破天荒な女神現る-八‐
✿-✿-✿
真司と多治速比売命は泉ヶ丘内を一通り探索しては買い、探索しては買いを続けていた。
真司が一番ヒヤヒヤしたもの――それは、多治速比売命が"人に見えない"ので、色んな物に興味津々になる神様を落ち着かせるもとい、抑えることだった。
傍から見れば一人で慌てたりしている真司自体が相当変で怪しい人物になるのだが、そんなことを考える暇などはなかった。それぐらい、この神様はあっちウロウロこっちウロウロと、自由気ままで我がま――いや、それは失礼なので訂正しよう。
嵐のように破天荒な神様だったのだ。
「つ、疲れた……」
噴水広場のベンチで、真司は力無く項垂れる。それを呆れた様子で多治速比売命が見ていた。
「体力が足らんぞ。全くしょうがないの〜」
(いやいや! これが普通ですから! というか、あなたが異常なんです!)
とは口には出せないので、心の中でツッコミを入れる真司。
真司は疲れきった顔を何とか笑みに変えると「あの……まだ、どこかに行くんですか……?」と、多治速比売命に聞いた。
多治速比売命は腕を組み「う〜む」と、呟きながら考えていたが「いや、そろそろ社に戻らねばならぬ」と、真司に言った。
その言葉に真司は心の底から安心する。
(よかった! やっと、帰れる!)
だがしかし、ここで安心したのが間違いだった。
「さて、この我を送って行くのじゃっ! 有り難く思うがよいぞ! あーはっはっはっ!」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
(まだ、付き合うのっ!?)
多少、いや、かなり思ったが、この神様を一人で帰すのも確かに不安だ。寧ろ、不安しかないっ!と真司は思った。
「わ、わかりました。送って行きます」
一瞬だった休憩も終わり、真司と多治速比売命は歩き出す。多治速比売生命は楽しそうな顔をして「うむ! さて、のんびり歩きながら帰るかのぉ〜♪」と、言った。
「え!?歩きですか!?」
多治速比売神社までは市バスが通っているので、てっきりバスで帰るのだと思った真司は、体力と精神諸共疲れきり、遂に心の中で菖蒲に助けを求めたのだった。
(菖蒲さん、助けて下さいぃぃ……ううっ)
「そう落ち込むな。菖蒲の話しをしながら、のんびり歩こうぞ」
「え? 菖蒲さんの話しですか?」
多治速比売命は、ほくそ笑む顔で真司を見上げる。
「お主、菖蒲の正体を知らぬだろう? 教えてやるぞ〜? ふっふっふっ~」
「菖蒲さんの正体……」
「ほれ、ゆくぞ」
「あ、はい!」
隣でのんびりと歩いている多治速比売命を見下ろしながらゴクリと唾を飲む。そして、真剣な面持ちで多治速比売命に聞いた。
「やっぱり、妖怪なんですか……?」
その質問に、多治速比売命は「ふむ」と暫し考える。
「正確に言えば"元"じゃな」
「もと?」
「あやつの正体は、妖怪の中でも力が随一と言われる九尾じゃ。そして、今は我がいる社の一つ。つまり、末社の一つを管理する神。稲荷の神じゃ」
「菖蒲さんが、九尾!? え、しかも、稲荷の神様っ!?」
衝撃の事実に声を上げて驚く真司は、思わず己の口を塞ぎ辺りを見回した。
幸い、辺りには人は通っておらず、通っているのは車道を走っている車だけで驚きの声を聞いている者は誰もいなかった。
「た、確かに、九尾と言われれば何だか納得しちゃいますけど……。で、でも、妖怪から神様になれるんですか? それに、菖蒲さんはどうして神様に? やっぱり、徳っていうのを積んで??」
「落ち着かんか」
「うぅ……す、すみません」
「ふふふ。お主は面白いのぉ〜」
態とらしく、本日二度目の空咳をコホンッと一回すると多治速比売命は再び話しを続けた。
「あやつにも色々あったのじゃ。妖怪時代のことは詳しくは我もわからぬ。しかし、あやつを稲荷の神として迎えたのは本社の伏見稲荷大社の神じゃ」
「稲荷大社ということは、京都ですよね?」
「うむ。あやつの生まれは京都じゃからの。そこで色々あって稲荷の神になり、我の末社として選ばれた。全く……稲荷社が建造された頃は、どういう狐が選ばれるのだろうかと思っておったが......まさか、妖狐とはな。宇迦之御魂様自身が挨拶に来られた時は流石に驚いたぞ」
「…………」




