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プロローグ 街へ行こう

 太陽が輝く真昼間。

 俺は林に挟まれた街道を、はずむ気持ちを抑えて歩いていた。

 目指すはフレアファストの街。

 以前一度訪れていた場所なので道に迷うことはなかった。


 初めて街に向かったときは、とても心細く思ったものだ。

 なにせ、俺は今まで小さな人里や村には行ったことはあるものの、人が大勢集まる街となると一度も訪れたことがなかったのだ。

 一人旅であるので、まず実際に街までの道が合ってるかどうか確信が持てない。

 あのときは1度道を真逆に間違えて、魔族の住まう北の大地を目指すところだった。

 見当違いの方へ向かう俺に話しかけてくれた商人のおっちゃんたち、本当にありがとうございます!


 フレアファストの街についてからは、今まで見たことのない大勢の人、物、建物等々見て面食らったものだ。

 そしてそれ以上にわくわくした。

 これからは俺も街の一員となり、そして、


「……ハンター、か」

 

 口に出して、決意を新たにする。

 そのために俺は再び街へ行くのだ。




 順調に街に向かっていたところ、左前方の木々に違和感。

 まさか、これは……。

 思わず鼓動を早くする心臓に右手を当てて落ち着こうとするが、それが功を奏す前に奴らは俺の前に現れた。


「おう、お前。有り金全部渡せ!」 


「その布袋ごと置いて行きな! 素直にしてれば命だけは助けてやるぜぇ」


「一丁前に剣なんて持ってるなんてなぁ。もちろんそれも置いてけよぉぉ!!」 


 チビ、デブ、ハゲの男がそれぞれ俺に言い放つ。

 小汚い服に、手に持つのは少し錆びたショートソード。

 間違いない、こいつら話に聞く盗賊という奴ではないだろうか。

 うわぁ、すげぇなぁ。本当にいるんだなぁ。さすがは都会に続く街道だぁ。前に来たときは会えなかったのに!


 思わず感動してうち震えている俺を、奴らは指さして笑った。

 このガキびびってやがる、だの、かわいそうだから俺たちで鍛えてやろうぜ、だの仲間内で好き勝手言っている。

 完全に油断していた。これ幸いである。

   

「ふっ」


 肩に背負っていた布袋を置くと共に一つ息を吐き、俺は3人の中央へ一気に加速した。

 デブに対して手の届く位置まで迫ったときには、さすがに彼らも応戦しようとしたが……、


「そいっと!」


 ショートソードを振りかぶろうとするデブに接近して、右の掌底を顎にひとつくれてやる。

 倒れるデブには目もくれず、即座に方向転換して、後ろに迫るハゲの腹に右足で後ろ回し蹴りを打ち込む。

 蹴りの反動を利用してハゲの方に振り返りながら間合いを取る。

 て、ハゲ悶絶してるし動けそうにないか。


「てめえええ!!」 


 右方から剣を突いてくるチビをバックスステップで躱し、足を引っ掛けて転ばせる。

 起き上がる前に、背中のど真ん中に体重を乗せて踏みつけた。


 3人は、意識はあるものの仲良く地に伏して呻いている。

 これ以上戦える状態ではないようだ。


「っし。快勝!」


 思わず右拳をぎゅっとにぎったところで、俺は慌てて前方に転がった。

 即座に立ち上がり周囲を確認し、そいつが視界に入る。


「ほう、やるじゃねぇかガキ。ひょっとして、お前ハンターか?」


「……志望、だね。まだハンターじゃない。

 あんたこそやるじゃないか。直前まで気配に気付かなかったぜ」


「くくく。ガキに褒められてもなァ」


 街道脇の木の影から、バンダナを巻いた男が現れる。

 手には短弓。

 バンダナ男は弓を構えもせず、ゆっくりと俺に近づいてくる。


 ……今のは矢か。

 直撃したらヤバかったが、右腕に掠った程度。これなら問題ない。

 だが妙だな。短弓とはいえ、俺との距離は5メートル程度。

 ここまで間合いを詰めたら構えていない奴の方が圧倒的に不利だ。

 何を考えてやがる。

 いや、そもそも戦いに備える気配がない……?


「しかしお前も運がなかったなァ。

 こいつらの攻撃でおとなしくやられてれば死なずにすんだものを。

 そろそろ毒が回り始めた頃だろう?

 もうロクに動くこともできないんじゃないのか?」


 バンダナ男は俺の右腕、擦過傷となった部分に視線を向けていた。


 ……ああ、なるほどね。

 こりゃ油断大敵だわ。


「ぐっ」


 俺はバンダナ男から視線は外さず、うめいて右膝をついた。 


「かははははっは!! これからお前には人生で一番長い数分が訪れるぞ!!!

 傷口から腐食は広がって自分の身体がどんどん腐り落ちていく!!!

 せいぜい醜く苦しむ顔を拝ませてくれよぉぉぉおおお!!!!」


 最高潮に盛り上がっているバンダナ男。

 楽しそうで大変結構。


「そいっと」 


 突如立ち上がり突撃する俺に、え?という表情のバンダナ男。

 一瞬だけ時が止まったかのように視線を合わせて、俺は右足でバンダナ男の側頭部を蹴り飛ばした。



  

 さて、無事モノホンの盗賊を倒したはいいんだけども。

 ……こいつらどうしよう。

 街に連れてって衛兵に引き渡せば、幾ばくかの謝礼は出るはずだ。

 正直超貧乏だし金は欲しいのだが、こいつら4人を拘束して歩くのは結構大変そうだ。

 何より予定より到着が遅れるのは不味い。


 どうしよう。さすがに放っておいたら別の人が襲われるだろうし。

 でも無力化したのを殺すのもなぁ。戦いの最中ならまだしも、あまり気が進まない。

 うーむ。


 どうしたもんかと熟考した結果、俺は街道脇に生えてる木のツルを斬り、四人をそれぞれ木に縛ることにした。


「襲われたり飢えたりするかもしんないけど、運がよければ助かるから」


 呻きながら恨み節を炸裂させる盗賊たちに、俺はいい笑顔で返した。

 魔物か動物か同業者か、そいつらに見つかれば終了だろう。

 ヒマな冒険者なら街の衛兵に引き渡すだろう。

 旅先の商人なら……リアル商売敵だし殺されちゃうかなぁ。

 うーむ、思った以上に難易度高いぞ。

 まぁいいか、自業自得だ。


 何か文句を言っているらしい盗賊を無視して、俺はフレアファストの街に向かった。 

 目指すは、冒険者学校だ。


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