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第24話 治療をしよう

 シミだらけの天井がある。


 ……頭がぼーっとする。

 俺は、一体……つかどこだよここ。


 身体を起こして、俺は初めて毛布がかかっていたことに気づいた。


「……そうか……俺、倒れて……」

 

 あれからどうなったんだ?

 クレアとレティは無事なのか?

 まぁのん気にぶっ倒れた俺が、こうして寝こけているのだ。どうにかなったのだろう。


「気がついたんだね、ベネット」


 アゼルが俺のそばに座っていた。


「ああ……おかげさまでな。

 アゼルが俺を運んでくれたのか?」


「うん、あれから他のハンター達も応援に来てくれてね。担架も用意してあったから、それほど大変じゃなかったよ。

 もちろんクレアやレティも無事だよ。二人は診療所で休んでる。

 ああ、ここはメイストの村だよ。僕たちがいるのは集会所だね。

 診療所にはベッドが二人分しかないみたいだから、ベネットの傷は回復魔法で完治したみたいだしこっちに運ばれたのさ」


「そっか。ありがとな。

 ……マジで危ないところだったからさ。ホント、来てくれて助かった。恩にきるよ」


「そんなに大袈裟にしなくていいよ。

 ……ハンターでいればきっとこういう場面は遅かれ早かれ訪れるものだから。

 君たちだけでも間に合って本当によかったよ」


 アゼルが部屋の隅を向く。

 そこには木製のついたてがあったが、その間から装備がボロボロになっているハンターの男と、数人の横になっている男女がいるのが見えた。

 横になっている者たちは、この位置からでも致命傷とわかる深手を負っている。


 あれは、もしかして……、


「彼のパーティは、彼以外が全滅だったそうだよ。

 オークの群れや、このあたりでは発見されていなかったブルベアーに強襲されて殺されたって。

 彼は仲間が全員殺されて、一人になって命からがら逃げてきたんだって」


「そりゃ、なんつうか……」


「そうだね。皆、彼になんて声をかけたらいいかわからないみたいだ」


 男は胡座をかいて俯いたまま動かない。

 年の頃は20歳になったところといったところだろうか。

 仲間といた時間はおそらく短くはないのだろう。


「……出るか」

 

「動いて平気? なら、そうしよう」


 できるだけ物音を立てずに俺たちは部屋をあとにする。

 扉を締めるときも、男は俯いたままだった。




 集会所を出て、俺たちは診療所に向かった。

 アゼルが確認したときはクレアもレティも眠っていたそうだが、もしかしたら俺と同じように目を覚ましているかもしれない。

 そうでなくても俺も人伝でなく、一度自分の目でちゃんと二人の無事を確認しておきたかった。


 村の外には何人かのハンターとすれ違った。

 応援に来てくれたハンター達だ。

 命の恩人も同然なので、俺は会う人会う人全員に深く謝辞を述べた。

 ハンターの割にはなんとも気のいい人達で、よかったなとか、無茶すんなよ、とか気遣う言葉をかけてくれたのだ。


「はは。普段なら礼金をせびってきそうだけどね。命を助けてやったんだからって。

 応援を要請したのが彼女だったからかな?」


 笑いながら答えを出すアゼルに俺は同意する。

 アルの人気っぷりからすると、ここのハンター達にとっちゃ覚えがよくなることの方が大事なのかもしれんな。


「アルには感謝しねぇとな。

 そういやアルはどうしたんだ?」


「さぁ。途中までは僕たちと一緒だったけど、ベネットと合流してからは見てないな」


「そっか。あいつにもちゃんと礼を言わないとな、っと」


 診療所に着いて扉を開ける。

 奥に進むとさらに扉があり、開けようと思いノブへ手を伸ばした。


「ねぇ、ベネット。中にいるのは女性なんだしノックくらいはしようよ」


「う……そうだな」


 あきれた声で注意され、俺は慣れてないノックを2度ほどする。

 中から「はーい」という聞き慣れない女性の声がして、ドアが開かれた。


「あら、あなたは……」


 部屋から出てきたのは30代くらいの女性で、右手には濡れた布を持っていた。


「どうも、そっちにいるハンターの仲間で、ベネットと言います。

 二人はまだ寝ていますか?」


「ええ。よっぽど疲れていたのでしょうね。

 あ、安心してちょうだい。レティさんの腕は治癒魔法の使い手のハンターさんが治療してくださったわ。

 2、3日もすれば完治するでしょう」


「そうですか。

 どうもいろいろとお世話になって、本当にありがとうございます」


「いいのいいの。この村の近くの魔物を討伐してくれてたんでしょ。こちらこそ、お礼を言わなきゃ。

 私はこれでもこの村の診療所の院長なの。

 村のために頑張ってくれた人たちなら、せめてお世話くらいさせてよ」


 院長は器用にウインクして俺の肩を軽くぽんぽん叩いた。


「そうだ。院長さん、アル……アルシェリアっていうエルフの娘を見ていませんか?」


 本当は娘とかいう年じゃないんだけど外見は娘にしか見えないし、面倒だから娘ということにしておこう。


「エルフ? エルフってあの耳の長い森のエルフのこと?

 来てないわよ」


「……そうですか。じゃあ俺達はこれで失礼しますね」


「ええ。二人が起きたら知らせてあげるわ。酒場にでもいてちょうだい」


「わかりました。よろしくお願いします」


 そうして俺たちは診療所をあとにした。




 酒場は少ないながらも何人かの村人とハンター達がいくらか席を埋めていた。

 俺の姿を見ると、ハンター達は声をかけてきて、中には「アルシェリアちゃんによろしくな~」なんておちゃらける人もいた。


 俺とアゼルは酒場の隅の席を取り、それぞれ茶を頼んで一服した。


「そういや、アゼルはどうしてこんなところにいたんだ。確か里に帰ってるんじゃなかったのか」


「いろいろと事情が変わってね。今日のところは予定が変更になったんだよ。

 時間が空いたからちょっと単独で狩りをしながら村へ来たんだ。

 ギルドでベネット達がこっちに来たって聞いたから、もしかしたら会えるかと思ってね。

 そうしたらアルが村に走ってきて、君達の状況を知ったってわけ」


「そっか。おかげで俺は命拾いしたわけだ」


「……本当、そんなに気にしないでいいからね。君だって大変だったんだから。

 合流したときにはクレアもレティも意識はあったんだ。だから、二人から少し話は聞いてる」


「………」


「そういえば、さきほどからリーゼ様を見かけないけど、姿を隠しているのかい?」


 お。

 うぉぉおおオオオオオオオ!?

 ……まずいな……本当のことを言ったらリーゼ様大好きなアゼルのことだ。すげー騒ぎ立てそうだぞ。

 でも、嘘付いても仕方ないし、一応明日になれば魔力も回復するだろうし大丈夫だろう。たぶん。


「いやぁ、実は回復しまくってもらってたら俺の魔力が尽きたみたいで、今は姿を保てないんだと。

 まぁ明日になれば俺の魔力も戻るだろうし問題ないんだろうけど」


「………」


「確かにリーゼがいないと、ちょっと調子が狂うな。

 あいつ大抵は肩に乗ってたからなぁ」


「………」


「まだ会って大して経ってないけど、四六時中ついてるから…………って、おいアゼル?

 おい。おーい」


 アゼルの前で手をひらひらさせてみる。

 アゼルは前をむいたまま一切の反応がなかった。


 重傷すぎんだろ。




 しばらくしてアゼルが復活し、一通り取り乱してようやく落ち着かせた。


「わかった。明日までは様子を見よう。

 でも明日リーゼ様が顕現できないようであれば、ベネットには僕の伝手をいろいろと回ってもらうことにするからね」


「お、おう」


 ……リーゼ、お前マジで明日出てこいよ。

 寝坊でもしやがったらマジでシャレにならんからな。だから出てきてくださいお願いしますアゼルの目がマジなんです。


 ま、まぁどうにかアゼルも落ち着いたみたいだし、そろそろ本題に入るとしようか。


「なぁアゼル。アルはどこ行ったんだ?」


「うん? 僕知らないって言わなかったっけ?」


「ああ。一応再確認だよ。何か知ってるなら教えて欲しいと思ってな」


「……まるで僕が知ってて隠してるみたいな言い方するね」


「さてな」


 俺は肩をすくめる。


 アゼルが何かを知ってるかは正直半々といったところだ。

 本当にたまたま何も知らなくても矛盾はない。

 だが、アルの行動が妙なのは間違いない。


「アルとは途中まで一緒だったんだろ。

 あいつの性格から考えても、村に応援を頼んだ後は俺たちと合流しているのが自然だ。

 それなのに俺はアゼルや他のハンター達とは合流できてて、なんでアルは一緒じゃなかったんだよ。

 アルはたまたまアゼルと一緒にいなかったってだけか?

 じゃあ倒れたクレア達の様子を見に行ってないってのはなんだよ? 

 あいつが一人でどの時点だか知らねぇが勝手に街に帰ったって言うのか? 仲間の安否もロクに確かめずに? ンなわけあるかよ!」


 ドンっと机をぶっ叩く。

 アゼルは動じずに俺を真っ向から見ている。


「………」


「なぁアゼル、本当に知らないんだな?」


「そうだよ。正確に言えば、彼女が村に応援を頼みに来て出発してすぐに別れたんだ。

 彼女は疲弊していたし、僕は全力で走ったからね」


 ……ダメだ。俺じゃあアゼルが嘘をついているのかどうかわかるほどの洞察力がねぇ。

 つか、いらぬ心配なんだろうな。俺自身が冷静じゃない。

 あの瓦解したパーティを見たせいか、妙に胸騒ぎがしやがるんだ。


「悪いな。変なこと言って。

 もしかしたらアルが俺たちとは別の場所で、ひょっとしたら魔物にでも襲われてるのかと思ってな」


 考えてみりゃあ、ここにはアルのファンみたいな連中で溢れかえってるんだ。

 アルが村に戻った時点で、ある意味一番安全なのかもしれねぇ。


「クレア達のところに行ってないのも、なにか事情があるのかもしれないし。

 それこそ俺たちみたいにどこかで休んでても不思議じゃないよな」


「ベネット……」


「すまん。ちょっと神経質になってたわ」


「いいよ。気にしないで。

 ……それよりも、もしもそんなに気になるのならベネットは街に戻ってみたらどう?

 村は狭いし、ここに彼女がいたら目立ってすぐに見つかるはずだよ。

 理由はわからないけど、街に戻ってる可能性は高いんじゃないかな」


 確かに、誰かの家にでも匿われていない限り、ちょっと歩けばすぐに見つけられてもおかしくない。


「クレアとレティは僕が付き添うからさ」


「……悪い、頼むわ!」 


 逡巡は一瞬。

 俺は支払いを済ませ、村を飛び出した。

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