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第1話 学校へ行こう

 冒険者学校に到着した俺はすぐに事務室へと向かい入校、入寮の手続きを行い寮へと向かった。

 学校は全寮制で校内に寮があるのだ。

 指定された部屋に間違いないことを確認してから、俺はドアを開けた。


「おぉう」


 思わず声が漏れてしまった。

 超狭いのだ。

 部屋の真正面の壁に窓、両側にはベッドがそれぞれ設置されていて、その脇には申し訳程度の机がある。以上。

 物が置けるスペースと言えば机とベッドの下くらいであった。


 俺は左側の机の上に布袋を置いて、ベッドに寝転がってみた。


 ……寝心地は悪くなさそう。

 決して新しくはないけど、そこそこ大事に使われているようだ。

 備品については、軽い過失による損壊でなければ弁償って規約みたいだし、そりゃある程度大事に使うか。


 俺はベッドを堪能してから、横になったまま隣のベッドの方を向く。

 この寮は2人部屋だ。

 さて、どんな奴がくるかなぁ。

 冒険者学校は半年間。どうせなら強くて気の合う奴がいい。

 あんまり堅っ苦しくない奴がいいなぁ。


 コンコン。


 考えていたら、ドアからノックの音がした。


「お……おぉ! 開いてるぞ!」


 思わず少し大きな声で答えてしまう。

 ノックとか自分の家ではまるで習慣がなかったし、時折行く村や里でも同様だった。

 やべぇ、どんな奴がくるんだろうと俺は早くもびびっていた。


 ドアが開き、中に入ってきたのは俺より少し背の高い男だった。

 肩で綺麗に切りそろえられたさらさらの金髪。

 切れ長の目をして、すらっとした印象のイケメンである。

 ……ていうか、本当に男か? まさか異性が同部屋とも思えんけど一度確認したくなるレベルだぞ。 


「君と同室になるのかな。よろしくお願いするよ」


 落ち着いた中性的な声音で微笑を浮かべる金髪男(仮)。

 俺は身体を起こす。

 

 むぅ、思慮深そうな感じだし俺とは真逆のタイプそうだな。

 いろいろと大丈夫だろうか。

 ともあれ、こちらも挨拶はしておこう。


「よろしく。俺はベネット。田舎、というか山に住んでて、ハンターどころか街のことすらほとんどわからねぇんだ。

 いろいろ教えてくれると助かる」

 

「そうなんだ。僕はアゼル。僕もご覧のとおりハーフエルフだから、あまり人の街には詳しくないんだよね」


 人よりも少しだけ伸びた耳を差して、苦笑しながら荷物を机の上に置く。


 ありゃりゃ、世間知らず同士で組んでしまったようだ。

 まぁ困ったときは先生でも同期にでも頼ればなんとかなるだろう。


 アゼルは向かいのベッドに座り背中を壁にあずけた。

 

「一応確認しておくけど、ベネット君のハンターランクは? 僕はFだよ」


「俺もFだよ。あと、君づけは勘弁してくれ。俺は15だ。そっちのが年上……ですよね?」


「はははは。僕は17歳。じゃあベネットも敬語は使わなくていいよ。その方が気楽でいい」


 超爽やかに笑うアゼル。

 最初はどうかと思ったが、いい奴そうで安心した。

 確か事務員の説明によると、実践形式の授業では同室の者同士で組むとのことだった。

 これから半年間、背中をあずけることになるのだ。どうせなら気の合う奴のがいいに決まってる。


「俺の武器はそこの剣だ。あとは無手でもそこそこいける」

 

「僕は短剣だよ。魔法は水系が得意だね。ベネットは?」


「俺は魔法はダメだ。ちょっと修練したことはあるけど、まったくコツが掴めなかった」


「え……そうなんだ」


 意外そうな顔をして俺を見る。


 冒険者を目指す者なら大抵魔法は扱える。

 威力が弱かろうと役に立つ魔法は多いからだ。

 少量の飲み水が出せるだけでも、荷物の軽減に大いに役立つのだ。習得しない手はない。


 魔法の練習については、俺の爺さんが生きていたころに教わった程度だが、本当にからっきしだったのだ。

 爺さん自身も魔法は苦手だったが、あると便利な魔法は一通り扱えたし、身体強化系の魔法も習得していた。

 だから普通に考えれば俺がまったく魔法を使えない、ということはないはずなのだが……。


 その後も俺たちは適当に自分達のことについて話していたところ、カーンカーンという間延びした鐘の音が聞こえてきた。

 どうやら集合の時間らしい。

 本格的な授業は明日からだが、先生や同期との顔合わせは今日やるのだ。

 俺とアゼルはすぐに用意をして部屋を出た。




 夕刻時。

 教室に集まった人数は40人弱といったところか。

 見たところ同年代の連中しかいない。

 ハンターになろうとする者か、ド初心者ハンターしか普通は来ないのだから当然だろう。


 間もなくドアが開き、ガタイのいいおっさんが入ってくる。


「全員集合しているようだな。時間に遅れていないようで結構。

 俺はデリフォルムだ。座学、魔法、剣術等すべて俺が教える。

 他にも教師は数人いるがいつもいるわけではないからな。

 わからないことは俺に聞け。だがなんでもすぐに聞こうとするなよ。まず疑問を自分で考えろ。

 この学校で学ぶのは半年間しかない。あっという間だ。だから常に卒業後のことを念頭に置いて行動しろ。

 この学校に入った時点で、お前たちはすでに全員がハンターだ。生きてまともにハンター稼業を続けていきたいなら、学び、経験して、強くなれ。

 ……ああ、辞めたくなったらいつでも言え。そういう決断は早い方がいいからな。

 あと俺から見て不適格だと思う奴は辞めさせる。

 そいつ本人が死ぬのもアレだが、そいつが入ったばかりにパーティが全滅でもされるのは看過できんからな」

 

 冷たい言い方だが、理解はできる。

 生き死にに関わることで妥協はいかんよね。


「全員寮の同室の者とは顔を合わせているだろう。

 今後の演習では主にそいつがパートナーになる。拒否権はない。

 気に食わない奴とも任務を共にする場合はいくらでもあるからな。

 明日は演習場で各々の体術と魔法を見せてもらう。体術はまず同室の者と戦うことになる。体調は常に万全にしておけよ。

 質問はあるか?

 ……なければ解散!」


 言うだけ言って、おっさんは教室を出ていった。

 教室に残された生徒たちも、各々解散する方向へ動いている。

 移動しているのは方向的に寮の部屋に戻る者ばかりのようだ。

 もう少しすれば日も暮れるだろうし、釘を刺された初日から外へ遊びに行くチャレンジャーはいないようだった。


 ……ちょっと街を探索してみたい気持ちはあったが仕方あるまい。

 俺もおとなしく部屋に戻るとしよう。

 いや、その前に食堂か。

 学校が食、住だけは用意してくれるのだ。ありがたい。


 俺はアゼルの姿を探すと、ちょうど廊下に出ていくのが見えた。

 追いついて二人で食堂へ向かう。


 飯はなかなか美味かった。




 ◇ ◇ ◇


 

 

 実力的にみれば、僕は冒険者学校に入る必要はないだろう。

 現在は最低のFランクだが、これは冒険者になったばかりなのだから当然だ。

 僕の目的からすれば今すぐにでも様々な依頼をこなして情報を集めるべきなのかもしれない。

 だが、それは短慮だ。


 冒険者学校は様々な街にあるが、創立からは30年以上が経過している。

 関わった人もかなりの数にのぼる。

 無論全員がそうではないが、ある程度冒険者が集まれば何人かは関係者がいてもおかしくない。


 他種族が人間社会に溶け込むのは容易ではない。露骨な排斥とまではいかないが、決して消えない壁が存在する。

 ましてや僕は半端ものと称されるハーフエルフだ。

 何も寄る辺がなければ、0どころかマイナスからの信頼構築となる。

 欲しい情報は手に入りづらいし、冒険者としてのコネを結ぶことも困難だろう。

 下手をすれば組んだパーティ仲間に裏切られる可能性すらある。


 だから僕はこの学校に来た。

 脆く弱いが、確かに存在する繋がり。

 冒険者学校の卒業生だという経歴を、信頼構築の糸口とするために。


 寝返りをうったところ、同室の少年が視界に入る。

 ぐっすりと眠っているようだ。

 元気で明るい、すれていない素直そうな赤髪の少年。

 田舎から来たというが、ハーフエルフである自分に対してまるで偏見がないように見えることからも事実だろう。

 他人から悪意も警戒心もなく真っ直ぐに目を合わせられるなんて本当に久しぶりだ。


 ……もしかしたら、この学校では僕にも仲間ができるかもしれない。


 そんな淡い希望も捨てきれずにいたが縋ってはいけない。

 僕は、自分がいかなる存在であるのか決して忘れてはならない。


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