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第4話 説得をしよう

 拍手の音に振り返ると、そこには見知った二人組の女がいた。

 大人の女性と小さい少女といった組み合わせは、一見して年の離れた姉妹にも見える。

 確か、名前はレティとクレア。冒険者学校の同期で、二人は同室だったはずだ。

 レティは最初の授業の魔法試験のときに話した理知的な感じの黒髪の女で、得意な武器は弓だ。

 弓ならば短弓から長弓まで一通り扱えるらしく、今日は短弓を背負っていた。


「Eランクの中ではタフなラッシュボアを一撃、見事ね。同期一の剣術は伊達じゃないわね」


 微笑を浮かべるレティ。

 レティは色気のある大人の雰囲気の女で、露出が高いわけでもないのだが端的に言ってエロい感じの女だった。

 田舎者の俺は今まで見たことないタイプだからなのか、性格がどうこうではないのだがなんだか苦手だった。


 対照的に、ふんっと鼻息荒く不機嫌なのを隠そうともしないのはクレアだ。


「あんな程度の魔物、私の魔法ですぐに灰にしてやったものを!!」


 魔法試験のときに子ども呼ばわりしたのが尾を引いているのか、俺に対するクレアの当たりはきつい。

 クレアの他人に対する態度を見ている限り、礼儀を知らないわけではなさそうなのでずっとつっけんどんな態度になんだかへこむ。


 二人とは学校で何度か話したこともあり、他の同期と比べれば見知ってはいるのだが、俺にはちょいと接しづらいところがあるのだった。


「あー、……二人ともペアで狩りか?」

 

「ええ。座学の授業で低ランクの魔物については扱ったでしょう。

 私もクレアも魔物と戦った経験はなかったから、どんなものか肌で感じてみたくてね」


 ふむふむ。その気持ちは大いにわかる。

 習ったことは実戦してみたくなるものだ。


「このあたりの魔物は全然弱すぎて話にならない! 私の火魔法があればもっと奥にもいけるのに!」


「ええと、そうね。クレアの魔法がまともに使えれば、ね。なんとかなるかもしれないけど……」


 イケイケのクレアに、どうにか宥めようとするレティ。

 確かにクレアの魔法の威力はズ抜けてるし、Dランクくらいの魔物でも案外あっさり倒してしまうかもしれない。

 が、ここは森である。

 奥に行けば当然手前よりも木々が生い茂っているわけで、火魔法なぞ使えば火に囲まれて魔物もろとも焼身してしまってもおかしくない。

 だいたい後衛タイプの二人で戦うならば敵が近づく前に圧倒的火力で倒せないと途端に窮地に陥ってしまう。

 レティが安全策を取るのも当然の話であった。


 レティとクレアが言い合う中、ふと、レティが俺に目配せをした。

 

 ……俺からもクレアを説得しろと?

 嫌われてる俺が言っても素直に聞くと思えないんだけどなぁ。

 ダメ元で話してみるか。


「なぁ、今日クレアはいくつ魔物を倒したんだ?」


「ふん、聞いて驚け。4匹だ!! ロウバードにリトルラビット、アイスバッドもいたぞ!」


 ……自慢するには案外少ないな。

 俺の方が長時間狩りをしていただけなのかもしれないけど。


「ほうほう。そんで、素材回収はどんなもんよ」 


「……え?」


「得意の火魔法で倒してきたんだろう? クレアの魔法力は俺もよぅく知ってる。この辺の魔物じゃあ確かに敵じゃないだろうなぁ。

 ……で、ギルドへ討伐報告するための切り取った魔物の部位は?」


 俺の問いかけに、ダラダラと汗を流し始めるクレア。


「……ない」


「え? 何もう一回言って? よく聞こえなかったー」


「…………残ってない」


「え? なに? 聞こえないって。じゃあいいや。討伐の成果見せてくれよ」


「だから! ない!! 残ってない!! 全部燃えたんだから残るわけないだろう!!!」


 ですよねー。

 でもそれだとマジで腕試ししただけで、依頼達成の報酬もなんももらえないよね。


「ちなみにレティは?」


「私の武器は弓だし。普通にあるわよ、3匹分」


「そっかー。俺も何匹か狩ってるし、ギルドに戻ったら報酬の金でなにか食べに行かないか?」


「……ええ、いいわね。クレアには悪いけどせっかくのお誘いだし」


「な!? わ、私は仲間外れなのか!?」


「だってクレアは報酬もらえんだろ。稼ぎのない人を誘えないって」


「ぐぅっ……」


 冷たく言うと、クレアは歯ぎしりをして若干涙目になった。

 なんだかリアルで小さい子をいじめてる気分になってくるけど、一応本人のためでもあるんですよこれ。

 別にいつもきつく当たられてるから必要以上にやりこめてるわけではないのであしからず。


「俺はそろそろ戻ろうと思ってたんだけど、レティはどうする?」


「私も……うーん、でももう少しだけ狩っていこうかな」


「じゃあ俺も付き合うよ」


 言ってレティの肩を少し押してとっととと二人で歩き出す。

 クレアがついてくる気配はない。

 振り返るとクレアはうつむいて佇んでいた。


 ……世話の焼けるお嬢ちゃんである。

 

「冗談だ。マジで置いてくぞ。はやく来い」


「え? あ、ま、待て今行く!」


 クレアは焦った様子で慌てて走ってくる。 

 それを見たレティが笑顔で一言。


「エクセレント」


 ……笑顔がなんか怖いんだよなぁ。

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