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あかしや橋のあやかし商店街②【書籍化】  作者: 癒月
第十幕~座敷わらしの新居探し~
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座敷わらしの新居探し-六-

 ✿―✿―✿―✿


 菖蒲と真司は、最寄り駅に行きそこからバスに乗って堺公園墓地へとやって来た。

 バスから歩いて十五分ぐらい掛かり、真司は幸がこんな離れた場所にいるとは思えなかった。しかし、菖蒲には確かな確証があったのだ。



「幸は、この場所におる。新しい家を探しているついでに私の方で澄江のことも調べておいたのじゃ。亡くなった後どこに眠っているのかを、な」



 ここは澄江の骨が眠ってる場所――だから菖蒲は幸が必ずここにいると確証したのだった。

 菖蒲の行き渡る行動に真司は「さすが菖蒲さん」と思いながら感心する。そして、目的の場所へと辿り着くとお墓の前で蹲り泣いている幸がそこにいた。

 まるで、一人だけ置いてけぼりにされたような幸の姿に、真司の胸がチクリと痛くなる。



(幸ちゃん……)



「……幸」



 菖蒲が幸の傍に行き優しく声を掛けると、幸の肩がピクっと小さく動いた。けれど、それでも幸は顔を上げることはなかった。

 幸は顔をうずめながら「菖蒲様……私はなぜ人では無いのかでしょうか……?」と、菖蒲に言った。



「澄江と一緒に話して遊んだ時間は短いものです。でも……でもっ!!」



 バッと勢いよく顔を上げる幸は、大粒の涙と悲しみ・苦痛の表情で覆われながら心の叫びのように「澄江は私に名前をくれたっ! すごく楽しかったっ!! 嬉しかったっ!!」と、菖蒲に言い放った。



「澄江に会いたいっ……澄江と一緒に天へと逝きたいっ……!」



 空を仰ぎ、大粒の涙を流しながら泣き叫ぶ幸。

 真司は幸の悲痛な姿に自分までもが辛く悲しくなり初め、幸の心情を思うと今にも泣きそうになっていた。

 それは菖蒲も同じだった。

 いや菖蒲だからこそ、真司とはまた違う気持ち……誰かと別れる幸の気持ちもわかるのだろう。菖蒲は泣きじゃくる幸を抱き寄せると、そのままギュッと抱き締める。



「泣くな、幸。お前さんの気持ち……その悲しみもわかるが、別れは決して永遠では無いのじゃ」

「でも……でもっ、そうなれば、澄江はもう私の知っている澄江じゃないですっ!」

「そうやね。……でもね、姿形は違えどその魂は同じなのじゃ。そして、魂に刻まれたものは本人すらわからない所で、以前と変わらない部分もあるんやよ」

「変わらない、部分……?」



 菖蒲は黙ったままコクリと頷き話を続ける。



「一時でも、その人と共に過ごした者しかわからぬ事じゃ。澄江のことをよく知っているお前さんだからこそ、その時が来たら直ぐにわかるよ。……それまでは、心の整理がつくまで辛いかもしれぬ。けれど、お前さんなら乗り越えられる」

「菖蒲、様……」



 菖蒲は目を閉じ、雛菊にも同じようなことを言ったことを思い出す。

 今は喜びが耐えない雛菊も、いずれ幸のようになる日が来るかもしれない。けれど、菖蒲は信じていた。

 雛菊も、幸も、人と関わりを持ってしまった妖怪達がその悲しみを乗り越えるということを。

 菖蒲は微笑みを浮かべながら幸の耳元にコソッと自分の秘密を話す。



「私も長い時を経て、愛する者と再会出来たのじゃ。例え記憶が無くても、私は直ぐにそ奴だとわかったぞ。そして、そ奴は今も私の傍にいてくれる……」



 菖蒲の言葉に目を見開き驚く幸。

 菖蒲は抱き締めていた幸の体を離し、人差し指を口元に当て「これは、秘密じゃぞ」と、小さな声で言った。



「菖蒲様……もしかして、その方って……」

「ふふっ、お前さんが考えているのが誰かは敢えて問わぬが、ここは首を縦に振っておこうかの」

「……っ!!」



 幸は菖蒲の過去のことを知らない。けれど、菖蒲から聞いた話で、もうそれは確信へと変わったのだ。

 幸は涙を拭い菖蒲との話を続ける。



「菖蒲様は、今は幸せですか? 私も、また幸せだった気持ちになれますか?」

「昔と今じゃ色々と変わったこともあるが……私は、今も昔も幸せじゃ。幸だって、澄江と過ごした時のような気持ちにまたなれるよ」



 幸は菖蒲の言葉に小さな光が見えてきたのか、菖蒲から一歩距離を置いた。もうその表情には、先程の悲痛な顔は無い。

 そして、少し離れたところで二人の様子を見ていた真司。

 真司は菖蒲と幸の二人でヒソヒソと話しているのは聞こえなかったが、菖蒲もまた幸と同じような想いになったことや、それを乗り越え〝今〟があるということを改めて知るとまた自身の胸がチクリと痛くなった。そして、自分が菖蒲に対するこの想いを、これからも打ち明けられないと知ってしまった。



(菖蒲さんに自分の気持ちを今は言うつもりも無い……これからも、僕はきっと言えない……)



 真司は今の関係が壊れてしまう不安と怯えの他に、また菖蒲を悲しませてしまう……真司が歳をとりその命が尽きた時、幸のように菖蒲を泣かせてしまうと思ったからだ。

 真司は菖蒲の涙だけは見たくはなかった。涙を流させる時があるのなら、真司はきっと自分を攻めるだろう。

 悲しい思いをさせてしまったと。泣かせてしまったと。

 真司は心臓が締まるような想いと同じく、自身の手をギュッと握った。



「……言えるわけない」



 それは自然と出た言葉だった。

 真司は自分がそれを口に出していた事に気づき、慌てて口をつむぐ。

 すると、幸と同じ目線になるようにしゃがみこんでいた菖蒲がスっと立ち上がった。



「幸、もう落ち着いたかえ?」



 菖蒲の問い掛けに幸は小さく頷いた。



「はい、大丈夫です」



 そう言うと幸は菖蒲と真司の顔を見て腰をおって深く謝った。



「お二人にご迷惑をかけて申し訳ございませんでした! 私……家や澄江を亡くしてしまったことに、まだ悲しいですけど……でも、また澄江に会えるのを待ちます」

「よかった……」

「では、そんなお前さんとも気が合うやろう者と合わせるとしようかの。きっと、その者の家が次の新しい住まいとなるじゃろう」



 菖蒲の言っていることに真司と幸は同時に首を傾げ菖蒲を見る。唯一わかる本人はと言うと、袖口を口元に当てクスリと静かに笑ったのだった。



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