第15話 引率されよう
今日は冒険者学校の魔物討伐の演習日だ。
各々の生徒が自前で用意した装備をして、ギルド近くの広場に集合している。
生徒達は4人、又は6人のパーティに別れてそれぞれが連携や今日の方針を話し合っている。
集合している生徒達の前にデリフォルムのおっさんと数人のハンターが出てきた。
「本日はお前らがギルドから出されている討伐依頼をこなす。
基本的には常時依頼の討伐が対象だが、希望するのであれば通常依頼の魔物討伐でも構わん。
自分たちのパーティの実力を考えて成果をあげろ。
なお、万一にもお前らひよっこが死なないように、随伴するハンターをつける」
デリフォルムの説明で、各々のハンターがパーティに一人ずつ合流する。
さすがにトップクラスのAランクハンターはいないが、BランクやCランクのハンターといった中堅ともいえる者たちだ。
このあたりで戦う魔物であれば、彼らは単独で無双できるだろうし安全面に関しては十分だろう。
「俺は君たちと共に行動する。
俺の名はザムディン。槍士だ。
これでもBランクのハンターだから何かあっても俺が君たちの安全は保証しよう。
だから今日は思い切って討伐に精を出してくれ」
ザムディンは白髪で無精髭の生える体格のいい男だ。
かなり鍛えているようで、筋骨隆々。
装備している槍は、生徒が装備しているそれよりもふた周り程度大きく頑丈そうだ。
全力で振るえば、なるほど俺たちが相手にするような魔物ならひとたまりもないだろう。
「ザムディンさん、本日はよろしくお願いいたします。
僕はこのパーティのリーダー、アゼルと申します」
アゼルの出す右手にザムディンが握り返す。
「アゼル君はハーフエルフか?
なかなか面白いパーティのようだな」
ザムディンの言葉に嫌なひっかかりを覚えたのか、クレアが「あ?」と女の子らしからぬうめき声をあげる。
つか、いきなり先輩ハンターにメンチ切るのやめてくれよ、狂犬かお前は。
すぐにレティがクレアの首を90度曲げて誤魔化そうとしたが、ザムディンには聞こえてしまったようだ。
「はは、すまない。悪い意味ではないんだ。
君たちのように若い子らの間ではあまり気にしていないのかもしれないが、私たちくらいの世代ではいわゆる種族間での隔たりというものが歴然と存在していてね。まったく馬鹿馬鹿しい限りさ。
だから君たちが、実力をきちんと評価してハーフエルフであるアゼル君をリーダーとしていることにむしろ好感を覚えてね。
いや言葉が足りなかったな。すまなかった」
ザムディンが誠実に謝罪する。
なんだこのおっさん、すごいいい人なんじゃないか?
格下ハンターである俺たちにこんなこと言う人なんて、そうそういないだろ。
さすがにクレアもバツが悪かったのか、こちらこそ早とちりしてすまなかった。と返していた。
「こやついい男ではないか。
ワシもあのような広い心と逞しい身体に抱かれてみたいものよな」
一切の流れを無視して、リーゼが己の欲望を吐露する。
お前みたいな小人が抱かれたら速攻でペシャンコにされるぞ。
まずは依頼を確認しなければ始まらない。
めぼしいのがなければ常時依頼の魔物討伐だが、せっかく中堅ハンターがついているのだ。
俺たちはギルドの掲示板を見ながらよさげな依頼を探していた。
「……しかしこうして改めて依頼を見ると、BランクやCランクの魔物討伐って結構出てるんだな」
グリフォンやレッサーデーモンなどの有名どころや、その他聞いたことないような名前の魔物の討伐依頼がいくつも張り出されている。
簡単ではないが、このフレアファストの街はそこそこ栄えていてBやCランクのパーティはいくつか拠点にしているはずだ。
実力的に受けられないことはないだろうし、そこそこいい依頼にも見えるが何かあるのだろうか。
「最近は魔物の増加傾向にあるってのが理由のひとつだな。
だが実際のところは、もっと割のいい仕事があるからだな。
もっとも無難で稼ぎやすいのが商人の護衛だ。これはうまくすれば商人に帯同するだけで依頼が達成できる。
もちろん盗賊に狙われたり魔物と交戦することもあるけどな。
あとはおエラ方の護衛なんてのもあったりする。
あれは金払いがものすごくいいぞ。ただし失敗したらコレもんだけどな」
ザムディンさんが右手の親指を自分の首の前で横に動かす。
……シャレにならんな。シャレじゃないんだろうけど。
「単なる魔物討伐は自分達の腕に自信があったり、面倒な交渉を嫌うハンター達が受ける傾向にあるな。
強ければいいって考えるハンターはいるし、俺もその考えは間違っちゃいないと思う。
ただ、どうせならいろいろな依頼を受ける方が面白いし、それこそがハンターの醍醐味なんじゃないかと俺は思うぞ。
まぁ、君たちの場合はひとつずつ確実にこなせる依頼を積み上げて信用を得ていくのが第一だけどな」
見事に無難なオチをつけてくれた。
討伐の依頼を一通り確認したが、Cランク以上の依頼を受けることはできない。
実力うんぬんもそうだが、遠征しないといけないものばかりなので一日で達成できないのだ。
「これにしましょうか」
レティが持ってきた依頼書はゴブリン討伐だった。街の付近に奴らの根城があるらしい。
ゴブリン自体は大して強くないのだが群れて行動するためEランク指定となっている。
場合によっては進化したりしているゴブリンリーダーもいて、その場合はCランクに匹敵する。
リーダーも個々の実力はそれほどではないのだが、ゴブリンの群れに統率力が生まれて集団としての力を発揮するようになる。
暴れるだけの魔物とは異なるので、ランクだけを見て舐めてかかると痛い目に会うのだ。
基本的にEランクの魔物のくせに、下手したらCランクに化ける。
そんなわけでゴブリン討伐は初心者には手を出しづらいし、中堅には他に美味しい依頼があるという微妙に人気のない依頼だった。
「ゴブリンは相手にしたことなかったし、せっかくだからそれにしようか」
「右に同じ」
アゼルがレティから依頼書を受け取り、俺も賛成する。
「私もそれでいいぞ」
クレアも賛成したため、アゼルは依頼書を持って受付に向かった。
にしてもクレアの奴、なんで受付の方から歩いてきたんだ?
「ゴブリン討伐か。
俺がいるしゴブリンリーダーがいても対処できるのだからちょうどいいか」
ザムディンさんはふむふむと頷いていた。