転がるように跳んでどうにかやりすごす。
俺がいた場所を見ると、地面に刺が半ばまで突き刺さっていた。
なにこいつやばすぎだろ!
俺は大きく回ってくるラッシュボアから、心持ち下がろうとする。
と、ラッシュボアが俺から目線を外して、エルフの方に向いてしまう。
さらにその先にはレティとクレア。
まずいっ!!
ラッシュボアが3人に突進しようと足に力を込めた。
俺は咄嗟に持っていた剣をラッシュボアの右の後ろ足めがけて投擲した。
ヴォオオオオオオオ!!!
剣は足を貫通して、ラッシュボアは態勢を崩して地面に伏せる。
しかし奴は全身から銀色の刺を生やした。
俺は全速力でラッシュボアと3人の間に向かう。
レティの弓矢がラッシュボアの目を貫く。
ヴフォオオオオ!!!!
ラッシュボアが吠え、身体が一回り膨れ上がり刺が放たれた!
「ウインド・アロー!!」
レティが目にもとまらぬ早業で矢を連射して、刺を撃ち落とす。
実体の弓矢に魔法による補助で命中、威力を向上させているのだ。
しかし、それでも向かってくるすべての刺を撃ち落とすことはできなかった。
二本の刺がエルフに迫る。
エルフは魔法詠唱に集中していたのか、まったく反応できずに棒立ち状態だった。
俺はなんとか間に入ることはできそうだが……。
くそがぁ!!
俺は腰から素材採取用の短剣を引き抜き、刺を弾く。
だがもう一本を弾く暇はない。
どうにでもなれの精神で、俺は飛来する刺を左の肩当てで受けた。
途端、重い衝撃とともに俺は弾かれ倒れて転がる。
どうにか意識は失わずに済んだが、めっちゃ痛い。
刺は肩当てを破壊したが、若干狙いを外していたので貫通には至らなかったようだ。
「テンペスト・フレイム!!!」
暴風と共にラッシュボアに荒れ狂う竜巻状の炎が襲う。
クレアの火魔法が直撃したようだ。
ラッシュボアは激しい炎の中で焼かれながらも、ゆっくりと立ち上がろうとする。
どんだけ体力あるんだこの野郎。
俺は痛む左肩を押さえて、立ち上がり……、
「サンダー・スピア!!!」
俺の傍に来ていたエルフの少女が、魔法を唱えた。
その右手には虚空より生まれた、雷を這わせた漆黒の槍が握られている。
少女は大きく振りかぶって雷槍をラッシュボアに投擲した。
狙いたがわず雷槍はラッシュボアの額に突き刺さり、
「穿て!!!」
空から落ちる一瞬の光と共に、耳をつんざく轟音が生じる。
後に残るのは、全身から黒い煙をあげているラッシュボア。
……こりゃ雷を落としたってことか?
すげぇ魔法だな。
威力も御察しの通りのようで。
さすがのラッシュボアもピクリとも動かない。
念のため近づいて様子を確認してみたが、息絶えていた。
俺は大型ラッシュボアの足から投擲していた剣を引き抜く。
炎、雷撃の魔法にさらされながらも、剣は表面上の傷だけで損壊まではしていなかった。
俺は剣を鞘に戻し、ほっと一息ついた。
「ヒール」
左肩の痛みが急速に収まっていく。
どうやらエルフの少女が回復魔法をかけてくれてるらしい。
「すまんな。さんきゅ」
「ううん。こっちこそ守ってくれてありがとう。
肩、だいじょうぶ? 私、回復魔法は初級のしか使えなくて……」
「いや、だいぶ楽になった。もう痛みもない」
「え……? そう? それならよかった……」
エルフはほっとしながらも不思議そうな顔をしている。
というか、話には聞いていたがさすがエルフというべきか。
えらい端整な顔立ちでびびる。
黙っていると腕利きの彫刻家の作品のようだ。
「ベネット、肩は平気か!? 無茶苦茶吹き飛ばされてたぞ!!」
クレアが走ってきた勢いで俺の肩を掴んで超ゆすっている。
……これ回復魔法かかる前だったら激痛で気失ってるんじゃないか?
「ああ、幸運にも大した怪我じゃなかった。そこの……彼女に魔法で回復してもらったしな」
「おお! 回復魔法も使えるのか!! さすがエルフだ!!」
クレアが目をきらきらさせている。
そういやクレアは攻撃魔法専門だったな。
確か補助系統の魔法もからっきしだったはず。
回復魔法は攻撃系の魔法とは勝手がかなり違うらしく、回復専門の魔法使いがいるほどだ。
需要はあるのに意外と扱える者は多くないのである。
「そ、そんなに大したものじゃないよ……。
あの、私アルシェリアって言います。
一緒に戦ってもらってありがとうございました。本当に助かりました!」
「なぁに気にしないで。いい修練になったわ」
レティがアルシェリアの頭をぽんぽんと叩く。
女同士だからなのか、気安くしても双方深く気にしている様子はなかった。
ったく、割と危なかったのによく言うぜ。
しかしまぁよくこんな大物が狩れたもんだ。
俺一人じゃあ絶対無理だっただろう。
ホント、4人合わせてどうにかって感じだった。
だがさすがにくたくただ。とっととこいつの部位剥ぎ取ってギルドに戻るとしよう。