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あかしや橋のあやかし商店街②【書籍化】  作者: 癒月
第六幕~破天荒な女神現る~
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破天荒な女神現る‐二‐

 ✿-✿-✿


 授業が終わり、次の授業の準備をするための短い休み時間に、真司はボーッとしながら窓から外を眺めていた。

 真司の席は窓側の一番後ろの席なので、授業中何気なく外を眺めることも時たまある。特に理由はないし、授業がつまらないという感じでもない。何となく外を眺めては「綺麗だな〜」「今日は、暖かいなぁ〜」と、思ったりするだけだ。


 少し年寄りくさいかもしれないけど、最近はその日その日の風景や季節の移りが好きになってきたのである。これは、菖蒲の行動が感染したのかもしれない。

 菖蒲もこういうのが好きで、よく居間から庭を見たり、暖かい季節には縁側で空を眺め、まったりとお茶を飲んでいる。


(うん。やっぱり、菖蒲さんの好きが移ったのかも)


 と、外を眺めながら無意識に真司は頷く。


「ん? 何一人で頷いてんだ??」

「えっ!?」


 突然声を掛けられ驚く真司。目の前には、前の席の椅子を借り真司の机に頬杖を付いている海と、立ってこちらを見ている遥がいた。


「あ、あぁ。二人か」

「だからなんやねん。二人かって……」


 朝と同じことを言われ、ぶすっと頬を膨らませる海。

 真司はそんな海を見て苦笑いを浮かべた。


「ちょっと、驚いて。ははは……」

「ふーん。真司ってさぁ……」

「ん? 何?」

「意外とビビりやよな! ——あでっ!」


 海がそう言った瞬間、ポカッと海の頭を殴る遥。


「失礼やろうが」

「き、気にしないで。確かにそうだから」


 苦笑する真司に対し、遥は腕を組みなかまら真司の顔をジッと見る。身長もあり切れ長な目にずっと見られると、まるで睨まれているようで、真司は思わず遥から目を逸らしてしまった。


「宮前。あまり海を甘やかすなや? こいつ、阿呆やからな」

「あ、う、うん」

「て、おいおい! 真司も、そこは頷いたらあかんやろっ!? うわーっ、真司までもが遥みたいになったら、俺、今度こそ死ぬ! 死ねる!!」


 頭を押さえ絶叫する海に、真司は苦笑した。

 すると、海が思い出したかのように「あ!」と声を上げると前のめりになり真司に話しかけた。


「てかさ、てかさ!」

「え、な、何?」


 急にこちらを向いたので、またもや真司は驚いた。

 海は、ヒソヒソと話すようように真司の顔に近づく。


「知ってるか?」

「何が?」

「最近、ここ近辺にお化けが現れるらしい!」


 その単語にドキリと胸が鳴る。

 決して、ときめきの高鳴りではない。焦りの方の高鳴りだ。


「お、お化けって……?」

「俺も詳しくは知らんねんけど、神社の手水の所の森あるやろ? あそこから、髪の長い女が釘と藁人形を持ってヌラ〜と現れたり……」

「う、うん……」

「この学校やと、オカッパの女の子が廊下で泣いてたり……」

「それって、ただの怪談やろ」


 直球に言う遥に真司も苦笑いを浮かべ「そ、そう……だねぇ」と海に言った。

 海はつまらなさそうに真司から顔を離し頭の後ろで手を組むと、口元をアヒルの口のように尖らせた。


「えー、つまらんなぁ。もう少しビビってくれてもええのに〜」

「なんつーか、ありきたりな話しやな」

「そうやけどさぁ……てかさ、ここって変に田舎やし? 幽霊より妖怪の方がいそうやな!」


 その海の言葉に今度こそ口から心臓が出そうになる真司。


「まぁ、もしかしたらいるかもな。見たことないけどな」


 遥が坦々と言って海は「あはは、おらんやろ~」と、言って笑う。

 真司も顔を引きつらせながら笑うが、内心は冷や汗ものだった。実際、背中にツゥーと汗が流れているのが感じた。


「ほんまにおったら、色々話したいわ! 面白そうやし! あ~、でも、喰われるのは嫌やなぁ。真司はどう思う?」

「へっ?!」


 突然話を振られたことに真司は肩を上がらせながら驚いた。


「……何そんなに驚いてんだ?」

「あ、怪談話し怖かったとか?! お前なら有り得る!」

「……う、うん。あんまり、そういうのは好きじゃない、かなぁ。あはは……」


『実は、妖怪は存在します。喰われることは昔はあったみたいです。今は大丈夫です。個性があり過ぎて、面白い妖怪もいますよ』

 なんて本当のことなどは言えるはずがないので、怪談類はさほど怖くはないが、咄嗟に嘘を付いてしまい苦笑する。すると、休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 海は慌てて椅子から立ち上がる。


「やっべ! 次、数学やん!? 絶対、次は当てられるっ! 遥、答え見せてーっ!」

「阿呆。間に合わんやろ。てか、自分でやれ。諦めろ。ご臨終。ご愁傷さま」


 坦々と言葉を言い放つ遥に海は「ひどっ!」と言ってその場で項垂れる。


「……俺の人生終わったぁ」

「短い人生やったな」


 ポンっと落ち込む海に肩を置き、心にも思っていないがそれでも慰めるフリをする遥は真司に向かって小さく手を振った。


「じゃ、宮前。また昼休みにな」

「うん」


 海と遥が教室を出ていくのを真司は二人の背が消えるまで見ていた。

 そう。真司たちは、実は教室が別々なのだ。

 正確には、真司だけ離れている。真司は二組で、海と遥は隣の三組。

 中休みになると、移動時間以外はいつもこうやって真司のクラスに顔を出してくれている。


(思えば、初めて話した時もそうだったな)


 ふと、二人が話しかけてくれた日のことを思い出す。それは、ほんの数ヶ月前のことだ。


(今思えば、あれは本当に驚いたな。というか、恥ずかしい……かな?)


 教室に教科の担任が来ると授業が始まり、真司はまた机に頬杖を付いて窓の外を眺めながら、昔のことを思い出していたのだった。

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