悪役王女
楽しかった思い出。
幸せだった思い出。
それら全てが駆け抜けていくように消えていく。
目の前に立つその人は私が心から愛していた人。
だけど、もう、彼に何の感情も湧きあがらない。
私の目の前で別の女を庇い、私に対して敵意を露わにさせている。
なんて面倒くさいのかしら。
私が悪で、彼女が正義。
最初から決まっていたかのように流れていくストーリー。
何て馬鹿馬鹿しいのかしら。
「話はそれだけかしら」
早くこの場から去ってしまいたい。
この人たちの喜劇に付き合ってなどいられない。
「逃げるつもりか」
逃げるも何も、最初から同じ舞台になど上がっていない。
上がりようがない。
「王女である私にそのような口の利き方が許されると思うのか。臣下ごときが、口を慎みなさい」
威圧感たっぷりに彼に告げる。
もう、私とは関係のない人だ。
これから先、この男が上がってくることもない。
王族の………私の不評を買ったのだ。
周りからも見放されることだろう。
後ろにいた女も青ざめているが私にはどうでもいい。
私が王族であることを知らなかったことはないだろう。つまり、罰せられ、家が没落しても構わないという位に男を愛しているのだろう。
私には愚かとしか思えないが。
家と恋。
選ぶとしたら私は迷わず家(国家)をとる。
恋に溺れて選択を間違えることなど許されない。
「それでは皆様ご機嫌よう」
にこやかに微笑み私は舞台から退場した。
END