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第20話 全力でいこう

 俺とクレアとレティは森の開けた場所へ移動する。

 平素であれば、多数の敵を相手にするならば遮蔽物等のある森の中の方が有利なことは多いだろう。

 攪乱して囲まれないよう動き回りつつ敵を倒していくのが基本的な戦い方になりそうだ。


 だが、今回それは難しい。

 レティはともかくクレアは動きながらの戦闘が得意ではないので、森の中で多数を相手取る戦闘に不向きだ。

 それに奴らの進軍の仕方は集団としての練度は皆無にしか見えないが、進む方向は一致している。

 オーク達の目的はわからないが、少なくともたまたま出会ったハンターを殺すことが目的ではないだろう。

 とすると、俺たちとオークが接敵し戦闘になったとしても、離れたところにいるオーク達は俺たちを無視して進んでいってしまう可能性が高い。

 オーク達がどこまで行くのかわからないが、このまま進まれたら村にぶちあたってしまう。


 俺たちの目的はあくまでオークの足止めだ。

 多数の敵を相手にして足止めをするなら、俺たちが奴らにとっての標的とならなくては難しい。

 奴らの意識を進むことではなく、俺たちを倒すことへとシフトさせなくてはならない。


「オークがある程度抜けてきたら、クレアはできるだけ広範囲の魔法で奴らを殲滅してくれ。

 見た目が派手だとなおいい。

 その後も同じようにオークが固まってるところに魔法を撃ちまくってくれ」


 相手に脅威に思わせて退かせられたら満点だが、さすがにそれはできないだろう。

 なんとかして奴らに俺たちの存在が脅威だと思わすことができれば御の字だ。


「任せておけ、一切の手加減抜きで焼き尽くしてやる」


 大きく息をついて、クレアが詠唱に入る。


「クレアの魔法の発動後に、俺は突っ込んで乱戦に持ち込み、なるべくオークを引きつける。

 たぶんあっという間に囲まれるだろうけど、まぁそこはなんとかする」


 なんとかするというか、なんとかできないとやられるだけだ。

 こればっかりは俺の力でオークに対抗できることを祈るしかない。


「レティはクレアの護衛をしてくれ。

 できれば俺たちを無視して進もうとするオークも狩り尽くして欲しいが、それはできる範囲で頼む」


「わかったわ。安心して、一匹も逃がしはしないわよ」


 そりゃ心強い。

 レティは俺たちのフォロー役だ。

 レティが締めの部分を担当してくれるから、俺とクレアは細かいことは考えずに好き放題暴れられる。


 と、クレアはもう詠唱が終わったようなのだが俺の方を向いていた。

 んん? タイミングをはかっているにしても俺を見る必要は……、


「フレア・ブレス」


「……え?」 


 赤い光が俺の周囲を柔らかく包み込む。

 ほのかに暖かく、力が湧いてくるようだ。


「クレア、お前身体強化魔法使えるようになってたのかよ」


 確か攻撃魔法以外はからっきしだったはずなのに。

 いつの間にこんな補助魔法マスターしてたんだ。


「魔法使いとして前衛の強化は避けては通れんからな! 

 フレア・ブレスは身体強化については、まだまだ気休め程度ではあるが、火魔法への耐性もある。

 私の魔法でも直撃さえしなければ問題ないぞ!」


 なるほど、うっかり誤射されて負傷したらたまらんからな。

 クレアの前衛を務めるなら、うってつけとも言える補助魔法だ。


 俺は軽くジャンプをしてみたりステップを踏んでみたりして、自分の身体がどの程度動けるようになっているか確認する。

 劇的な変化とは言えないが、間違いなく強化はされている。身体が軽い。


 クレアはいたずらが成功したみたいな顔をしながら再度詠唱を始める。

 今度こそ広範囲魔法の準備にかかっているのだろう。


「ベネットよ、この補助魔法は身体強化能力こそ平均的なものだが、火系統に限らず魔法への耐性はなかなかのものじゃぞ。

 相手がオークなのが残念なくらいじゃ」


 肩に座るリーゼが素直に感心している。

 オークは魔法を使えない。

 ……次の機会には魔法使用の相手にでも試してみたいもんだな。

 そのためにも、今はこいつらを片付けんと。


 数体の先行するオークが木々を抜けて広場に出てくる。

 俺たちは広場の反対方向に位置しているので、まだ距離はある。

 後方にはぱっと見ても数え切れないくらいのオークが向かってきてるのがわかる。


 レティが弓を構え先頭を走るオークに矢を射る。

 狙いたがわず矢はオークの眉間に突き刺さり倒れる。

 さらにレティは続けて、近い者から次々と射撃の的としていく。


 ゴォォォオオオオオオオオ!!!


 周囲のオークが仲間を討たれたことに対する怒りからか咆哮する。

 咆哮はさらに周りのオークにも伝播し、重なって大地を揺らすかのような怒号となる。


 ……身体中にビリビリくるな。

 正直ちいとばかしびびるぜ。

 

 落ち着かず剣の構えを微妙に直していたところ、クレアが大きく両手を前に突き出した。


「フレイム・ストーム!!」


 第二陣のような形で森から出てきたオーク達十数体が竜巻状に燃え上がる炎の中で次々と倒れていく。

 すぐ前を走っていたオークが振り返り、その凶悪な魔法の威力におののき立ち竦む。


 タイミングは今しかない。

 俺は動きの鈍ったオークたちの中心へと突撃をした。


「ゴォォオオ!!」


 俺の接近に気づいた一体のオークが、手にしている斧を振り下ろしてくる。

 しかし背後の炎に本能的に怯えているのか、その動きは不自然にぎこちない。


「オラァ!!」


 俺はオークの斧を弾き、すぐさま首を撥ねる。


 おお、こりゃすげぇな。

 クレアの強化魔法のおかげで、今の俺ならオークにも力負けせずにいけそうだ。




 俺の視界のほとんどはオークで埋められていた。

 俺は咆哮をあげながら半ばあてずっぽうに剣を振り、迫る剣や槍、斧を弾き敵の身体を斬りまくる。

 すでに相手の首を一撃で落とす余裕なんてない。


「っとぉ!?」  


 左からの棍棒による一撃を剣で防ぐ。

 彼我の力の差により、俺の身体は一瞬浮かされた。


「っぶねぇなこの野郎!!」


 俺は左手で持った剣で、そいつの左足を斬りながら急いでその場から離れる。

 足が止まったところをタコ殴りされたら一貫の終わりなので、俺は決して立ち止まらず走り回りながらの戦闘を強いられていた。


「ヒール!」


 右腕のしびれが消えていく。

 オークの棍棒を受けたときに衝撃を殺しきれなかったのだ。


 リーゼは俺が傷を負うごとに的確に回復魔法で処置していく。

 しかしそれもそろそろ限界かもしれない。

 珠の汗を額に滲ませた余裕のない表情は、一目瞭然で疲労の色が濃い。


 ちらっと森の奥を見たところ、オークの姿はない。

 敵は出揃ったとみていいだろう。


「残りの敵の数はどんなもんだ!?」


「まだ7、80はいるぞ!! これでも半分近くは倒しているはずじゃ!!」


 リーゼの返答の直後、オークが数体跳ね上がったのを視界の端でとらえる。

 おそらくクレアの魔法だろう。

 オークどもの咆哮が大きすぎて、クレアの唱える魔法はまるで聞こえない。

 離れた場所でいきなり燃え上がったり爆発したりすることがあるので、それがクレア達が無事な合図のようなものだ。


 俺の体力も心もとないが、あと半分であればなんとか倒し切れるかもしれない。


「っしゃあ!!」


 俺が気合を入れ直して吠え、再びオークへ突撃しようとしたところ、


「まずいぞ! オーク達がまとめてレティ達の方へ向かっておる!!

 数が多過ぎる!! 押し切られるぞ!!」


 ……くそ、ついにやりやがったか。

 俺もなるべく目立つように走り回って立ち回ってはいたが、そりゃあクレアが何発か魔法撃ってるんだからそっちを抑えにいく奴もでるわな。

 少数であればレティに任せるところだが、リーゼの様子からそれは無理なのだろう。

 こうなったら俺がクレア達から離れているメリットはあまりない。


 俺はクレア達の方へ向かおうとする。

 しかし、その方向へは多数のオークが道を阻んでいる。

 反射的に力任せに突破しようかと思うが、それで返り討ちに遭いでもしたら目も当てられない。

 だがクレア達が押し切られるのはもはや時間の問題だ。


 ……やるしかねぇか。


 覚悟を決め、俺は包囲の甘い場所へ飛び込んだ。

 次々とオークの振るう剣や斧が迫り来る。

 俺は身をひねって躱し、受け流し、直撃のみを避けながら前に進む。


「邪魔だあああああああああああ!!!」


 正面にいた体当たりをしてきたオークの首を強引にとばし、倒れてくる身を踏み越え飛ぶ。

 その勢いで俺はオークの囲みを突破して、


「フレア・サークル!!!」


 瞬間、世界が紅く燃え上がった。

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