座敷わらしの新居探し-五-
✿―✿―✿―✿
今回も菖蒲は真司の為に、他の人間にも菖蒲の姿が捉えられるように化けて現世へと訪れた。と言っても、姿形は何も変わらず、狸や狐が化けるように頭に葉を乗せて変化することも無い。個人のやる気スイッチがあるように、真司の知らぬところで菖蒲は瞬きをするように目を閉じ一瞬で化けたのだ。
そして、真司達は医者の家に着くと幸のこともあり、家から少し離れた人目のつかないところで話をし始めた。
「ここが白雪さんが言っていた場所ですよね?」
「立派なお家ですね!」
真司は菖蒲が持っている写真の裏を覗き込むように見る。写真の裏には白雪が書いた手書きの地図が書かれていた。
「うむ。写真と同じじゃな。それに、隣に表札と同じ苗字のクリニックがあるしの」
「ですね。幸ちゃん、どう? 気に入った?」
「はい! 早速、中を拝見させて頂こうと思います!」
そう言うと、幸は走って大きな家の玄関まで行った。
真司は「どうやって家の中にはいるのだろう?」と考えていると、丁度家の中から40か50代ぐらいの女性が現れた。
幸はその瞬間にスルリと家の中に入り、幸の姿が見えない女性はそのまま玄関に鍵をかけたのだ。真司は思わず感心したような息を吐く。
「凄いタイミングで家の人が出てきましたね」
「ふふっ、これは幸の妖怪としての力じゃよ。座敷童子は幸運の力が強いからの。家の者がたまたま出てきたのも、偶然ではなく座敷童子がいたからじゃ」
「そっか。座敷童子は幸福を与えるんですもんね。なら、自分にも運がやって来るのも納得いきます」
真司がそう言うと菖蒲は小さく頷いた。
「逆にの、貧乏神は何をしようにも災難になるんじゃよ。貧乏神が落とした物を拾おうとすればカラスに持って行かれ、晴れていたから外に出れば雨に降られる」
「……何だか想像できます」
苦笑する真司に菖蒲も苦笑いを浮かべた。
「じゃが、その貧乏神も稀に福の神になれると言われておるんじゃよ」
「へぇ〜、そんなことってあるんですね」
「うむ。その逆も然りじゃ。福の神が貧乏神や落神になることもある。人を貶め、騙し、人々を不幸にし、悪に染まってしまった神がなるのじゃ」
「神様にも色々あって大変ですね」
菖蒲は「うむ」と呟く。
「人は『神は苦労しない』と思っている者もおるかもしれんが、神には神の事情、妖怪には妖怪の事情がありそれぞれ苦労しとるんじゃよ。人と同じようにな」
「そっか……そうですよね」
(悲しみも喜びも持っているんだもん。長く生きている神様も僕らと変わらないよね)
真司は妖怪だけではなく神様も人となんら変わらないことを改めて実感すると幸のことを考えた。
「幸ちゃんも、色々あったんですよね」
「そうじゃな。特に座敷童子は一つの家に長く住むからの。その家主の人生を共に過ごすのと同じじゃ」
菖蒲の言葉に真司は「それって、家族みたいですね」と、小さく呟いた。菖蒲は真司の言葉にクスリと笑う。
「そうじゃな。大人になってからは幸のことは見えぬようになったが、澄江も真司のように幸が見えていれば幸のことを家族と言うじゃろうな」
そんな話をしながら幸の帰りを待つ真司と菖蒲。しかし、いくら経っても中々戻って来ない幸に真司は少し心配した。
家から離れた場所で十分ぐらい様子を窺っていると、家の持ち主である女性が買い物袋を片手に戻って来た。女性は鞄から鍵を取り出し玄関の戸を開けると、又もやスルリと幸が外に出てきたのだった。
「幸ちゃん」
真司が幸の名前を呼ぶと、幸は苦笑いを浮かべながら「遅くなりました」と、菖蒲と真司に言った。
「どうじゃ、幸。気に入ったかえ?」
「はい。お家の中は広く、とても綺麗でした。でも……」
幸はシュンとした表情になり少し俯く。
「私は、あそこには住めません」
「え、どうして?」
真司が幸に尋ねると、幸は顔をゆっくりと上げ家の隣にある病院を見た。
病院は年期が入っているのか、壁は所々剥げ黒くなっている。幸は、なぜこの家に住めないのかを真司に話した。
「あの家の家主と病院の先生は、とてもお年が行っている方でした。私が住むと病院に大勢の患者さんが来るでしょう。そうなれば病院側の売り上げは上がるかもしれませんが、先生の負担は今よりも大きくなってしまいます……」
菖蒲は幸の言葉を理解したかのように「なるほど」と、小さく呟いた。
「その先生の負担をかけるわけにもいかないから、この家は止めるということじゃな?」
菖蒲がそう言うと幸はコクリと頷く。
「ここは街に愛される、昔からある個人病院です。私は人間の病院関係には詳しくありませんが……この家は、今のままがいいのかもしれません」
「そうかえ」
菖蒲はしょんぼりと落ち込んでいる幸の頭を優しく撫でる。
「なら、次に行くえ。お前さんの家の候補はまだあるからね」
「僕もこの近所でいい家を見つけたし、幸ちゃんの新しい家が見つかるまで頑張るからね!」
「菖蒲様、真司さん……」
菖蒲と真司の言葉に幸は嬉しさのあまり、少しだけ目に涙を溜め「はい!」と、返事をしたのだった。
その後、真司達は幸の新しい家探しに尽力を尽くした。だが、それも全て虚しく終わってしまった。
幸が気に入るような家が無かったからだ。
いや、正確には幾つかあった。だが、動物が少々苦手な幸は、気に入った家には犬猫が居たのだ。
動物は人間と違い妖怪にとても敏感だ。だから家にいる犬猫は、幸を見つけると吠えて威嚇していたのだった。
結局、残念な結果になってしまい、真司も幸もションボリと肩を落とし落ち込む羽目になってしまった。
菖蒲はそんな二人を励ますように「まぁまぁ、次があるじゃないかえ。二人ともそう落ち込まなさんな」と言った。
すると、幸が着物をギュッと握り「無理ですっ!!」と、突然大きな声を上げた。
真司も菖蒲も驚く目で幸を見る。幸は俯き、肩を震わせながら小さな声で「無理ですよ……」と、呟きながら話を続けた。
「私、やっぱり無理です……。澄江と一緒に過ごしたあの家がいいです……っ……」
弱々しい声でそう言うと、幸は突然どこかに走り去ってしまった。
真司は「幸ちゃん!?」と幸の名前を呼ぶが、幸は振り返らずに走って行く。やがて、幸が見えなくなってしまい呆然と立ち尽くす真司。
「……幸ちゃん。菖蒲さん、幸ちゃんはどこに行ったんでしょうか?」
「うむ」
菖蒲はそれだけ言うと、幸のように突然歩き始めた。
真司は慌てて菖蒲の後を追い、菖蒲に「どこに行くんですか?」と尋ねる。菖蒲はただただ前を向いて、真司の質問にこう答えたのだった。
「墓じゃ」と。




