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広大な大陸に跨るロマノ王国。
数百年に渡り大陸を支配して来た王国の中心地である王都ではその日、一枚の御触れが出された。
魔王打倒を掲げ、王国から武器や防具、多額の旅の資金を騙し取った偽勇者一行を倒した者達、また、倒した者達を派遣した町や村にはそれぞれ金貨百枚を褒賞として与える。
国王コルネリウス二世
たった数行程度の文字は多くの国民に衝撃を与え、国中へと一気に広がった。
国民の払った血税を、深く調べもせずに得体の知れない者達に与えたことへの怒りの声は少なくはない。だが、それを掻き消すほどに多い声がある。
――魔国を相手にすることは出来ないが、偽勇者なら俺達にだって……。
一獲千金を目論む多くの若者達は立ち上がり、偽勇者討伐の夢を見ることを望んだ。
しかし、実力ある若者の誰もが旅立った訳ではない。
王立の騎士養成学校を優秀な成績で卒業した青年ハルト。貴族にこき使われる騎士の道には進まず、故郷の山村でのんびり暮らす道を選んだ彼は、相も変わらずとのんびりと暮らしている。
旅立たない理由は他にやることがある訳でも、お金に余裕がある訳でもない。そもそも他人との関わりの少ない暮らしの中で御触れを知る機会がないので、厳密には御触れから目を逸らした訳ではない。
ただ、彼を知る者なら誰もが分かっている。
アイツなら絶対に動くことはない。
面倒くさいの一言で右耳から左耳へと聞き流すはずだ、と。
その予想は決して間違ってはいなかった。だからこそ彼女はすぐさま彼の下へと向かった。
偽勇者討伐に王国から派遣された騎士キルシェ。騎士養成学校を首席で卒業した彼女にとって、幼馴染みの力が誰よりも信頼出来るからだ。