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生まれ変わっても?

作者: 汐琉

ふと思いついて、息抜きに書きました。自分で言うのもなんですが、彼がこわいです。

主人公がちょろいので、心配になります。

 突然だが、私には前世の記憶がある。

 別に気が狂った訳ではない。

 前世では、私には愛する人がいて、彼も私を深く愛してくれていた。

 でも、健康優良児だった筈の私は、急な病に倒れ、もうその時には手遅れだった。

 余命宣告を受けた私は、彼と別れようと思ったけれど、彼は最後まで私と寄り添って生きてくれた。


『生まれ変わっても愛してる』


 それが、前世の私が聞いた最後の言葉だった。




 その後、いわゆる死後の世界的な体験はなく、ある日、ふと前世の記憶を思い出した。

 この時、私は6歳。

 前世で言えば、小学校に入学、となるが、今生では違う。

 だって、

「いせかいだもん」

 赤い屋根のそこそこ大きな家が、私の家。

 私の今の名前は、アンジェ・トート。

 前世を思い出した当初は、外国かなって思ってた。

 周りは、金髪とか赤毛とか、青い目とか緑の目とか、普通にいたし。

 次は過去で、中世あたりとかかなって思った。

 服装が中世ヨーロッパとか、そういう感じに見えて。あと、電気もないし、文明感がなかったから。

 でも、違和感があって、会話の端々に出る国の名前とか、盗み見た手紙の文字とか。

 決定的だったのは、まず世界地図。

 まるで見た事がない大陸が、そこには描かれていた。

 次は、異世界なファンタジーな生き物たちだ。

 羽のあるウサギとか、ピンクの猫とか、可愛らしい。時々、遠くをドラゴンが飛んでったりする。

 そんな異世界で、私は貧乏貴族の令嬢をしている。

 貴族だけど貧乏なので、きらびやか、な生活ではなく、おかげさまでのびのびさせてもらっていたけど……。

『生まれ変わっても愛してるよ』

 なんて、言ってくれるような情熱的な恋でもしたいなぁ、とか思っていた時もあったけれど。

「このであいは、はやすぎます」

 泣き笑いのような顔で抱き締めてくる相手の腕の中、私はひっそりとため息を吐いた。

 その日、私は城へと用事があった父に連れられ、城へ来ていた。

 一張羅のドレスを着た私は、自分でいうのもなんだけど、可愛らしい幼児だと思う。ドレスが少し古い型なのも、気にならない筈だと思っていたけど。

 でも、やっぱり、同性の目は厳しい。

「あらあら、随分とアンティークなドレスですわね」

「みすぼらしい貴女に、良く似合ってますわ」

「本当に」

 ひそひそ、くすくす。

 父とはぐれてしまった私は、中庭で15歳ぐらいの令嬢達に囲まれ、言葉によって小突かれていた。

 見た目は子供だけど、中身は強かな大人な私は、泣いたりせず、上目遣いで令嬢達を観察する。

 テンプレな貴族令嬢達は、何故か私を構いながら、チラチラと背後を窺っているのだ。

 そろそろ悪口のネタが尽きたんじゃないかなって頃に、新たに一人の貴族令嬢が姿を現した。

「貴女達、弱いものいじめは止めなさい!」

 うわ、ちょー棒読み。

 私は、半目になりながら、新たに現れた令嬢を見る。

 年齢は、私を囲んでいた令嬢より少し上、見た目はもっと上。気位も高そうな金髪美少女だ。

「貴族として恥ずかしくないのかしら?」

 棒読みで言いながら、私を囲んだ令嬢を睨む美少女。シュールだ。

 私が、この小芝居なんだろうと悩んでいると、凛として涼やかな男性の声が庭へ響いた。

「何をしている、騒がしいぞ」

 いらっしゃいましたわ。

 バッチリですわね。

 あとは、打ち合わせ通りに。

 本人達は、小声で話しているつもりだろうが、囲まれている私には丸聞こえなんだけど。

 私は幼児らしくない苦笑いを浮かべ、涼やかな声の主を好奇心から見ようとするが、令嬢達が壁となって姿は見えない。声からすると美形ぽいから、ちょっと残念だ。

「こ、この方々が、幼児をいじめてましたから、咎めていたんです!」

 耳を澄ませていると、興奮で上擦った声が聞こえ、私は茶番の目的を悟る。

 どうやら、私は好感度アップのダシにされてしまったらしい。

「へぇ?」

 結果は芳しくないようだけど。

 涼やかから、冷ややか移行した青年の声に、好感度アップを狙った美少女は、背中でもわかるぐらいに慌ててる。

「この方々、この子のドレスが、古臭い上に、貧乏臭いってヒドイ事を言ってたんですわ!」

 そこまで言われてないけどなぁ。

 協力してたらしい令嬢達も、そう言いたげな顔をするが、美少女の方が偉いらしく、何も言わない。

「それで? 俺に何を言えと?」

 青年の冷ややか度しかアップしてないけど、大丈夫なんだろうか。

「あの、わたくし、貴族として正しいこと……」

 大丈夫じゃないみたいだね。

 私は一つ息を吸い、美少女のドレスを軽く引いて、視線をもらう。で、ニコリと笑って見せてから。

「おねーさま、たすけてくださって、ありがとうございます!」

 美少女が泣きそうだったので、幼児らしい助け船を実行してみた。

「と、当然の事をしただけだわ!」

 お、美少女が復活して、胸を反らせて偉ぶりながら、青年の方をチラチラと窺っている。

 そこで初めて、私も美形(予定)な青年の姿を確認出来た。

 青みがかった艶やかな黒髪に、鮮やかな赤色の瞳。引き締まった体つきの、野性的で綺麗な青年に、思わず私は見惚れる。

 ただ純粋に、美しい生き物だと感じて。

 赤い目って事は、王族なんだなぁと貧乏貴族な私は、他人事のように考えながら、青年を見上げる。

 野性的で綺麗な青年なんだけど、何処か冷めている雰囲気の青年を。

 何だろう、ほんの少しだけど、何か感じた気がしたから。

 さびしい?

 かなしい?

 くやしい?

 地面を見つめて悩むが、どれもしっくり来ない。

 雑音をシャットアウトして考え込んでいたら、不意に強い視線を感じて、私はパッと顔を上げる。

 かち合ったのは、私だけを見つめている、赤色をした美しい宝石みたいな瞳。

 こぼれ落ちそうな程に目を見張っている青年に、私はゆっくりと瞬きをする。

 何となく。

 そう、何となくだ。

 深い意味はなく、私はその場から走って逃げ出した。

 城の中に、逃げ出しても逃げ込む先がある訳はない私は、小さな体を生かして植え込みに隠れる。

 しばらくジッとしてたが、ふと冷静になり、自分の滑稽さに気付いてしまう。

「わたしをおってくるひと、いないよね」

 そう。そうなのだ。

 あの令嬢達が、わざわざ追いかけてまで絡んでくる訳ないし、ましてや目が合っただけ幼児を、追いかける理由なんて、青年にある訳ない。

「あるとしたら、とんでもない、ろりこんさん?」

 だとしたら、とても残念だ。

 美形の王族で、ロリコン……笑い話にもならない。

 冷静さを欠いた照れ隠しに、私はそんな事を考えながら、植え込みの中で小さく笑う。

 そこに、近付いてくる足音が。

 一瞬、まさか妄想が本当に!? なんて思ったが、私を追っている訳ではなさそうだ。焦る様子も、迷う様子もなく、足音は何処かの目的地を目指しているようだから。

 耳を澄ませて足音に集中していた私は、気付けなかった。

 その足音が、真っ直ぐ近付いてきている事に。

「みーつけた」

 え!? と思った時には、大きな手が植え込みを掻き分け、赤い瞳が私を見下ろしている。

 私は反射的に、不敬だとかも忘れて、植え込みを飛び出して逃げ出そうとするが、それより早く、背後から両脇に手を差し入れられて、持ち上げられる。

「あ、あの、はなしてください!」

 しばらく空中で足をバタつかせた私は、意を決して振り返って訴えてみる。

「嫌だ。逃げるだろ」

 コクリと頷くと、いい大人が拗ねた顔をする。

 その顔を見ると、またさっきと同じ、形容しがたい思いが胸へこみ上げる。

 ぶら下げられながら、拗ねた顔をしている青年を振り返り、しばらく見つめて、私はこの思いへピッタリの名前を思い出す。

 ――なつかしい、だ。

 やっとしっくりいき、私はまっ平らな胸を撫で下ろす。体は相変わらず宙吊りだけど。

「あのー、おあいしたことますか?」

 懐かしいと感じたって事は、初対面ではないのだろうと、私は振り返りながら、青年を窺う。

 私の言葉を聞いた瞬間、青年はガーンという表情で固まり、私はその隙にドタッと着地する。

「すみません、あなたさまのおなまえを、おしえていただけますか?」

 逃げても即捕まるので、まずは青年とコミュニケーションをとってみることにする。礼儀作法とかは、幼児なので多目に見てほしい。

「今は、ラファエルだ」

 おぅ、王族決定しました。確か、第一王子です。

 見えない誰かに報告して現実逃避しつつ、私は思わずジリジリと後退りする。が、すかさず伸びてきた腕に捕まり、引き寄せられて、ラファエル王子の腕の中だ。

「な、なんですか? わたしは、ただのびんぼうきぞくのむすめです!」

 必死に抵抗すると、ゾッとするほど冷めた瞳が、私を見下ろす。

 殺される――ッ。

 本能的な恐怖から、私はギュッと目を閉じてしまう。けど、いつまで待っても衝撃はなく、顔にパタパタと何かが当たる。

「あめ?」

 パチリと目を開けると、そこにはボロボロと涙を流し、美しい顔をグシャグシャにした大人がいた。どうしよう、これ。

「えー……」

 ひっくとしゃくり上げるラファエル王子に、私は迷いに迷った挙げ句、ラファエル王子の頭をよしよしと撫でる。

「どうしたの? どこかいたむ?」

 思わず、話しかける口調が幼児向けになるぐらい、ラファエル王子はマジ泣きしてる。

「俺は、ずっと変わらず愛してるのに……」

 生まれ変わっても。

 えぐえぐとしているので聞き取り難いが、ラファエル王子の言葉は、私にとって初耳ではなかった。

 死へ向かう私へ、彼がずっと囁いていた。

 それはもう、しつこいぐらいに。

「まさか、ね。そんな……」

 ラファエル王子の涙を拭いながら、私は口内でポツリと洩らす。幸いにも、ラファエル王子には聞こえなかったようだ。

「ラファエルさま、もうしわけありませんが、わたしは、もうかえ……」

 最後まで私が言い終える前に、ラファエル王子の涙に濡れた瞳が、キッと睨み付けてくる。

 目力ヤバい。

「嫌だ。帰さない。ずっと一緒にいるんだ」

 もう駄々っ子だ。

 実際、ラファエル王子が命令したなら、貧乏貴族でしかない我が家は従うしかないだろう。

 しょうがない。腹を括ろう。彼は良くも悪くも執念深かったから、逃げられる気がしない。

 決心した私は、ラファエル王子の頬へ両手を添え、ゆっくりと口を開いた。ラファエル王子が、本当に彼なら、これで通じる筈だ。

 彼の最後の言葉へ、私が返した言葉。

「またあおうね」

 こぼれ落ちそうなぐらいに目を見開いたラファエル王子を確認し、私は涙の味がする頬へ唇を寄せる。

 ちゅ、と可愛らしい音がし、気恥ずかしさから私は離れようとするが、感極まったラファエル王子の方が早い。

「愛してる――えぇと……」

「いまのなまえは、アンジェです、ラファエルさま」

「そうか。愛してる、アンジェ」

 さりげなくキスしようと近寄ってくる顔を、私は小さな手で押し退ける。

「ひとまえでは、おっしゃられないように。はんざいしゅうしますから」

「キスも駄目なのか?」

 目に見えてシュンとするラファエル王子に、私は心を鬼にして頷く。

「このであいは、はやすぎます」

 泣き笑いの顔で抱き締めてくるラファエル王子を見つめるが、年の差は20ぐらいありそうで……。

「ラファエルさま、モテモテですから、べつに、わたしとのやくそく、まもらなくていいですよ? わたしも、べつのあいてをみつけますから」

 巡り会えた喜びに舞い上がったのは一瞬で、埋めようのない年の差という現実に、お互いのためには、別の相手を選んだ方がいい。そう考えて私は、胸の痛みを堪えて言ったのだが、すぐに後悔した。

 またさっき見た、ゾッとするほど冷めた瞳が、私を見つめていたから。

「……いるのか、そんな相手が」

 低く地を這うような問いかけに、私はブンブンと首を横に振る。

「なら、大人しく愛されていろ。




 ――二度と逃がすつもりはないからな」




 どうやら、私には逃げ道はないようです。

 ラファエル王子なら、年の差も権力でどうにかしそうなんで、私はラファエル王子がロリコンと呼ばれないよう、最後の一線は死守しようと思う。




 生まれ変わっても、追いかけてきた愛しい彼と共に生きるためにも。



(いくら愛があっても、王子でも、犯罪だし)

肉体年齢はロリコンですが、精神年齢はオッケーな感じです。

まあ、生殺しで手は出せませんが(笑)


号泣する大人……異世界巻き込まれた。でも、書く予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幼児相手にJKJCが何やってんの? と、思ってたら王子がロリコンだったので当然の行動でした。納得です。 ヤンでる相手にはチョロ子ちゃんの方が幸せになれるなぁ、当事者通しが納得して犯罪に…
[一言] 最初に捕獲されといて、安心感を与えて、徐々に許容範囲を広げていかないと、酷いヤンデレになりそう
[一言] 主人公6歳、からんできた令嬢15前後、20歳差なら王子様25くらい? 王子様ってその歳なら政略結婚しているでしょう!
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