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第26話 秘密を明かそう

「え……アゼル? あれ、アルは……?」


 アルの姿はどこにもない。

 今、俺の前にいるのは唐突に現れたアゼルだけだ。


「……まったく。せめて冒険者学校を卒業して、後腐れなく別れられるときが来たらと思ってたんだけどね。

 ちょっと予定が早まったと思えばいいか」


「お前、本当にアゼルなのか? 今のは……魔法、なのか?」


「…………魔法だよ。エルフ族に伝わる禁呪、合わせの魂踊って言ってね。

 僕の身体の中には僕の魂に加えて、アルの魂も収められているのさ。

 制約はあるけれど、アルの魂を前面に出すことでアルは元の姿でアルとして行動できるのさ」


 アゼルは俺の目を射抜くようにまっすぐ見つめた。


「わかってると思うけど、他言無用でお願いするよ。

 ……アルは生まれたときから病弱でね。いつも寝込んでいるような子だった。

 騙し騙しやってきたんだけど、それも半年前に流行病にかかってね。あっという間に瀕死の状態になったのさ。

 エルフの高位術師もサジを投げて、あとは死を待つのみ。

 それで僕は禁呪とされていた、合わせの魂踊を実行したのさ。

 ……合わせの魂踊は対象の魂を術者の身体に移らせるもの。

 禁呪とされている理由はいろいろあるようだけど、顕著なのは失敗すれば反動で術者と対象者の魂が完全に消滅することかな。

 輪廻から外れるのは勿論、この地をさ迷うことすらなく跡形もなく消え去る。

 僕とアルは運良く成功してね。

 でも、いかなる理由であっても禁呪を使用した僕は、これ以上里にいることはできなかった。

 本来は問答無用で処刑されてもおかしくないみたいだけど、アルを同情したのか追い出されるだけで済んだんだ。

 僕はアルの身体をとあるエルフに託して、僕らが元に戻れる方法を探すためハンターになることにした。

 そして今に至る、ってところかな。

 何か質問はある?」


「え? そ、そうだな。

 ……ん? ちょっと待て。アルがさっき兄さんって言ってたの聞いたんだけど、お前ら兄妹なのか?」


「そうだよ。母親は違うけどね。正真正銘血の繋がった兄妹さ」


「待て待て。だって年合わねーだろ。アゼルは17歳でアルが65歳で……」


「ああ、それ出まかせだよ。厄介事に巻き込まれ辛くなるかと思って逆鯖よませてるんだ。

 アルは15歳だよ。冒険者登録はちゃんと15歳にしてるし」


「な、なんだと……なら俺とタメじゃねーかよ!

 俺、アルになんだかんだとガキ扱いされてたような気がするんだがおい」


「そこで僕に掴みかかられても……」


 困った顔をするアゼル。

 アゼルに当たるのはお門違いとも思えるが、そもそも諸悪の根源こいつだよな。

 まぁ、悪意で騙そうと思って誤魔化してたわけじゃないだろうし、大人げなく怒るのは違うか。


「そういや二人が一緒にいるのは見たことなかったな。今となっちゃあ当然のことだけど」


「まぁね。意外となんでもないものだし、たとえ違和感を持ってもまさか同一の肉体にいるとは思わないだろうから」


「そりゃそうだ。せいぜいが訳ありの知り合い程度だと思ってたわ」


 蓋を開けたらまさにびっくり箱だったわけだ。


 と、リーゼがアゼルの方へと飛んでいく。


「なるほどのう。ハーフエルフがベネットを通してとはいえ、ワシを感知できた理由はそこにあったのか。

 尋常ならざるモノであれば、ワシの存在のカケラを捉えることもできよう」


「リーゼ様……これまでの間、禁呪について伏していたこと、申し訳ありません」


「ワシはそのような些事気にせんぞ。合わせの魂踊に関してはエルフが勝手に禁呪としているだけじゃしな」


「え? そ、そうなのですか?」


「もっとも禁呪とするのも当然なのじゃがな。

 合わせの魂踊は術者の力量に関わらず、ある意味で一番恐ろしい術じゃ。

 術を実行さえさせれば、効果は及ぼされるのだ。失敗すれば両者が魂ごと消える」


 おいおい、それ物騒すぎるだろ。

 ……ああ、なるほどな。問答無用の心中魔法として成立してしまうわけか。

 使い手は限られるだろうが、それでも魔法自体を封印する考えはわかる。


「禁呪とするには、もう一つ大きな理由がある。

 呪いじゃな」


「呪い?

 呪文の使用者には何らかの不利益があるのか?」


 本来の使い方としても効果は絶大だ。

 現にアゼルは死ぬはずだったアルを形が歪とはいえ生きながらえさせている。

 これに対する何らかのデメリットが存在するのか。


「……それは僕から話すよ。

 古来、この魔法が生み出されてから何度か使用されている。魔法が生み出されてから日を待たず禁呪となった後もだ。

 魔法に失敗をすれば言わずもがな。

 成功した場合でも……使用者達はその全てが非業の死を遂げている。

 事故、魔物、果ては殺し合い等、経緯は異なれど平穏な生を送った者はいない。

 そしてこれが呪いと言われる所以は、使用者の関係者も巻き込まれ無惨な死を遂げていることだよ」


「………」


「目が見えなくなる、耳が聞こえなくなる。そういった表面的なことは何も起こらない。

 ただ、そこには呪いがあるだけなんだ。

 だから一族は僕たちを恐れて遠ざける。

 場合によっては、不幸の芽を断ち切るためそれこそ非業の死をもたらしに来てもおかしくない」


「……なるほど、それがお前らが口を閉ざした理由か」


「そうだね。

 それで、ベネットはこれを知ってどうする?」


 アゼルは世間話でもするように、平然と問いかけてくる。

 しかし、その瞳は深い闇に沈んでいるように見えた。

 

 ……どうする? どうするってもなぁ。


「逆に聞きたいんだが、それ聞いて何かが変わるのか?

 ああ、そりゃ多少態度は変わってくるかもしれんがな。アゼルとアルをまとめて二人に接してるようなもんだし」


「……これからも僕らと共にいる気かい? 呪いの影響があるかもしれないのに」


「合わせの魂踊を使用した連中ってのが即座に死んでるならまだしも、アゼルやアルは少なくとも半年はのんびり生きてるじゃねーかよ。

 呪いなんぞ絶対にありえん、とは断言できねーけど、そんな術使う程切羽詰ってるんじゃ大抵ロクな状況じゃねーだろ。

 権謀術数が跋扈しててもおかしくねぇって。そりゃ非業の死も遂げるってもんさ。

 それとも本当に呪い自体が存在してるのか? どうなんだよリーゼ」


「合わせの魂踊についてはワシも聞きかじった程度しか知らん。

 じゃが、呪いについては時間をかけて衰弱させて命を絶つ、くらいのことはできようが運命を転換させるほどの現象を引き起こすなど到底考えづらいのう。

 眉唾程度に思っておけばよいじゃろ」


 リーゼの返事に俺は肩をすくめる。

 

「だそうだ。

 で、これから何か変わることでもあんのか?」


「……それ、もう一度言ってあげてくれるかい。

 明るい割になかなか臆病な子だからね」


 そうして、アゼルの姿が薄くなっていく。

 一定まで薄くなった後、アルの姿へと変化した。

 アルは俯いていて表情はわからない。


「…………いいの?

 私、ベネ君に嘘ついてたよ」


「隠し事なら俺もしてたぞ」


 まぁ、リーゼのことはバレてたみたいだけどさ。

 さっきバラしたときは結構思い切ったつもりだったのに馬鹿みてぇだったぞ。


「呪いだって本当にあるかもしれない。今回のオークやブルベアーのことだってもしかしたら……君と会ったときのラッシュボアだって……。

 そうじゃなくても、里のエルフ達が襲ってきても不思議じゃない。

 エルフは本当に戒律に厳しいの」


「盗賊退治がエルフ退治に変わるだけじゃねーか。

 襲撃してくるなら返り討ちにしてやればいい」


「エルフと盗賊は全然違うじゃない……」


 アゼルの言ってたとおりだ。

 普段のアルからは考えられんが、ここぞというときには引いてしまう性質なのかもしれない。


 俺は乱暴に頭をかいてぶっきらぼうに言う。


「そういやアル、前にここで俺が誘ったとき、お前誤魔化したよな。

 あのときの答え、今ここで聞かせろよ」


 アルがはっとして顔をあげる。


「狩りでもいい。依頼でもいい。他の連中を誘ってもいい。

 俺はまだハンター仲間少ないんだよ。

 だから俺たちでパーティ組んで、また冒険しようぜ」


 アルに向かって俺は右手を出す。

 アルはしばらく俺の手を見て、


「………」


 恐る恐る、弱々しく、ゆっくりと手を伸ばしてわずかに触れる。

 俺は黙って待っていたが、アルもそれ以上動こうとはしなかった。


 ……なにこれ、指先だけ当たっててすげぇくすぐったいんだけど。

 だぁぁぁもう、じれったい!

  

「あ!」


 少し強めに俺はアルの手を握った。

 おっかなびっくりしていたアルも、次第に落ち着いたのか同じくらいの力で俺の手を握る。


「……もう。どんなに大変だって知らないからね。今更取り消せないよ」


「男に二言はねーよ」

 

「…………ふふふふ。なら、よし!」


 月明かりでもはっきりとわかるくらい、アルは嬉しそうに笑った。


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