人と妖怪の恋の道-十-
✿―✿―✿―✿
「今日は凄くいい天気だから眠くなるね」
春の麗らかな陽射しを浴びながら縁側で座っている僕は、隣に座っている彼女に言った。
同じことを考えているのか、彼女は手で口元を隠し「ふぁ〜」と欠伸をしていた。まるで動物が欠伸をするように見えた僕は、そんな彼女を見て小さく笑う。
「菖蒲も眠たそうだね」
「なっ!? べっ、別に眠くはない……!」
図星を突かれてそっぽを向く彼女に「素直じゃないなぁ」と僕は思う。けれど、それを口に出してしまったら、今度は怒ってどこかに行ってしまうかもしれない。それだけは阻止したいのが本音である。
流れる季節、ひと時な時間を、僕は少しでも多く美しく愛らしい彼女と過ごしたいからだ。
僕は、自分の体を横に倒し彼女の膝の上に頭を乗せる。
「っ!? なっ、なにしている!」
驚く彼女に僕は目を閉じながら「気持ち良さそうな枕があるなぁって思ったから」と少し意地悪げに言った。
薄らと目を片目を開くと、眉を寄せなにか言いたげな言葉を飲み込んでいる彼女が見えた。よく見ると、彼女の頬と耳は赤くなっている。
(あぁ、駄目だなぁ……もう、可愛過ぎるよ……)
素直じゃない彼女に、僕が彼女に対する愛おしさが更に増していく。
今直ぐに起き上がって、彼女を抱き締めたい。そう思うが、僕にはそれが出来なかった。
すると、僕の髪を梳くように彼女が撫で始めた。その手の動きはどこかぎこちなくて、僕はつい笑ってしまいそうになる。
「…………」
彼女が僕の頭を撫でるのを感じるのが心地よく、僕は次第に微睡みの中へと意識が持って行かれ始めていた。
「時成……私は今、幸せだ。こんな日がいつでもお前と過ごせるといいな。お前となら、私の毎日はきっとこの春のように暖かいものになる」
彼女の言葉に僕は「一緒の気持ちだよ」と口に出したかったが、その言葉を外に出す前に僕は深い眠りへと入って行ったのだった。