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サイエンス・フィクションに憧れを

作者: 鮫島

 電車に揺られながら本を一心に読みながら少年は思った、こういう世界に憧れるな、と。端末普及率が九割を超え、誰もが何かしらの端末を持っている時代。そんなご時世に少年は本の書物を自分の唯一の宝物のように大切に取り扱いつつ、一枚一枚次のページを読みたい気持ちと今のページをめくってしまう口惜しさの間に揺れながら一字ずつゆっくりと読んでいた。底に描かれていたのは空想の世界。作者がこんな世界でいろんな技術があって、とても想像はつかない、と描いていた世界。サイエンス・フィクション、空想の科学。そこにはいろんな技術が溢れ、車は空を飛び、船は宇宙を後悔する。体が機械の人間や、人間のような機械。人の全てが管理され、統制された世界。過ぎた技術に頼って破滅した後の世界。想像もつかなかった世界を作者の想像の中で繰り広げ、それを一つの小説に仕立てあげた本。これが彼の宝物だった。本を開けば登場人物は沢山の機能を兼ね備えた端末や劣化のない機械の体で果敢なアクションを繰り広げ、光の光線が敵の船を打ち砕く。

「次は、アークヘイルー、アークへイルー」

 そんな夢の世界を無慈悲な機械音声が告げた。彼の目的地だ。丁寧に本を背中の鞄にしまいながらドアへ近づく。

電車が止まり、音もなく静かにドアが開いた。

「電車とホームの間に落ちないようにご注意ください」

 そんな注意喚起のアナウンスを聞き流しながら、ホームへと降りた。清掃の行き届いたホームにはゴミ一つなく、綺麗であった。ドアの閉まる音を後に彼は出口へ歩きだした。

「いやぁ、やっぱりアシモフ先生のは読んでて面白いなぁ」

 ボサボサの髪が目元を隠すように垂れ下がり、一見すると目がどこにあるのか、といった風貌で彼は歩いていた。改札が近づき、彼は手首の端末をタップする。そしてそのまま端末を改札に押し付け、ステーションの外へ出た。空が近いのか雲がすぐそばにあるような気さえする。ステーションを振り返ると、乗ってきた電車が発射していた。レールもなく自由に空を駆ける電車はそのまま次の駅へ向かっていった。気づけば小さく点になった電車を見送った彼はそのまま、バイクを止めてある駐輪場へ足を動かした。

 大きな屋根付きの駐輪場に入って、左手に止めてある自分のバイクに鍵を差し込み、回す。軽快なモーター音が響く。そのままシートにまたがりヘルメットをつけるとボサボサの髪が圧縮され少しだけはみ出ていた。前髪をどかして、ハンドルを握るとモーターの僅かな振動が手を伝って体に流れてきた。

 駐輪場を出て、そのまま道路へ出る。反物質を使ったこのホバーバイクは地面と接触することなく道路を走る。走るというよりも浮くといったほうが適切か。使われている技術は電車に使われていた浮遊技術に近い。反物質を制御し地面から浮き、前後左右に取り付けられた小型のスラスターを駆使して前へ後ろへ左へ右へと軌道を変えることができる。気づけばステーションは遠ざかり、学校へ近づいていた。

 サイエンス・フィクションがノンフィクションになったこの時代。彼の憧れた世界は既に虚構ではなくなっていた。

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