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第12話 理由を考えよう

「……ねぇ、ベネット。君のその回復力はどういった仕掛けなんだい?」


 訓練後。

 俺はいつものように飯を食べて自室にて沸かした湯で身体を拭いていた。

 俺が服を着始めたところで、ベッドに座って少し緊張した面持ちのアゼルに問いかけられた。


「なんのことだ」


「うん。最初は気のせいなのかなって思ってたんだ。ベネットは訓練ではあまり怪我をしないから。

 でも森に魔物討伐に出たときはやっぱりかすり傷くらいは負うよね」


「こまめにポーションを飲んだりはしてるなぁ。なにせ俺は前衛だからできるだけ体力には余裕が欲しいし」


「じゃあ今日の試合は?

 クレアの炎式結界を破ったよね。強引に剣で斬りつけて体当たりで破壊するなんて驚きを通り越してあきれたけど。

 でも無傷ではいられない。不得手とはいえ、クレアは優秀な魔法使いで炎系統を得意としている。

 その結界をああも強引に抜けて傷ひとつないのはおかしいよね。

 今日は君がポーションを飲んでたの見ていないよ」


 ……ううむ。 

 いつかは聞かれるかもしれないとは思ってたけど、さてどうするか。


「気は進まないけど、今この場で僕が傷つけた方がいいのかな。

 それとも君が寝ているときとか?」


 冗談としておどけて言うアゼルに俺は両手を挙げる。


 まぁ俺も殊更隠すつもりはなかったし、同室のアゼル相手にいつまでも誤魔化すことは不可能だと思っていた。

 ちょうどいい機会なのかもしれない。

 今まで過ごす間で、アゼルは十分に信頼できるとは思っている。

 もしかしたらハーフエルフであるアゼルならばなにかわかるかもしれないし。


「俺は魔法が使えない。それはアゼルもよく知ってるだろう」


「そうだね。ベネットからは確かに魔力を感じるけど、その扱いが致命的に不器用なのか、他になんらかの要因があるのか」


「致命的て。……とにかく俺は魔法が使えない。

 だが逆に考えてみる。もしかしたら、俺はもうすでに魔法を使っているのではないかと」


「……それが、その回復力だっていうのかい? 呪文は? 一切の無詠唱とでも? 魔法を使うための集中もなしに?」


 あきれたように言うアゼル。

 常識で考えればその通りだろう。


「ぶっちゃけて言えば、俺は自分のこの回復力の理由を知らないんだ。

 気づいたときには、すでにこうなっていた。

 軽傷程度であればすぐに治癒される。

 骨折などの重傷でも、普通の人間よりも大分早めに回復する。

 ……そして俺は魔法が使えない」


 うむ、言ってて俺も半自動ともいえる魔法の発動はないように思うけどな。

 だが本当に俺にはわからないのだ。


「そして毎回必ず怪我が回復するわけじゃない。

 ときには大したことのない擦過傷が一晩残っていたときもある」


「……ヒール程度の回復力はあるとしても、それが必ず起こるわけではないっていうのは妙だね。

 回復しなかったときのベネットの体調は? 極端に疲れていたりしなかった? その前に大怪我をしてすでに回復をしていたとか」


「別に普通だったな。その前に怪我もしていない。

 あのときは朝起きても傷が残っていて、それもしばらくしたら消えていた。

 ……そうだな。思い出してみれば夜に回復しないときは何度かあったな」


「……夜か。

 ベネット自身の力、魔物の持つような固有のスキルのようなものだけど、僕はそれが一番可能性が高いと思っていたんだ。

 でも今の話を聞くと、どうもそうじゃなさそうなんだよね。

 僕たちがそういった能力を持つこと自体が考えにくいのに、ましてや時間帯によって発動しないことがあるなんて能力、聞いたことないよ」


 俺自身の能力で自動回復がなされているならば、それは本当にどエライ能力だろう。

 魔物の中にはそういう奴もいるし、魔族や獣人族にもそういった特殊な能力持ちはいると聞いたことがある。

 だがそれはあくまで例外。

 人間やエルフやドワーフなんかにはそんな能力を発現しているものはほとんどいないらしい。


「まさか俺も偶然そんな特殊能力持ちだとは思えん。

 けど、じゃあ俺の現状はなんなんだ? って話になる。

 結局考えてもわからんから、あまり気にしないようにしてきたわけだが」 


 発動するだろうな程度で、完全には信頼していない。多少当てにはしているがな。


「……ええと、ベネット。今までの話で嘘はついてない?」


「ないない。俺はそういった腹芸は得意じゃないんだよ。

 それに俺自身、この能力について納得のいく説明があるなら知りたいところだ」


「……ううん、そうか。……もしかしたら……いやでも……普通は……だがこの状況……」


 おやおや、アゼルさんが思いっきり考え込んでしまっているぞ。

 なにやら思い当たるところがあるようだし、とりあえず聞かせてもらうとしようか。


「俺もここまでぶっちゃけたんだ。

 アゼルが何か知ってることあれば教えてくれねぇか」


「……あぁ。そうだね。自分でも到底信じられないけど、どうせなら試してみようか。

 ちょっといいかい」


 言って、アゼルが俺の右手を取る。

 ……こいつ手柔らかいなぁ。


「何する気だ?」 


「今から僕とベネットの魔力の回路を通じて繋がりをつくる。

 これ自体は何の危険もないから安心して」


 アゼルが俺の手を両手で包むように持ち、目を閉じてなにやら集中し始める。

 と、一瞬だけ視界がぶれて、また元に戻った。


「……今、僕の魔力がベネットの身体にも循環している。

 だからと言って僕の魔力を使って君が魔法を使えるようになるわけじゃないけどね。

 あくまで、魔力が循環するだけ。

 で、その意味なんだけど……わかるかな。おそらく君の……すぐ前のあたりだと思うんだけど……」


 ひどく曖昧なことを言う。

 俺の前に何かがあるというのか。

 勿論、目の前には何もない。何もないのだが。


 ……なんだ、意識し始めたら急になにかが「ある」ように思えてきたぞ。

 いや、今はもう何かが空間をゆっくりと漂っているように感じてる。

 なにかがいる感覚がある。なんだこれ?


「……僕にはうっすらとだけど存在を感じられる。

 僕の魔力が君に循環しているだけでなく、君の魔力が僕に循環している状況だからかもしれない。

 とにかく、なんらかの存在を知覚できるのであれば、それをもっとはっきりと意識してみてくれ」


 アゼルが話す間にも、俺は少しずつではあるが、確実にその何かを感じ取れるようになっていった。

 それは薄く、ともすれば吹けば飛びそうな存在。

 姿はよく見えない、というよりもなんらかの形ができようとすると反対に霧散していくように見える。

 だが確実にそれは存在しているのだ。

 それだけは確信をもって言える。


「……ふぅ」


 アゼルが息を吐いて手を放す。

 一瞬だけ視界がブレるが、やはりそれだけでなんともない。


「ベネット、もうそれの認識はできてるだろう?

 あとは君が接触すれば、それとの繋がりは生まれるはずだ。

 君との繋がりが生まれれば、きっとそれはもっとはっきりした形でこの世界に現存するようになる」


 アゼルが珠のような汗をかいている。

 いつも涼しい顔しているアゼルがめずらしい。


「こいつがなんなのか。アゼルはわかってるのか?」


 もしも危険なものであれば、正直そんなものと繋がりを得るのはごめん被りたいところではある。

 今ならまだ引き返せるのではないかと弱気が顔を出す。

 

「……さぁ。僕にもわからないよ。本音で言えば存在自体を感知できるとも思えなかったし。

 天使か、悪魔か、魔獣か。この世界の理から逸脱しているものでもおかしくない。

 でも自力で存在を安定して保てないほど弱体化しているのは間違いない。

 現時点でそれほど危険視する必要はない、と思う」


 言葉だけ聞けば大丈夫そうだが、アゼルの表情が真剣すぎてまったくダイジョウブに思えない不思議。


 まぁここで迷っててもいずれは気になってブチあたる問題だろう。

 一丁腹括って見るか。


 俺はゆっくりと、目の前に漂うそいつに手をかざし触れた。

 途端モヤのようだったそれが、急速に外形を形作っていく。


 数秒の後、そいつは俺の前に姿を現した。

 それはどう見ても小さな人のようだった。

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