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あかしや橋のあやかし商店街②【書籍化】  作者: 癒月
第六幕~破天荒な女神現る~
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破天荒な女神現る-四-

 授業が終わると案の定話しかけてくる生徒がいた。

 〝東京から来た転校生〟というのにクラスは興味が行ったのだ。

 次々と質問される真司は、慌てながらそれに答える。だが、あまりにも真司がたどたどしく、また全然話さないのもあったのか話しかけてくる生徒は次第に減って行った。

 〝転校生〟というものに熱があったものは勝手に冷めていき、クラスの生徒達は真司に興味無さそうに居ないかのように接した。

 もちろん、それは虐めなどではない。ただ単に、真司の影が薄くなり皆の目に止まらなくなっただけなのだ。

 だが、真司はそれでも良かった。むしろ、そうありたかった。


(こっちの方が楽だし、何より、もう誰とも話さない方が……)


 少し辛そうな表情をするとそれを忘れるように頭を小さく振り、鞄から一冊の文庫本を取り出す。紙製のカバーがかかっていて、本の表紙は見えない。

 真司は次の授業が始まるまで話しかけられないように、ずっと本を読んでいた。


 そして、お昼休みになった頃、真司は頬杖をつきながら窓辺をボーッと眺めていた。

 お弁当は持ってきている。しかし、食欲がなく食べる気が無かったのだ。


「………………」


 ゆっくりと雲が流れる空を見る。頭の中は何も考えず無になっていた。

 その時だった。


 ——バンッ!!


 大きく自分の机を誰かが叩いた人物がいた。


「――っ!?」

「お前が転校生か!?なのかっ!?」


 その人物は、幼い子供のように目をキラキラと輝かせながらワクワクしている様子で真司の顔をのぞき込んでいた。


「あ、えっと……」

「おい、驚いてるやろーが」


 ポカっと目の前にいた自分よりも小柄な男子学生が殴られる。

 殴った人物は、真司の顔をのぞき込んでいる男子学生より幾分背が高く、冷静な顔立ちは整っていて、所謂、イケメンだった。

 真司は何が何だがわからず口を開け呆然となっていた。


「すまん、驚かせて。こいつ、このクラスに転校生が来たって知ると、会う会う煩くてな。俺は神代遥(かみしろはるか)。で、この犬っころが荻原海(おぎはらかい)

「おい、犬言うな!!」


 遥のお腹を殴る海。だが、遥はそれをものとも言わずヒラリとかわした。


「うるせぇ。女子から餌付けされてるんだから、犬やろう」

「犬ちゃう! あれは、善意でくれるんや!」

「犬じゃねーか。しかも、善意でも貰ってるのは確かにやろうが」

「ぐっ……くっそ〜ぉっ」


 遥に言い返せなく、海は悔しそうにその場で地団駄を踏む。そんな海を無視し、遥は真司に話を続けた。


「で、お前の名前聞いてもええか?」

「へっ!? あ、うん……」


 真司は開いてもない本に指先だけ触れ、俯き気味に名前を彼らに伝えた。


「宮前、真司……」

「おー、真司か! 宜しくなっ!」

「へっ!?」


 急に名前で呼ばれ驚く真司だったが、そんな彼の内情など知らず、海は相変わらずキラキラした眼差しで真司を見ている。目の錯覚なのか、真司の目には海のお尻辺りにフサフサの茶色い尻尾が、千切れん勢いで振っているのが見えた。

 眼鏡と前髪を上げ、目を擦ってみる。


(あ、うん。錯覚だった。何となくだけど……確かに"犬"と呼ばれるのがわかるような気がする)


 そう思うと、海がなにかを発見したかのように「おっ!?」と、声を上げた。


「お前、中々イケメンなんやなっ!」

「え、えぇっ!?」


 またもや突然のことに驚く真司。遥もそれは海に同意らしく、腕を組みながらウンウンと頷いていた。


「前髪でわからんかったけど、真司もモテそうやな〜。いいなぁ〜」

「お前は女子にモテるというより、懐かれてる感じやからな」

「うっせー!」


「あ、そこは否定しないんだ。」と、内心思ったが、これは心の中に留めておいた。

 海は興味津々な様子で真司の顔をまたのぞき込む。


「でもさー、折角のイケメンやのに、勿体ないな〜。まぁ、そこまで伸ばしてるってことは、理由があるんやろな! 実はな、俺にも人には言えん秘密があるんや……」


 コソッと真司に耳打ちする海。遥は、その秘密を知っているのか「あぁ、あれか」と、小さく呟いた。

 海は真司に話を続ける。


「実はな、俺、小さい頃に猫にケツを引っかかれてさ……今でも、その痕が残っとるんよ。秘密やで」

「あっ、あの……どうして、秘密を僕に……?」


 真司が海から身を引くように少し距離をとると海に尋ねた。


「へ? だって、俺ら、もう友達やん?」


 さも当たり前のように言われ、真司は驚き言葉を失う。もはや自分の中で驚いたのは何度目かわからないぐらいだった。

 遥も又もや同意見なのか小さく頷いていた。


「コイツは、一応人を見る目があるのは間違いないし。俺も、宮前とは友達になりたいな」

「――っ!?」


 カァっと顔が赤くなるのが自分でもわかった。なにせ、そんな事を言われたのはあの時以来で、恥ずかしい台詞を遥は言ったのだから。

『友達になりたい』

 その言葉は、真司がまだ小学生のとき――ある男の子から言われて以来だった。

 遥は真司の肩を小さく叩く。


「ということで、早速、昼飯食うぞ」

「やなっ!」

「……う、うん」


 真司は鞄から本をしまい、母が作ってくれたお弁当箱を変わりに取り出す。

 なんだか流れに逆らえられず乗ってしまう中、真司は昔のことを思い出した。


 一人でいるところを彼は"友達になろう"と言ってくれた。

 真司の変な物を見る力のせいで、その彼は神隠し事件に巻き込みそうになり、彼は大怪我を負ってしまった。

 彼の両親からも関わるなと言われ、真司には噂が流れ始めていた。

 いや、その噂は以前からも存在した。ただ、それが大きく広まっただけだった。


『あの子はおかしい』

『いつも、何かに怯え怖がっている』

『一人でブツブツと話している』


 まるで陰口のように言われ、流れる真司の噂。それに耐えきれず、また自分が嫌になり、真司はいつしか周りを寄せ付けなくなった。

 その周りも真司に近づこうとは思わなかった。


「もう……友達なんていらない……」


 傷つけてしまうぐらいなら、離れ離れになってしまうならいらない。そう思っていたが、どうやら心の奥底に隠れている本心は違ったみたいだった。


 "一人にはなりたくない"

 "友達がほしい"


 そう思っている自分もいた。

 けれど、友達になると傷つけてしまうかもしれない。それだけが真司の不安だった。

 だから、彼等とは極力距離を置こうと思った。


 しかし、それでも遥や海は休み時間になると真司のクラスに行き、他愛もない話しをする。そして、腕を引っ張られようにお昼に付き合わされる。

 避けても寄ってくる海と遥。やがて真司もいつの間にか二人の色に染まり、この流れに乗っていることに知った。

 それは嫌ではなかった。

 不安だけれど、心地よかった。


 そして真司は、その流れに乗っている途中に菖蒲と出会った。


 菖蒲に出会い、護りの数珠を貰い、危険なモノとそうでないモノを見分けることも少しだけできた。

 だから、その不安も以前よりかは薄れていったのだった。


 全ては、菖蒲のおかげ。菖蒲という寄港(きこう)のおかげ。


(菖蒲さん、ありがとう……)


 ——キーンコーンカーンコーン。


 授業終了の鐘が鳴ると、真司は微睡みの中から少しずつ覚醒する。


「あれ? 寝てた?……ふぁ〜、もうお昼休みかぁ」

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