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「はぁ……気持ち良いな……」


 王都から駿馬を走らせても七日は掛かるだろう山の奥。背の低い木々が大量に立ち並ぶ中に彼は居た。

 大自然の中であって不自然にポカンと開いた広場。太陽の日差しに照らされた新緑の草原の上に寝転がっている。

 空いっぱいに広がる綺麗な青い空。心地良い風と共に流れる白い雲。

 春先の気候はとても過ごし易く、暖かな空気が辺りを包んでいる。何もする気が起きず、のんびりしているのも仕方がないことだろう。

 とは言っても、彼がのほほんと過ごしているのは今日に限ったことではない。毎日のようにここで寝転がっている。

 自堕落な生活を送る彼を咎める者は誰も居ない。山菜や木の実、果実を採取し、獣をたまに狩るだけの山での暮らし。一日のほとんどを無為に過ごそうとも、毎日を生きるだけの食料を確保することこそがここでの暮らしなのである。

 騎士養成学校に通う為の王都での二年間の暮らしは彼には全く向いていなかった。時間の流れが早く、王国の歯車のように忙しなく働く者ばかり。ゆったりと時間の流れるここでの暮らしが好きな彼にとって、幼馴染みの選択は真似出来ない。


 ――今日はイノシシでも狩ろうか。


 空をぼんやりと見上げたまま過ごすこと小一時間。大きく広げた腕で投げ出していた杖を握った彼は、草のベッドからゆっくりと立ち上がった。

 貯蔵してある食料もだいぶ少なくなってきている。今日ばかりはいつまでもゆっくりしている訳にはいかない。


「……ん?」


 早く狩りを終わらせ干し肉を作ろうかと考えていると、広場を囲う茂みが揺れる音を耳にした。

 反射的に固まる体。そちらへと体を向け、ガサゴソと揺れる茂みを見つめる。

 どんどんと大きくなる揺れは風が原因では決してない。剥き出しとなった顔に触れる風は柔らかい。不自然に一ヵ所だけ揺れているそこに何かが居るはずだ。

 胸の高さまである木の杖を握る右手に力を籠める。

 イノシシでなくても良い。新鮮な肉を食べられるのは半月ぶり。ウサギなどの小動物でなければ何の肉でも良い。

 少なくともこの激しい揺れはそれなりに大きな動物だと思っていたのだが、彼の望みはあっさりと裏切られる。

 茂みが左右へと開かれ現れた侵入者。勢い良く飛び出した何者かは一瞬で距離を詰め刃を振り上げた。


「くっ……!」


 姿を捉えることが出来ないながらも杖で弾くと、彼は自ら背後に飛び退いた。

 その間にも敵の姿を確認しようとするが、薄手の鎧を纏った騎士はそれを許さない。再び地を蹴り、鋭く剣を振り上げようとする。

 少しばかりの余裕を得た彼は迫られる前に杖を平行に大きく薙ぎ払った。現れたのは氷の刃。数十本もの氷柱は引力に導かれるように全てが騎士という目標目掛け一斉に向かう。

 近距離からの魔法によるカウンター攻撃にも騎士は止まらない。一振りで全ての氷柱を無効化した騎士は返す刃で勢いのままに剣を打ち出す。

 逃げることが無駄だと察した彼は両手に持ち替えた杖で正面から受け止めた。

 鋼の剣と木の杖の激しいぶつかり合い。

 近距離スタイルの騎士と遠距離スタイルの魔法士の均衡した戦いはしかし、突然と終わりを告げられる。騎士である彼女の言葉がきっかけだった。


「体は鈍ってないようだな、ハルト」


 今度は彼女の方から距離を取ると、腰に下げた鞘に剣を納め涼しい笑みを浮かべた。


「ふん、ずいぶんな挨拶だな、キルシェ」


 彼女に合わせ杖を下ろしたハルトは面倒くさそうに頭を掻いた。


「わざわざこんなつまらないことをしに帰ってきたのか?」


 幼馴染みが自分を試すようなことをしたことに対してハルトは一切驚きを覚えていない。例えそれが二年前から王国に仕えるキルシェが相手でもだ。常に無気力なハルトが驚くことなど滅多にない。


「ああ、いや、今回はちょっとした任務でハルトに用事があってな。このお遊びは単にお前の腕が鈍ってないか確認する為だよ」


 解けば胸に掛かる長さの黒髪を後ろで一つに纏めたキルシェは、髪をまさに馬の尻尾のように揺らしゆっくりと歩み寄って来る。

 細身の体に纏うのはミドル丈の赤い長袖ワンピース。胸や肩を守る銀色の薄いメイルプレート、膝まで覆ったメイルブーツと典型的な女性騎士のスタイル。帰郷してすぐだからこの格好をしている訳じゃないようだ。


「俺に用事?」

「ああ、重要な用事だ」


 眼前で足を止めた幼馴染みは、強い意志の籠った黒い瞳でハルトを見つめる。陰りのない表情と、より輝きを増した綺麗に整った顔立ちは、騎士として順調に仕事をこなしている証だろう。


「面倒事じゃないだろうな?」


 一方で、二年前から何も変わらないハルトは眉間に皺を作る。


「例えお金を貰えようが面倒なことに関わる気はないからな」


 他人にとってはいかに価値あるものも、自由気ままに過ごせることに勝るものはない。それ以前にこの村では物々交換を行うのが主流で、金や銀、銅などの貨幣は流通していない。


「まあ、ハルトなら絶対にそう言うと分かっていたよ。だが、この任務は国王陛下から直々に任された任務だからな、どうしてもお前には協力してもらうよ」

「国王陛下直々の任務?」

「ああ、それぐらいに重要な任務だよ」


 ハルトが少しでも興味を示したことに、キルシェは口元を緩める。

 真面目な雰囲気を常に纏った彼女が同僚に笑みを見せることなど滅多にないが、幼馴染みであるハルトは特別である。同じ十七年の人生のほとんどを共に過ごしてきたので、本当の姉弟のように感じている。


「ずいぶんと出世したんだな」

「階級はまだ一番下だよ。今回の任務は特別でね、昨年の若手騎士対抗トーナメントで上位に入った者達を国民へのポーズとして派遣することにしたみたいだ。血税を無駄にした批判を和らげる為にも全てを勇士に任せるのはまずくてね」

「はーん、なんか色々と事情があるみたいだが、俺には全く関係ないことだな」


 言葉の節々から感じる面倒そうな雰囲気。彼女から視線を逸らしたハルトはその横を抜け、逃げるように自分の家へと向かって行く。


「ハルト、最後まで話を聞いてから考えてくれないか? ハルト以上にこの任務で頼れる奴は居ないんだよ」


 もちろんキルシェは諦めずその背中を追うのだが、


「そんな国王が関わるような面倒事になんて関わりたくはない。絶対に死地に行かされるだろ」


 ハルトは振り返りもせず、茂みを掻き分け進んで行く。幼馴染みの頼みとは言え安請け合いするつもりはない。下手に引き受ければいずれは王国の歯車にされることだろう。それだけは絶対に駄目だ。


「別にお前を死地に連れて行くつもりはない。陛下が御触れとして出したこの任務自体は、魔王打倒を掲げる勇者を名乗り王国から金品を騙し取った偽勇者一行の討伐だけだ。魔国とは一切関わりはないぞ」

「そんなの信用出来るか。偽勇者一行を討伐した奴等を代わりの勇者一行として魔国と戦わせるフラグがビンビンじゃないかよ」


 三歩遅れて付いて来るキルシェの言葉はハルトの心には響かない。やっぱり前だけを見据え切り捨てる。その言葉に怒りはない。行動的なキルシェが持って来る面倒事は常にこうやって淡々と拒否してきた。

 騎士養成学校に入学する話もそうだった。キルシェのいかなる説得もずっと拒絶し続けた。大魔法士として有名なキルシェの父親がこの杖を譲ると言ってくれたので、最後の最後に折れた訳だが。


「ハルトがそれを口にしたことがさらにフラグになっているんじゃないか?」


 茂みを抜け柔らかな土を踏みしめる彼女はほのかに笑みを浮かべる。断られることに慣れていたキルシェもまたハルトの言葉が心に響くことはない。


「ふん、それは俺が任務を受けたらの話だろ? 受けなければそのフラグが立つことはないよ」

「まあ、確かにその通りだが、今回も最後まで断り続けられるかな」

「ずいぶんと余裕だな」


 視界の先に村とを隔てる柵が見え始めた所でハルトは足を止め振り返った。


「まさかクラウスさんを呼んでるんじゃないよな?」

「さすがに父さんは呼んでないよ。そもそも今どこを旅してるのかも分からないしな」


 早くに両親を失ったハルトにとって親代わりであるキルシェの両親。二人に強く説得されればまずかったが、キルシェが騎士となったタイミングで第二の人生を歩もうと長い旅行――もとい冒険に出掛けている。

 だからこそハルトは平静を崩さなかったのだが、キルシェは他の切札を持っているような口振り。頼んでいる側である彼女の方が何故だか主導権を握っている。


「何を企んでる?」


 面倒事に巻き込まれたくないとハルトは眉間に皺を寄せ訝しむのだが、


「まあ、すぐに分かることだよ」


 対照的にキルシェは目尻と口元に皺を作ると、ハルトを反転させその背中を押す。

 キルシェがどんな切札を隠し持っているのか、彼女の言葉通りハルトはすぐに知ることになる。

 野生の動物が侵入しないようにと村をぐるりと囲った、ハルトの胸ほどの高さの木の柵。開閉出来るようになったその一部を抜けた目の前にハルトの家がある。この村にはありふれた二階建ての木造建築。一人暮らしには大き過ぎる、亡き両親と共に過ごした生家だ。

 隣の家との距離は広く、その間には畑や井戸などがある。近くに実のなる木や川があるとは言え、安定的に手に入る食料とすぐに手に入る生活水は村にとっては重要である。


「おお、ハルト君を連れて来てくれたんだね」


 真っ直ぐに家へと向かっていたハルトは、扉の前に佇む老人に声を掛けられた。いや、掛けられたのはずっとくっ付いていたキルシェ。禿げ上がった頭、口と顎に白いひげを蓄えた六十過ぎの、穏やかな雰囲気を纏った彼の視線はハルトの背後にあった。


「はい、村長さん。村の行く末がかかってますからね」


 事前に話を合わせていたようなキルシェの返答を耳にしたハルトはすぐに察した。村を巻き込んで自分を説得するつもりだと。

 それを証拠に、老若男女問わず三十人近い村人達が離れた所からこちらを見ている。自らの説得に協力してくれるよう、キルシェは既に根回ししていたのだろう。


 ――逃げるしかない。


 キルシェと村長に挟まれる位置に居たハルトは両足に魔力を注ぎ、硬い地面を強く蹴る。

 高く舞い上がったハルトだったが、逃げる気持ちをすぐに失ってしまう。


「くっ……!」


 地を蹴った瞬間、杖を持った右手に走った衝撃。


「どこに行くつもりだ?」


 ゴツゴツした木の杖はハルトの手から消え、かつての持ち主の娘が楽しそうな笑みを浮かべ握っている。ハルトの考えなどお見通しだったキルシェは、自らの右手を強化しタイミング良く奪い取ったのだ。


「はぁ……返せ」


 脱力し溜め息と共に舞い降りると、


「お前が皆に何を吹き込んだのか、この任務にどうして村の行く末がかかってるかぐらいの話は聞いてやるよ。あくまでも話を聞くだけだ。受けるかどうかは別だからな」

「ああ、それでも良い。最後までしっかりと話を聞いてくれれば杖は返すよ」


 結局主導権をキルシェに握られたまま、ハルト、キルシェ、村長の順でハルトの家へと入って行った。


     ◇


 フローリングとなった広いリビング。調度品の類の全くない室内の中央では、床に直に腰を下ろした三人の男女が脚の短いテーブルを囲っている。


「つまり、町興しをして貰いたいということですか」


 面倒くさそうに頭を掻いたハルトは正面に座る村長を見つめる。

 一辺に二人が座れる正方形の大きなテーブルでは男性同士が向き合い、二人と三角形を描く位置に唯一の女性であるキルシェが座っている。それぞれの前にはキルシェの淹れたお茶の入ったカップがあるが、ハルトは一口も飲んでいなかった。


「ああ、そうだね。君達の偽勇者一行討伐成功でこの村に与えられる褒賞金は要らないが、少しでもこの村の知名度を上げたくてね」


 村長はハルト達に未来を託すことに対してすまなそうにしながらも、しっかりとハルトを見つめ返し自分の言葉を口にした。


「はぁ、過疎問題ですか……」


 村長の強い眼差しから視線を逸らしたハルト。渋い表情を浮かべたその頭の中では、ほぼほぼキルシェが語ってくれた言葉が渦巻いている。

 国王が出した御触れの詳しい内容。

 この村からどんどんと若者が流出し、都会で職探しをしていること。

 その結果、十年前から人口が五十人も減り、三百人を割ってしまったこと。

 過疎問題を案じながらも何も対策を打つことが出来なかった村長や村人達は、藁にもすがる想いでキルシェの話に乗ったことなど。

 果たして本当にこれで知名度が上がり、移り住んでくる者が現れるのかは疑わしいが、これ以外に頼れる手段がなかったことは痛いほどに分かる。ハルトもこの村が大好きで、いつまでも変わらず残っていて欲しい気持ちは強い。


「私達は決して強要するつもりはないから、本当に嫌なら素直に断ってくれれば良いよ。村の皆も分かってくれると思うよ」


 難しい表情を浮かべ思案していたハルトへと村長は穏やかな笑みを向ける。


「また別のアイデアを考えれば良いんだからね」

「村長さん……」


 カラッとした笑みを浮かべているが、村長も充分に理解している。そう簡単にアイデアが出ることなどないことを。


「危なくなれば諦めれば良いし、ハルトが本当に面倒になったら帰ってくれば良いからさ、行くだけ行ってみないか? 別にここに残ってもやることはないんだろ?」


 村長への助け舟か、それとも自分の為か、キルシェは真剣な顔で話に割り込んだ。


「いや、まあ、確かにやることはないけど……」


 ハルトにとってはやることがないということが一番の望みであり最も幸せなこと。詳しい話を聞いても正直この任務を受けたくはない。

 しかし、その言葉を口にすることが出来ない。こんなにも自分を頼ってくれていることに、何とも表現し難いモヤモヤした気持ちを胸に抱いてしまっている。


「今すぐに結論が出せないなら、明日また話す機会を設ければ良いんじゃないか」


 初めてのことに苦しむハルトを助けてくれたのは、意外なことにキルシェだった。


「村長さんもそれで良いですかね?」


 彼女はハルトの返答を聞かずに村長と話をつけると、


「それじゃあ、この杖は返すからな」


 自らの脇に置いていた杖をテーブルに載せると、村長と共にそのままハルトの家を後にした。


 ――気遣いが出来るところは変わってないか……。


 彼女達の姿が完全に見えなくなったところで、ハルトは力ない笑みを浮かべる。悩みはまだ消えてないものの、キルシェの行動により不思議と胸が温かくなった。


 ――ゆっくり休みながらどうするか決めようか。


 結局一度も口にしなかったぬるいお茶を一気に飲んだハルトはその場で背を突き、木目の綺麗な天井を見上げる。

 だが、ハルトにゆっくりと考える時間はなかった。

 寝転がった全身へとすぐさま広がる倦怠感。重く垂れさがった瞼。何が起こったのかと考える間もなく脳にかかった靄。

 キルシェに睡眠薬を盛られたことなど分からないままにハルトは深い眠りに落ちた。



「ん、んん……」


 夢を見ることもないまま、ハルトは頭全体にズーンと響く頭痛と共に目覚めた。眠っていたはずなのに、体には初めて感じる妙にざわざわした異質な疲れが溜まっている。


「くぅ……こ、これは……」


 横たわっていたハルトはすぐに自分が異常な状況にあることに気が付いた。

 体に響く小刻みな震え。ガラガラと耳に響く何かが軋む音。薄暗く狭い室内に閉じ込められた彼の手足は縄で強く結ばれていた。


「お、ようやく目覚めたのか」


 眠る前に何をしていたのか、痛い頭で必死に思い出そうとするハルトへと掛けられた聞き覚えのある声。


「ん……え、キルシェか?」


 男性が三人横たわるといっぱいになるだろう、立ち上がると頭が天井に着いてしまうほどの四角い籠の中。首を捻り見上げたハルトが目にしたのは幼馴染みの顔。薄白い幕から顔を出した、王都で騎士として働いているはずのキルシェのものだった。

 状況が理解出来ないでいるハルトの脳内に徐々に蘇る記憶。


「……あ、そうだ! お前俺に何をしたんだ!?」


 ほどなくしてキルシェの任務のことを思い出したハルトは声を荒げた。


「なんだここは!? なんで俺は縛られてるんだよっ!?」

「なんでって、これが私の作戦だからだよ」


 矢継ぎ早のハルトの追及にもキルシェは平静を崩さない。


「はぁ? 作戦って、話の機会をまた明日に設けるというのは嘘だったのか?」

「ああ、嘘に決まってるじゃないか。ハルトにはこれまでに何度も振り回されてきたからな、ちょっとした復讐みたいなもんだよ」


 薄暗くも見えるキルシェの顔にはニヤリとした笑みが浮かんでいる。騎士学校の授業でよくパーティを組んでいた面倒くさがりのハルトに対し、それほどまでに鬱憤が溜まっていたのだろう。


「でも、断る気はなかったんだろ? 村の状況についての嘘は一つもなかったからな」


 元々入学する気はなかったんだからそれぐらいは目を瞑ってくれと言いたいハルトへと、キルシェはそんな言葉を呟いた。既にその視線はハルトにはなく、背中だけを向けている。

 キルシェとは反対側の籠の隙間から見える星空。揺れや狭い空間などから考えるにここは馬車の中であり夜道を進んでいるのだろう。


「ふん、で、どこに向かっているんだ? というか、いつになったらこの紐を解いてくれるんだ?」


 キルシェの疑問には答えず逆に尋ねる。絶対に偽勇者を討伐してくれと言われれば断ったが、あんなにも遠慮がちに頼まれれば断りようがなかった。

 むしろ、キルシェにこんな感じで連れ出してもらったのは良かったかも知れない。この話を受けただけで大勢の村人から感謝されるのは少し照れくさい。


「もう少し行ったらな。今さら村にのこのこと戻ることは出来ないだろうが、私の下から逃げられても困るからな」

「心配しなくても良い。そんな面倒なことを俺がする訳もないだろ。このまま偽勇者のとこまで運んでくれ」

「はは、ハルトらしいな」

「ふん」


 キルシェとのやり取りを終えたハルトは目を閉じる。寝転がっていると揺れが体にもろに響いて気分が悪くなっていた。

 抵抗する気はもうないので、寝ている間にも偽勇者の所まで本当に運んでもらえると助かる。

 もし倒せた暁には、その時にこそ全力で逃げれば良い。自分の生まれ故郷である村は大切だが、この国に対する忠誠心などは一つもない。

 ハルトにとって一番大切なのは、あの村でゆっくりと自由気ままに過ごすことなのだから。


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