破天荒な女神現る-十壱‐
真司は菖蒲の店の近くまで来ると、裏道に入り裏口玄関へと向かい引き戸を開けた。
――ガラッ。
「こんにちは」
「おかえりなさーい☆」
バタバタと走って真司に猛突進しながら抱きつくお雪。
「うっ……!た、ただいま……お雪ちゃん」
「えへへ~♪」
相変わらずお雪の頭が真司の鳩尾に入り、真司は小さく呻く。もちろん、これはお雪には悪気は無い。
お雪は顔を上げ花のような愛らしい笑顔を真司に向けると、後から白雪と星も玄関にやって来た。
「おかえりなさい、真司さん」
「……おかえり、なさい」
「白雪さん、星くん、ただいま帰りました」
白雪たちが真司を出迎えると、白雪は、ふと真司の気配に「あら?」と呟きながら首を傾げた。
「真司さん……もしかして、神様にお会いになられましたか?」
「え!? どうして、わかったんですか?」
真司は神様に会っていたことを白雪に言い当てられギョッとした顔で驚いた。
「真司さんから、清浄の気が感じられましたので。ふふっ」
「清浄な気ですか?」
「えぇ。神様特有の、ですけどね」
真司は「へぇ〜」と内心思うと、お雪が頬を膨らませながら真司の服の裾を引っ張った。
「ねぇ~、中に入ろうよぉ〜」
「あ、そうだね」
真司は、靴を脱ぐと白雪たちの一緒に長い廊下を歩き居間へと向かう。真司は両腕に星とお雪がギュッと抱き締め歩く。
それを後ろで微笑ましそうに見つめ、ニコリと微笑む白雪。
「ふふふ、本当に仲良しさんねぇ」
お雪と星は、真司に今日あった出来事を楽しそうに話しをしていた。
「ていうのがあったのー! でね~、星ちゃんっていけずなんだよー」
「……いけずじゃない」
「いけずだよー! ぷんぷんだも〜ん」
「……あれは……雪芽が悪い。こっちも……プン……」
「あぁっ! うそうそ! 怒らないで、星ちゃーんっ!」
「……プン」
「星ちゃ~ん!」
「ふふふ、あらあらぁ」
お雪と星のやり取りに、真司は思わず笑ってしまう。
居間の障子は既に開けられており、真司たちはそのまま居間に入った。
「菖蒲さん、こんにちは。あ、じゃなくて、ただいま」
「おかえり、真司」
「はい。そうだ、これどうぞ」
真司はお雪から腕を離してもらうよう頼むと手に持っていた豆腐ドーナツとチョコが入っている袋を菖蒲に差手渡した。
「ここに来る途中に小豆ちゃんに会って、これを貰いました。豆腐のドーナツとチョコレートです」
「豆腐ドーナツーー!!」
「……チョコ」
手を挙げ喜ぶお雪は、菖蒲の隣に座り豆腐ドーナツをくれるのをキラキラした目でジーッと見て待っていた。
菖蒲は苦笑しながら袋を開け、お雪に豆腐ドーナツを差し出す。
「ほれ」
「わーい! ありがとーう♪」
「星も、ほれ」
「……ありがとう」
透明なラッピング袋に青いリボンで結ばれているのを星に手渡す菖蒲。
白雪は嬉しそうな表情で喜ぶ二人を見てクスリと笑うと「では、私はお茶を入れてきますね。あら、でも、紅茶の方がいいかしら?」と、言いながら頬に手を当て首を傾げた。
すると、お雪がドーナツを頬張りながら元気よく手を上げた。
「ふぁーいっ! ふぁふぁふぃ、ふぉーふぁー♪」
「……僕も」
「私は茶が残っておるから、このままでよい」
「えっと……じゃぁ、僕は、お茶でお願いします」
それぞれの注文に白雪は「ふふっ」と、笑う。
「わかりました。それじゃぁ、淹れてきますね」
そう言うと白雪はお茶を淹れに台所へ行き、お雪と星はそれぞれドーナツとチョコを食べているせいなのか居間は珍しく静かだった。
「ふぁむ、ふぁむ、ふぁむ」
「……ん」
真司は、今日のことを菖蒲に話すか否かを決めかねていたが、先に口を開いたのは菖蒲だった。
「して、真司や」
「は、はいっ!」
「お前さん、今日、多治速比売命に会うたな?」
「うっ……!」
(やっぱり、バレて!? い、いや、白雪さんにもバレてたし……そもそも、別に隠したいこととかじゃないからいいんだけど……)




