表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/29

第19話 方針を決めよう

 目を凝らして森の奥を確認すると、何体ものオークがこちらへ向かっていた。

 軽く見積もっても20体以上は見える。


「みんな、団体のお客さんがご登場だぜ!」


 俺の警告に3人がオークに気づき、素早く態勢をととのえる。


 ……しかしこれだけの個体数をさばききれるか?

 いや、ここは結構木々が生い茂ってるし、連携を取れば1体ずつ相手にできそうだ。

 

「アル、レティ! 俺に向かってくる奴らに攻撃を頼む。

 クレアは後方のかたまってるところにぶっ放してくれ!」


 3人が了解し、俺はオークが向かってくる経路の木々の間に陣取る。

 この道幅ならせいぜい2体しか通ることはできそうにない。


「っしゃあ、かかってこいや!!」


 自らに激を飛ばし、俺は剣を身構える。今回は上段構えだ。防御より攻撃重視!


「そいやっと!」


 寄ってきたオークの首を飛ばす。

 オークはまだまだいるので後ろが速攻で詰めてくるが、アルの魔法とレティの弓で後続の勢いが衰える。

 その隙に俺は態勢を整え、また別のオークの首を飛ばす。

 俺が3体目の首を狩ったとき、


「私を忘れてもらっては困るぞ。アーク・ボム!!」


 後方にいたオークの中心の地面が爆発し数体が土塊に身体を貫かれる。

 なかなかエグイ魔法だ。威力は言うまでもない。


 この調子なら後から来るオークもまとめて倒せそう……って、やばい!


「全員攻撃やめ!! だれか人間がくるぞ!!」


 俺の静止で一斉に攻撃の手が止む。

 オークの最後尾に人が走ってるのが見えた。

 幸いこちらに向かってくるオークは残り2体しかいない。


 斧を手にしているオークが振り下ろしてきた一撃を躱し、斬って捨てる。

 残りの1体が槍をまっすぐに突いてきた。

 俺は剣で左に弾き、オークの顔面に剣を突き立てて息の根を止めた。


 すると間もなく、黒色の髪の中肉中背の男がオークの死体を踏み越えて俺たちの方へ走ってきた。


「あんたどうしたんだ?」


「に、逃げろ!! すぐに逃げろ!! 殺されるぞ!!!」


 男はそれだけ叫んで一目散に走り去っていく。

 革製の防具をしていたがほとんど原型は留めておらず、かなりボロボロだった。

 相当手ひどくやられたようだ。


 ……何が来るんだか知らんが、とにかくやばそうだな。

 

「一旦村に戻るか。あの兄さんただ事じゃなかったぞ」

 

「村までは私たちの足だと20分はかかるわ。

 近くも遠くもない距離ね」


「でも、何が来るのかまだわかってないよ。意外と大したことなかったり……」


 そのとき、地響きのような音が森の奥から響いてきた。

 今まで聞いたことのない、それは大量の何かが移動してくる音。


「……ベネットよ、ヌシらはそれなりに戦える方なのだろう。

 じゃがあの数を相手にできるか?」


 リーゼの言葉に俺は言葉を失ってしまう。

 奥で蠢いているオークの数はぱっと見てもさっきの倍以上は軽くいやがる。全体で何体いるかなんて考えるのも嫌になる。

 悪いことに、そのほとんどが何らかの装備をしているように見える。

 数で押し切られたらひとたまりもない。すぐさま蹂躙されてしまうだろう。


「逃げるぞ!!!」


 俺は叫んですぐさま踵を返して走り出す。


 冗談じゃねぇ、こんなもんCランクパーティでもきついんじゃないか!?

 Bランク相当の魔法使いが広範囲の殲滅呪文をぶちかますかでもしないと無理だろこれ!!

 剣士なんて1体1体のんびり斬ってる間に、あっという間に物量で押しつぶされちまう!!


「なんなのあれ!? あんなに食べきれるわけないよ~!!」


 横を走るアルがまたわけのわからんことを叫んでいた。

 あくまで食う気のアルに戦慄を禁じ得ない。


 クレアもレティも共に横を走っていたのだが、

 

「……ダメだ。このまま逃げるわけにはいかん」


 え?


「……ふふっ。そう言うと思ったわ」


 二人は急転換し、迫り来る大量のオークを迎え撃つ態勢になった。

 俺はその場に留まった二人の先で慌てて足を止め戻る。


「馬鹿何やってんだよ!!

 とっとと逃げるぞ!!」


「それはできん。

 このまま村まで逃げては村全体に被害が出てしまう。

 家屋は壊され殺される村人も出てくるだろう。

 オークどもを引き連れていくわけにはいかないのだ」


 ……くっ!

 ハンターは基本自由だが、大討伐のようなモノを始めいくつかは規則がある。

 その内のひとつに、魔物の引き連れの禁止がある。

 だがこれはあくまで故意性の悪意あるものに限り、だ。

 わざと魔物を釣って、これを他人に押しつけることを禁じているにすぎない。

 仮に俺たちがこのまま村に戻ってオークが村を襲ったとしても、それ自体を罰されることはない。


 だが、クレアが言っているのはそういう意味のことではないのだろう。

 こいつはあの時と同じなんだ。

 アルが大型のラッシュボアに襲われていたときと……。


「だったら村を経由せずに街に戻ればいい!

 街には衛兵だっているし防衛してる間に他のハンターに応援を頼めばいいだろ!!」


「ここから村を通らずに街へ行くには森を抜けていく必要があるけど、鬱蒼とした森を私たちが体力馬鹿のオークより速く抜けられるとは思えないわね」


 レティは嫌味なほど落ち着いている。

 この状況でなんで淡々をしてられんだよこいつは!


「ベネットよ、ここで戦いを選べばヌシらは全滅するだろうよ。

 もって半分程度が関の山じゃろう。

 悪いことは言わん、逃げよ」


 ンなこと言われんでも俺だってよぉぉぉぉっくわかってるよ!


 さっきの20体くらいの時は奴らが縦方向に並んでいたから一気に相手をせずに済んだ。

 それが今は横に広がって覆いつくすように向かってきてやがる。

 こんな周囲に木々が茂ってる場所では、死角が多過ぎてどこから襲われるかわかったもんじゃない。

 それにこいつら平常のオークじゃないかもしれん。

 さっき戦ったときは女を最優先に襲うような動きをしてなかった。

 まともに戦うオークが多勢とかどう考えても旗色が悪すぎる。


 でもクレアとレティの目見ろよ。

 完全にマジじゃねぇか。絶対退く気ねーぞこいつら!


「わわわわ、オークがもう来ちゃうよ!!」


 アルが差す方には、オークがはっきりと視認できるほどまでに接近されていた。

 たとえ村までだとしても、このまま逃げ切るのは難しいかもしれない。


 クレアとレティが一歩前に出て、オーク達を睨みつける。


「二人は村に戻って応援を呼んでちょうだい。

 私たちのように村を訪れてるハンターがいるかもしれないわ」


「ゆっくりしていたら私とレティが倒しきってしまうからな!」


 不敵に笑うクレアに俺は歯噛みする。

 魔法使いと弓士の後衛二人が戦闘して、時間がかかることはほぼない。

 敵に近づかれる前に倒すか、近づかれて倒されるかの二択だ。


 ……くそが!!


「アル! 村に戻って応援を呼んでくれ!

 お前の頼みならここのギルドの連中ならすっとんで来てくれるだろ!!」


「ベネ君は!?」


「ここには俺しか前衛がいねーだろ!!

 時間稼ぐには前衛がいなきゃ話になんねぇ!!!

 アルはできるだけ急いでくれ!!」


「わ、わかったよ!! すぐに戻ってくるからね!!!」


 アルが反転して全速力で駆け出す。

 俺ほどではないが、アルの足は魔法使いとしてはかなり速い方だ。

 クレアとは比べるまでもないし、レティにも勝る。

 それにアルならたとえ魔物と不意に接敵しても、それなりに体術の心得があるし十分に対処できるはずだ。


「……あなたまで残ることはなかったのよ」


「今からでも遅くはないぞ。

 逃げるなら今が最後だ」


 本気で心配されてるようだ。

 そりゃまぁこの状況だ。よほどの豪運でもない限り生き残るのは難しいかもしれない。 

 そんな状況なのに、どうしてこの二人は迎え撃とうなどと思ったのだろう。

 言っちゃ悪いが、見ず知らずの村人達のためにそこまで必死になる理由が俺にはわからない。


「こやつらの言うとおりじゃ。

 なに、村にハンターがいるのであればそこまで退いて合流して迎え撃てばよい。

 村は多少壊されるだろうが、うまくすれば村人に被害は出ないですむかもしれん」

 

 リーゼの言うことに激しく同意したい。

 だが、残念ながら二人を説得している時間はなさそうだ。


 俺は小さく呟く。


「リーゼ悪いな。世話になるぜ」


「……こやつらも底抜けに阿呆じゃが、ヌシも大概じゃな」


 リーゼは大きなため息を吐いて、やれやれと首を振る。


「今のワシの力では満足に魔法は使えん。支援は多少の回復魔法だけだと思えよ」


 重畳だよ。

 今までみたいに不確かなもんじゃなくて、確実に回復魔法がかかると思えば多少の無茶はききそうだ。


「クレア、レティ。一旦下がるぞ」


「ならん! 私はここより一歩も退かんぞ!!」


「馬鹿野郎、だれも逃げるなんて言ってねーよ。こんなところで死角から襲われたらひとたまりもねぇんだよ」


 俺は後方の開けた場所を指差し、やけくそ気味に嗤った。


「あそこで迎え撃つ。全滅させるぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ