第16話 ゴブリンを討伐しよう
トラットリアの森を歩くこと1時間、俺たちは岩壁にあいた洞窟を見つけた。
これが件のゴブリンが住まう根城らしい。
離れたところから様子を見るが、何体か洞窟を出入りする体長1.3メートル程度のゴブリンはいたが大きな動きはなかった。
「じゃあ、作戦どおり行こうか」
アゼルの言葉に全員が頷き、クレアが詠唱を開始する。
俺たちも装備をそれぞれ確認して、クレアの魔法を待った。
準備が整い、クレアの魔法が炸裂する。
「フレア・ストーム!!」
洞窟内に炎の竜巻が吹き荒れる。
突然の魔法攻撃にゴブリン達は右往左往し、慌てて外へと飛び出してきた。
本来緑色であるゴブリンが黒く煤けている。
「グギャッ!?」
出てきたところをすかさずレティが次々と射抜いていく。
今日のレティは通常サイズの弓で、飛距離と威力はそこそこだが連射がしにくい弓であった。
どうにかレティの弓を掻い潜ったゴブリンを待ち受けるのは、
「フリーズ・アロー!!」
アゼルの魔法による氷の矢。
数本の矢に穿たれたゴブリンは成すすべもなく倒れていく。
アゼルの間合いにクレアも加勢してゴブリン退治はさらに安定していく。
「ヌシ、出番ないのではないか?」
肩に乗っているリーゼに突っ込まれた。
ほんにその通りである。
一応俺は弓も魔法も抜いてきたゴブリンを仕留める役だったんだけどなぁ。
これは仮にゴブリンリーダーがいたとしても一溜りもないだろう。
この混乱状況では統率も糞もないのだから。
などと思ったのはフラグだったのだろうか。
「グィギギギギーー!!!」
洞窟から少し離れた森の中からゴブリン数体が出てきた。
どうやら外に出ているモノたちもいたらしい。
未だ洞窟からはゴブリンが出てきている。
俺の出番はあったようだ。
こちらに向かってくるゴブリンは4体。
弓を装備しているのが2体、斧と楯を装備しているのが2体で内1体は他の個体と違い赤色の個体がいた。
ゴブリンリーダーだ。
「グギイィィィイイイイ!!!」
俺は手近な敵とみなされたようで、斧装備のゴブリンが俺に斬りかかってくる。
ゴブリンの動きは大したことないが……斬りかかってきたゴブリンが突如右方へ跳んだ。
すかさず弓矢が飛来してくる。
さきほどまで俺がいた場所をボロの矢が2本通過した。
斧ゴブリンを倒そうと不用意に剣を振るっていれば矢をくらっていたかもしれない。
さすがにリーダーがいる複数のゴブリン相手に連携を取ること自体は予想がつく。
俺は斧ゴブリンと同じように右方へ跳んでいたため事なきをえた。
「そいっと」
なぜ自分の動きについてこられたのかと驚いていた様子の斧ゴブリンの首をはねた。
「グギ!? グギギギギ!!」
あっさりと前衛がやられたことに焦ったのか、ゴブリンリーダー自ら突っ込んでくる。
何か策でもあるのかと思ったが、後方の弓ゴブリンはなぜかまともに動けない様子だった。
リーダーの斧が降り下ろされる。
さきほどのゴブリンと比べれば動きはいいが大した脅威ではない。
念のため俺は余裕をもって後方に躱すが、リーダーも弓ゴブリンも特におかしなことは何もしてこない。
「ギィィイエエエエエ!!!」
激昂するリーダーが再度斧を上段に構えるタイミングで俺は踏み込み、首をとばした。
すかさず弓ゴブリンを仕留めようと走り始めたが、すでに2匹とも地に伏していた。
「お疲れ様」
アゼルが短剣を持ったまま軽く手を挙げる。
どうやら無事に終わったようだ。
ゴブリンの討伐証明として耳を剥ぎ取り終えたところで、我らが引率のザムディンさんがぽつりとこぼした。
「……なぁ、君ら本当に冒険者学校の生徒なのか?
やけに手際がよすぎないか」
俺でも出番があるか心配したくらいだ。引率のザムディンさんはよっぽど暇だったのだろう。
「今回は個々の能力は低いゴブリン狩りでしたからね。
先制攻撃がうまくいけばさほど苦戦することはないのでは」
「私の魔法のおかげだな! ちゃーんと手加減も覚えたのだぞ!」
胸を張るクレア。
確かに今までのクレアなら最初の一発で残らず灰にしてそうだ。
素材採取のため手加減をして洞窟から炙り出せたのは立派な成長である。
「手加減て……ありだけの威力でか?
なんというか、君たちが卒業してくるのが楽しみでもあり怖くもあるよ」
どうやら褒められているようだ。
「にしても時間まだ結構あるだろ。どうするか」
「ふははは! こんなこともあろうかと、私がひとつ依頼を受けておいてやったぞ!!」
勝手に依頼を受けておくとか普通に考えてとんでもないが、まぁクレアだしなぁ。
今回に限ればちょうどいいし、文句は棚の上に置いておくとしよう。
「何の依頼を受けたんだ?」
「ふっ。オーク討伐だ!!」
あ、それまだやってたんだ。
◇ ◇ ◇
あれから俺たちは討伐したオークの肉を食べて戻ってきた。
腹も膨れたし、討伐報酬も上乗せできた。
惜しむらくは、せっかく俺たちに付いてくれてたザムディンさんの実力を直に見られなかったことか。
「……俺が学校にいたころはもっと可愛げがあったぞ。
今はさくさくオークを倒してしまうのだな」
なんてザムディンさんには言われたりした。
だが、俺はまだまだだ。
ゴブリン狩りのとき、リーダーが無策で突っ込んできたり弓ゴブリンの動きがおかしくなったりした。
あれはザムディンさんの殺気を込めた威圧でゴブリンリーダーが恐慌状態に陥ったのだ。
戦闘中はよくわかっていなかったが、今考えればそういうことなのだろう。
相当の実力差がない限り、威圧など効果が出ないものだ。
ザムディンさんの地力の強さがうかがえる。
「俺の方はゴブリンの時は助けられちゃいましたけどね。
機会があれば、いつかパーティを組んでもらえるよう精進します」
「ほう、ベネットはあれに気づいていたのか……。
そうだな。君たちならば申し分ないだろう。
卒業後、パーティに困ったときは俺に声をかけるといい。われらが『雨の雫』が歓迎しよう」
爽やかに笑うザムディンさん。
……ん?
雨の雫……?
あ! この人アルを勧誘してた人じゃねーか!!!