第六話 俺が消えた日
しばらくぶりですが、やっと更新できます。
「あちゃ~~やっちまったなぁ~~なかなか制御し難いぜ…この体」
悪びれもせずニヤケた笑顔の青年にしか見えない男。
歴戦の猛者であるダムズさん達も鳥の首をねじ切るがごとく、容易に無力化せしめた。
《僕》の父親を僭称する男。軟弱な態度と華奢な見た目からは、《僕》の父親にしても若すぎる。若作りの中年?もちろんそんなものではない。
ましてや詩織が話して聞かせてくれた、寓話『魔国の勇者さま』に登場する勇者。
魔王を倒し、【魔国】を建国して王となった勇者でもない。
こいつは………ダムズさんが述べた【魔国】の統治者、すなわち【魔王】と呼ばれる存在でもない。
言うなれば、正真正銘の【魔王】。
数多の異世界モノの勇者物語で語られる、世界の秩序を乱す世界の敵であり、勇者に対する【魔王】。
この世界に存在しなかった【真なる魔王】だった。
《僕》はどうして…あの時成功すると考えたのだろう?
自分がしでかした過ち。世界に対する裏切り、最大の汚点。
《僕》が犯してしまった罪はどう雪げばいいのか、今は皆目見当も付かない。
話は今から1時間余り前、《僕》達とダムズさんのパーティーが、オーク討伐依頼の発注元の村に辿り着いた頃。
依頼達成の報告に依頼者である村長宅に出向くべく、ダムズさん達と別れたときに戻る。
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公都近郊に遍在する普通の農村……そういえばわかるだろうか?
《俺》の元世界の基準で言うと中世の農村だな。
ただし、魔物避けの為の高さ3メートルぐらいの丸太で作られた塀で囲まれている。
東西に街道が村を貫いている。東西それぞれの門に農具で武装した村人らしき屈強な男達が守っているらしい。
だが件の男衆は、《俺》の傍の少女達に見惚れ、ダラシナイ顔を曝している。
「ダムズさん。《俺》達はこの人数ですし……村の外壁を迂回して、アチラ側の出口で待ってます」
俺達がいる西門前の反対…東門を壁伝いに外回りすることを示唆した。
「おう、そうしてくれるか。確かに見た目可愛らしい女の子達とは言え、武装集団を村へ入れるのは事だからな」
苦虫を噛み潰したような、すまなそうな顔をするダムズさんに《俺》は気にしないように手を振った。
そういう理由もあったのだが、これから一つ試してみたいことがあった。
ダムズさん達4人を見送り、南回りで村を迂回。公都へ続く街道から少し南に外れた森の中に入っていく。
村の住民に見られないくらいの茂みと、50人が余裕でくつろげる場所にたどり着き足を止めた。
自分についてきた少女達に振り返る。
正直、詩織達が傍にいたとはいえ、彼女達も十分【美少女】の範疇に入る。緊張する。
「…あ~~ん~~まぁなんだ。あんたらは親父の愛人……この言い方だと逃げだな」
そう、もう認めなければならない。親父が逃げずに彼女達を迎え入れたのなら…
「ごめん。あんたらは親父の奥さん達。言うなれば家族だ。母さんって呼ぶのは歳が近いから勘弁な?」
「とう~~ぜん」「この年で母親……」「リョウちん分かってる~」「愛人orお母さん……どちらがマシかな?」
「お姉ちゃん……って呼んで」「姉貴も可」「…【ねーねー】もそそる」
一部不穏当なセリフが聞こえたような気がするが、おおむね快く受け取られた、と思う。
自信家で無鉄砲を絵に描いたような少年が、めずらしくしおらしい様を見せられ、少女達が微笑みを返してくれた。
複雑な事情があるとはいえ、親父のお手つきだ。
これから長い関係になるだろうし、家族も同然と考えていいだろう………そう、リョウは考えた。
「前から一度試してみたいことがあってな。リリ姉や詩織、ミヨと《俺》だけのときには試せなかった」
そう、《俺》の大事な女……リリスとミヨ、詩織の傍では、危な過ぎて踏み切れなかった。
危険………なことだろう。自身の内面にいる何者かを引きずり出す。
自分で言っていて何だが。まったく馬鹿な考えだと思う。
実力では俺の上を行くリリ姉とミヨ、結界術の使い手たる詩織がいたとしても、《俺》は踏み出せなかった。
だが彼女達なら………【勇者】という称号を持ち、自分を上回る実力を秘めた者が50人近くいる。
万が一の事態でもなんとかできる、と思った。
知らぬ間に俺に懐いていた、アルの妹のシスティーナ。
光の神の司祭にして、至上最年少で神の意思を身に宿らせた【聖女】とまで言われていた。
彼女は、光の神から【神眼】というスキルを授かっていた。
【神眼】………神の視点からあらゆるものの本質を見極めることができるスキル。
システィーナから、そう説明された。彼女はそのスキルで少女達の中に【勇者】の称号を見つけた。
更に異世界から召喚された際に与えられた高いステータスを有している事も教えてくれた。
システィーナは、これからの《俺》には彼女達の能力は有用で、【魔国】の王子として成長していくべき、と言ってくれた。
こんな有能な少女達から助力を得られる《俺》は幸せ者だ………なんて、この時は浮かれていた。
彼女から齎された少女達のステータスを聞いた時は大いに驚いた。
【勇者】の称号を持ちレベルは200に届く者も複数いた。
皆何らかのユニークスキル持ちだった。
ならば、勝てる。そう………思っていた、この時は。
今の自分のステータスと彼女達の協力を取り付けられた今、実行するべき最高の【機】に違いない。
………後から考えると《俺》は奴に意思を操られていた可能性も捨てきれない。一種の高揚感に突き動かされていた。
少女達に周囲の探査と自分から出てくる【何か】の対処を委ねた。
《俺》の相談に初めは不審がっていた彼女達も、《俺》の真剣さが伝わり最終的には信用してくれた。
精神の裏側、自分で無い自分、何者かの悪意、言葉に言い表すのは難しい【何か】を追い出し、自分と共に戦い滅ぼしてほしい。
《俺》の願いに少女達は快く承諾してくれた。
《俺》は地面に胡坐をかき、より瞑想しやすい姿勢をとった。
精神の奥底に眠る存在とリンクする………なんて考えると瞑想するのが一番うまくいくと考えたからだった。
静かに深呼吸を繰り返し息を整え、気持ちを落ち着ける。
まぶたを閉じ、自身の内側へ意識を向けるように心がける。
仏像のような姿勢だな。瞑想にはうってつけだ。
深い、深い。底へと。表層から下層へ己の裏側、深層意識の底へと………潜り込む、ダイブする。
しかし、リョウには分かっていた。内なる存在などいない事を。
自らの行いの罪科から逃れる為の方便としての行為だった。
そう、方便なんだ。《俺》は逃れたかった。
助けた村娘を食い物にし肉欲を満たしていても、心から愛しているのは詩織だという………
”違う!!《俺》の意識を改ざんするのをやめろ!誰だ、お前は?”
《俺》の意識を改ざんする奴の思考誘導に、あと少しで飲み込まれそうになった。が、抗う事に成功した。
”はて、自分自身だろう?我はお前でお前は我。この体の持ち主がお前なら我も自身の体である。
我が欲望のままに村娘を抱いたのなら、お前も抱いたのだ。たとえ、お前の記憶に残っていなくとも、な。”
”うるさい!!詭弁を使うな!これは《俺》の体で…………お前じゃねぇ!!
お前が《俺》のわけねぇ!………いい加減、《俺》でない奴に勝手にされるのは、もうウンザリなんだよっ!”
”ならば………どうする?我を『開放』するか?魔族の皇子よ………”
”ああ、そうだ。お前はいらない!!さっさと出て行け!!《俺》の中からいなくなれ!”
”最後に聞く。本当にいいのか?我がいなくなっても?”
”くどい!!《俺》はウンザリなんだ。《俺》が知らぬ間に【他人】に好きにやられるのが。だから出て行け!!”
”あい分かった。だが………お前は後悔することになる………”
《俺》の中にいた【何か】との対話はものの2分と続かず、奴の気配だけが消えた。
心なしか気分が軽くなったような、何かが抜けていくような感覚に襲われた。
一体、何だったのか………アレは?………気配から自分とは明らかに違う存在だと分かった。
いっそ邪悪な波動と言ってもいい嫌な気配が去っていった。
何であんなモノが《僕》の中にいたんだろう?
アレの気配の消失にひとまずの安堵を覚えた。《僕》は、意識の底から表層へと浮上していった……
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「………さ……ま」
「リョ………ウ………さま」
「「「「「「「「「「「リョウ様!!」」」」」」」」
自分の名を呼ぶ声に引き寄せられて意識を目覚めさせ視界を明けた。
そこは一触即発の情況だった。
地面にいつの間にか寝かされた自分を守るように壁を作る数人の少女達。
その壁の隙間から手前に魔術師風の少女の一団。その少し前に弓やボーガン、魔銃らしき中距離支援装備の一団。
それらの前方に戦士や剣士、侍姿の近接戦闘装備の少女達。
彼女達のずっと先……300メド(300m)先に黒い靄のような、蠢く『何か』が見えた。
僕はスキル【隼の目】を発動させ、黒い何かを直視しようとして、なぜか意識が飛びかけた。
どうしたんだろう?体の震えが止まらない。いつ以来だろうか懐かしい感覚、僕はアレに恐怖していた。
そして何故かスキルは発動さえしなかった。
体が重い、寒い。早くここから逃げたい。どうして『怖い』のだろう?
「スっ…すてーたす」震えながらも自身のステータス確認しようとしても、何も視界に映らない。
「無駄です、御曹司」
僕の傍で神聖魔法の治癒をかけてくれていた、神官装束の……あれ?誰だったっけ?
僕は彼女を知っていたような気がするのに、名前を一切忘れていた。
「私は【神護騎士】のナズナといいます。たぶん、お忘れでしょうけど」
「忘れた…?…ナズナ…さん?」
「はい、御曹司」
「御曹司?……僕はどうしたんだろう?アレが視界に入るだけで怖くて仕方が無いんだ。それにスキルも使えない…君達の名も…」
僕の状態について、ナズナさんが教えてくれた。僕が開放してしまったアレについても。
僕が瞑想に入って30分が経った頃(僕は2,3分ぐらいだと感じていたのに、外では10倍の時間が経っていた)
突然、胸をかきむしる様に苦しみだした僕は地面に蹲ってしまったらしい。
そして背中から漏れ出した黒い靄のようなものが漏れ出し………
黒い靄が僕から抜けるのを待って彼女達はすぐさま戦闘準備を整え、今に至る。
【危険察知】スキルが最大で報せる警報に突き動かされた少女達が、アレから僕を担ぎ上げ遠ざけた。
防御魔法陣に隔離された僕とナズナさん。ナズナさんはすぐ僕をスキルで鑑定して現状を知る。
アレが抜けた僕は、記憶の一部損傷と武技スキルと魔術スキルが抹消されていた。
しかもレベルも1までダウンしているオマケ付き。
な~る………納得した。今の僕は赤子並みのステータスであるわけで、明らかにお荷物で彼女達に守られている、情況なんだ。
《…ク、クッカカカカカカッ………感じる、感じるぞ。幽閉されてより幾星霜、懐かしきマナの香りだ》
暗い闇の凝りの中からほの暗い闇色の鎧を纏った、一人の男が進み出る。
声は30代にも40代とも判別できない、落ち着いた声が自分達の頭の中で聞こえる。
「くっ………頭の中に声だと?お前は何者だ」
自分の頭の中に響く不快な声に頭が痛むのか、額にに手を当て闇色の鎧の男と対峙する、刀を手にした武者鎧姿の少女が問いかける。
《我に名を聞くか…勇者達よ……よかろう我は》
「…我求めるは悠久の平穏なり、魔を退け御名のもとに清浄なる褥を纏わん!【封冠魔滅消】」
後方に控えていた少女の中の一人………巫女装束のような衣装なのに色が反転した、上衣が赤の着物で下衣が白袴だ。
その少女が懐から短冊を取り出し、詠唱とともに空中にばら撒くと一枚一枚が、まるで生き物のように【魔王】の周囲で円陣を組む。
魔王を中心とした空間が清浄な空気に支配され、何らかの【場】を作り出す。
「…ライトニング・セレナーデ!」「決める!熱傷破斬癌!!」「貫くは邪悪なるモノ、天上天下唯我独尊」
「狙い打つっ!」「るるるん、れれれん。くるるるん、ぱぁ…私の前から消・え・て」「四神四方陣、末法炎獄破!!」「威力最大、魔力はこんなもんで~滅殺!」
「冥暗極楽砲………発射」「………」「う~~私、和弓が得意だったからボーガン、苦手」「炎よ、始原なる太古の始まりの炎よ、我が前に顕現し敵を滅ぼせ」
ドドドドドッドッ、ドガドガ、キュィーン、バシュッバシュッ、ヒュンヒュンヒュン、バッバッバッバッ
男が名乗りを上げる前に詠唱・無詠唱で強力な魔法が放たれ、弓から魔法付与された矢、魔銃から放たれた光線が鎧へと着弾した。
爆熱や雹礫が渦巻き周囲が水蒸気の濃霧に覆われた。
男がいた場所の頭上に新たな魔法陣が展開し、巨大な青白い炎の渦が天空へと立ち上る。
普通の存在なら塵も残らないだろう苛烈な攻撃。
「お前達………まずは私が交渉する手はずだったはずだが?」
「黒いのは嫌い…」「女神の力を借りて周囲に結界を展開しました…」
「かーちゃんは甘いなぁ。見るからに悪モンじゃんアレ。問答無用、先手必勝しょっ」
「そうそう」「臭いもんには蓋」「勝てば官軍…」
武者鎧姿の少女が呆れながら不意打ちした少女達に問いかけると、軽い感じで少女達が応える。
彼女達は安心しきった………わけではなく、今もアレに注意を向けている。
異質の存在を肌で感じているのだろう。遠く離れているのに僕の悪寒が治まらない。
《ふふっ…今世の勇者達は【セオリー】が分からないか…否、女には男の浪漫がわからない、ことと同義か》
ふいに強い風が炎の渦をかき消し、中から何ら損傷も無い鎧が姿を現す。
いや兜にヒビが入り砕けきった。兜の下には端正な顔とエルフのような、とがった耳がのぞく。肌は青白い。
「うわっ…美形ーーー」「油断するな!!魔族だ、できる…」「…あの男に周囲のマナが集まるよ」
青白い靄が男の周囲に渦巻く。この世界に存在する【マナ】と呼ばれるエネルギーを自らの糧として男は術となす。
《我は【魔王】…この世界の真なる主人【ダイス】様により生み出され、世界の破壊を執行する使徒なり》
男の宣言に呼応するがごとく、背後に数多くの魔法陣を展開されていく。その数40か50…いやもっと多い。
《我は【勇者】の対となる【魔王】なり。お前達が我の対となる資格があるか…試してやろう》
魔法陣から魔狼、魔熊、大蛇やワイバーン、果ては空に浮かぶ魚型の魔物が湧き出し、少女達に襲い掛かった。
《僕》は奴の魔法陣から溢れ出た膨大な瘴気に飲み込まれ、抵抗に失敗して次第に意識が遠のいて………。
少女達は魔物に懸命に抗い、打ち倒し【魔王】へ向かっていく。
《僕》は最後まで彼女達の雄姿を見られないのを悔しく思った。意識が遠のく。もう《僕》は…
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どれくらい経ったのか…瘴気の影響が弱まったのか、目を覚ました。
《僕》の視界に入ったものは、死屍累々(ししるいるい)と表現したくなる光景だった。
地面は広範囲で焼け焦げ、大きな何かに掘り返され、爆弾が落ちた痕の様にえぐれている。
少女達の魔術で焼かれた魔物だった炭の塊、全身氷浸けにされた魔物。
それだけを見れば、こちらが勝利したように見えた。
……しかし、少女達は傷つき倒れていた、見た感じ40名強。
よく見ると上半身が微かに上下動していて息があるのが分かる。生命力が僅かだが残っているが行動不能ではあった。
なぜわかるかと言うと視界に文字列が数行単位で表示され、意識を向けると下へ移動して次の文章が現れる。
こんな具合に…………
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◆ログ
・少女達は行動不能に陥った。持続ダメージと回復力スキルが相殺し、HPが回復しない。
・崋山の攻撃【森羅抹消断絶斬!!】魔王に280のダメージ!!
・しかし、魔王の体は瞬時に回復した。魔王の攻撃!崋山のスキルにより魔力消滅。通常打撃、崋山はかわした。
・魔王の呟き『ぬぅぅぅ………こやつのスキルは我との相性は最悪であるな』
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崋山さんだけが魔王と対等にぶつかり合い、戦力的には拮抗していた。
単独で対峙し剣と刀を交え戦闘を継続していた。
そちらに視線を向けよく見ようと戦場を見つめる。
すると視界が突然ズームして詳細に見ることができるようになった。
以前の自分になら何とか視認できた二人が振るう武器の軌道も、今では残像で何十本にも見える有様だ。
魔王が抜け出たときに粗方のスキルが奴に抜き取られたのだろう。
しかし、今こうして見ている【ログ】とはは何だろうか?
自分が気を失っている間にいったい何が?
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◆ログ
・リョウは魔王たちの戦いを詳細に観戦しようとした。
・敵性生物?とのレベル差により経験値大量獲得。冒険者レベルが10上がった。
・スキル【魔力視】【猛禽類の目】を獲得!
・過去ログを参照しますか?Yes or No
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【魔力視】………空気中に漂う魔力、個体が使用する魔力の流れを見ることができる。
【猛禽類の目】………遠視スキルの上位。猛禽類の視力で遠くの景色があたかも目の前のように見えるようになる。
スキル【猛禽類の目】をもってしても戦闘風景は観戦できるが情況はよくわからない。
当然、両者の会話は聞こえずログ表記が唯一の情報収集源に違いない。
過去ログ?そんなものがあるのか…見てみたいのでYesを迷い無く選択する。
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◆ログ
・リョウは過去ログを参照した。レベル制限によりスキル【ログ閲覧】獲得以前は見られない。
・過去ログ表示開始。
・光の神アルケインの残滓によりスキルを獲得した。
・【アイテムボックス(限定)】【ログ閲覧】【ステータス閲覧】【魔力感知】【生命力感知】を獲得した。
【アイテムボックス(限定)】…光の神アルケインの弱体化により壊れている。20枠、同一アイテムは10個まで。重量は無制限、時間経過あり。
【ログ閲覧】…自身の周囲の情況を客観的に表示します。
【ステータス閲覧】…自身と友好的な関係に有る他者(ただし、レベル上位者には無効)のステータスを見れる。
【魔力感知】…魔力の有無が分かる。
【生命力感知】…生命力(HP)を感じ取れる。アンデッド(負の生命体)は対象外。
・アルケインの呟き『私だけがお父様の願いを叶えて差し上げられる…そのための助力…』
・アルケインの残滓が消滅。この世界でアルケイン信者は光神に授与されたスキルが使えない。
・しかし、リョウのスキルは授与された時点でユニークスキル化し、故に以後も使用可能。
・崋山の攻撃【氷雷炎撃斬!!】
・魔王は障壁を魔力で作り出した。崋山のスキル【絶対解除】により障壁は消滅した。魔王に1000のダメージ!
・魔王は密かに自身の影を細分化し、スキル【影移動】を介して回復中のリンダに攻撃した。
・リンダは抵抗に失敗!スキル【生命力吸収】によって徐々にHPが吸い上げられていく。
・リンダの回復力により瀕死状態を回避。回復力が鈍化、※※※※の作用で回復系スキルが阻害されている。
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その後はリンダ同様、他の少女達が、魔王の攻撃に曝された項目が続く。
目前の戦闘に集中していた隙を衝かれたり、負傷により後方で回復中に自身の影から攻撃されていく。
これらは全て過去の記録であり、今の自分には干渉しえない事実だ。
まして、自身と崋山と魔王のレベル差がすさまじく、経験値のバーゲンセールか。
戦闘を観戦しているだけでスキル【スキル獲得上昇】が無くとも複数のスキルを獲得していた。
自身の迂闊さが今の事態を引き起こした事につぶされそうだ。
しかし、自分には事態の終局を見なければならない。事態を引き起こした者の義務として。
いや、違う。奴を再び封印もしくは滅する為の糸口を探らなければならない、と思ったのだ。
二人の戦いがどう転ぶかで世界の趨勢が決する、といって過言ではない。
今ほど自信の無力さにさいなまれたことは無い。二人の戦いは凄まじいと称するしかない。
魔王が禍々(まがまが)しい魔力で包まれた巨大な剣を振り下ろす。
崋山は巧みに剣の軌道を読み取り、紙一重でかわす。
普通ならそんな至近距離であろうと禍々しい魔力が何らかの影響を与えているはずだ。
ある一定の距離…たぶん崋山さんの間合いだろう。
その間合いに入った魔王の剣から魔力が吹き消されたように消滅する。
巨剣の本体のみが崋山さんの頭上から振り下ろされる。
剣の軌道を読みきって体を僅かに傾けやりすごした崋山さんは、懐に一歩踏み込んで斬り上げる。
あれが崋山さんのスキル【絶対解除】の影響なのだろう。それに崋山さんの刀技と足さばきが加わり、魔王に打撃を与え続けていた。
斬り上げ、斬り下げ、中段斬り、刺突。
魔王の巨体が面白いように崋山さんの刀技に翻弄され、押されている。
しかし、魔王が潜ませた尖兵により、倒れた少女達が回復するそばから生命力を吸われ、魔王の傷が癒される。
これはもしかして【千日手】の状態に陥ってるのだろうか?
どちらにしても生物である限り体力が回復しようが、消耗するはず。どちらも規格外とはいえ勝負の行方は明白だ。
森の中………村の近くで、これほどの戦闘を行えば村人でも気付きそうだが………
昔見た映画に出てきたキャラが使う札術?という術に似ている、紙の短冊に文字を書いたものを
空中に投げていた少女がいたのを思い出す。
短冊が散らばった後、世界が変わったとでもいうのか、場の雰囲気が劇的に変化したように感じる。
ここは村近くの森の中のはずなのに、清浄な空気で満たされた神社仏閣の境内にいるように感じる。
きっと所謂、【結界】の中なのだろう。
そうするとその中でも遜色無く活動できる、あの禍々(まがまが)しき魔王とは一体………?
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◆ログ
・魔王《認めよう…そなたは紛れも無く真なる勇者、我の対と成すに相応しい存在…》
・崋山「魔王に認められても嬉しくはないが…それでどうする?お前の攻撃は私には通じない…」
・魔王《しかり……だが主とて同じこと。今のままでは我を倒すことは永遠に不可能だ》
・崋山「………」
・魔王《貴様は確かに類まれな資質を秘めた、我を唯一倒しうるやも知れぬ存在。しかし…》
・崋山「…魔王、何が言いたい?」
・魔王は崋山に交渉を持ちかけた。
・崋山は魔王の言葉に動揺している。
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駄目だ!!崋山さん、奴はみんなの命を盾にあんたを懐柔しようとしている。
大きな声で叫びたいリョウだったが、悲しいかな意識は戻っても金縛りにあったように体はピクリとも動かせない。
【ログ閲覧】獲得以前に何かしらの影響を受けているらしい。
結末が分かっていながら何もできない。歯がゆい思いに胸が焦がされる。
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◆ログ
・魔王《周りを見てみるがいい…貴様以外は我が対となるには力不足。
…故に一足速く冥府に旅立つだろう…だが………貴様の返答次第では命は助けてやろう》
・崋山は戦闘が始まって以来振り返らなかった、後方を見て愕然とした。
・崋山は精神に衝撃を受けた。使命と仲間への想いに揺れている。
・崋山の心の天秤が仲間への想いに少し傾いた。
・崋山「……私の返答次第で彼女達の命を助けるというのか?…………破壊の権化たる魔王のお前が?」
・魔王《信用できぬのも道理。…しかし、我とて貴様という対なる存在あってこその魔王。
ここは双方仕切りなおして次の機会を持たぬか?………貴様との楽しい舞踊を楽しみたいのだ。その為なら………》
・崋山「ここで我らを解放すれば、お前の力が回復する前に我らは今以上の力を付け挑むだろう………それでも?」
・魔王《…なに、長き封印より目覚めた我にとって、暇つぶしの余興に時間を割くことなど如何も無い。どうだ乗るか?》
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魔王の誘いに崋山さんは悩んでいる。当然だろう、ここで魔王を逃せば次の機会がわからないのだから………
さりとて、【千日手】に陥った今の情況を打開する手も無い。
今のままでは魔王の言うように友誼をかわした少女達を喪う。
世界の厄災たる魔王をのさばらせるのは片腹痛いが、現状どうしようもない。
僕が責任を取るべきなのに全てを崋山さんたちに背負わせてしまった。僕はどうして………
遠くにいるはずの魔王の視線が僕の方を向き、口元をニヤッと歪ませた。あいつは僕が見ているのを知っている。
魔王の魔術は崋山さんには通用しない。だけど何らかの手段があるから交渉してみせるのだ。
自身の絶対の保身がなければ奴は行動しない、僕は直感で巧妙な罠に崋山さんがハメられると気付いた。
僕の中に奴がいたときに感じた悪意が彼女を包み込もうとしている。
だが崋山さんに伝えるすべが無い。僕は奴に自身の過ちの結末を見させられるのだろう。
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◆ログ
・魔王《…なに難しいことではない。この首輪を自身の首にはめるのだ。我の前でな》
・魔王は崋山に【隷属の首輪】を差し出した。
・崋山「…何かと思えばソレか。私を隷属して尖兵として人間を攻撃させる、というわけか?」
・崋山は呆れている。魔王の魔術は自身には通用しない。
【隷属の首輪】を身に付けたとして、自身になんら影響を及ぼすわけが無い。
・ならば、形だけでも魔王の求めに応じたとて害はない。
・それで皆が助かるのであれば容易いこと。
・そう考えた崋山は魔王に応じ、自らの首に【隷属の首輪】を身に付けた。
・崋山「…これでいいか?…魔王?………ご主人様」
・崋山の自意識が混濁し、【魔王】を主人として認めた。
・崋山は魔王に隷属した。魔王の所有物となった。
・崋山の意志は封じられている。スキル【絶対解除】が自動起動…
・魔王《スキルの一切の使用を禁ずる……ふっ…ふっふふふっ……ハッハッハッ…油断は大敵と親から教わらなかったか?…》
・魔王の命令…崋山のスキル使用が封じられた。崋山は主人【魔王】の命令を待っている。
・魔王《こうなると木偶と変わらぬでは無いか……面白くも無い。なぁそう思わぬかリョウ?》
・魔王は転移した。あなたは動けない。魔王はリョウに近づき右目に指を突き入れた。
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不意に視界の魔王が消え、動けない自分を覗き込むように見下ろされた。
そして閉じれない右手の眼球に魔王の指が突き入れられた。
ズブズブッズズズ……とでも表現すべきか、激痛にのた打ち回るだろう予測とは違い指がすんなり入っていく様は、おぞましい限りだ。
《そう怖がるな。…我は貴様に感謝している…貴様の承諾無しに我の封印解除は成せなかった……とはいえ時間の問題だったが》
魔王は語る。僕が奴を解放しなくとも、後数十年もしくは数年で封印状態のまま、僕の精神を侵蝕し自身に塗り替え、肉体の支配権を奪われていた事実を。
奴は旅先で助けた少女達の純潔を穢し、《快楽》という名の毒を撒き散らしていた。
光神への信仰を自身への依存と崇拝に置き換えさせ、力を蓄えていた。
生娘達を快楽で堕落させ、穢していくことを楽しんでいた。
奴の力の源はこの世界の住人達が【魔】の存在に向ける【恐怖】。
そして【悲しみ】【嫉妬】【怨念】など人々が普遍的に持つ【負】の感情。
僕が【魔国】王となった暁に婚姻するはずだた3人………純粋魔族であるリリ姉と先祖返りのサキュバス種のミヨ。
邪神ダイスが魔王開放の為に【魔国】民を操り、気が遠くなるような年月をかけ、魔力の強い魔族交配の末に産まれた詩織。
彼女達の純潔を奪うことで、大量の魔力を得て僕の肉体を奪うのが奴の計画だった。
だけど、僕の浅慮が精神の封印解除を早めてしまい今に至る。
今の奴の肉体は先日討伐した多数のオークの肉体から作り出した。
フレッシュ・ゴーレムという生体を基にしている。
本来は《僕》の肉体を掌握することで、往時の能力を取り戻すはずだった。
僕の肉体は奴が宿った時点から強化されていた。乗っ取れなかったのは大いに不本意だろう。
これだけでも溜飲が下がる思いだ。奴の思い通りにならない現実も存在する事を知って。
初代の【魔王】であるこいつを打ち倒した【魔国の勇者】。
彼は滅ぼすには力が足りず、自身の魂に【魔王】を封印するしかなかった。
代々の魔王達が儀式による力の引継ぎを経て、それぞれが【魔王】の力を使用していた。
施設から《僕》引き取った父は直後、《僕》共々(ともども)異世界に召喚された。
力の引継ぎで【魔王】を宿した魔国の王【皇魔帝】となった。
そして、初めての政務を行う為に玉座に付いた。そして邪神に攫われた。
この頃の僕の記憶は曖昧でよく覚えていない。
邪神ダイスが【皇魔帝】である父を封印したのは、【魔王】を開放するため。
封印中に父の肉体は衰弱し、そして邪神の封印結界の糧として吸収されて消滅した。
儀式を経ない、代わりの器として、僕が邪神の封印の中に引き寄せられ、魂に【魔王】が納まった。
僕の父はもうこの世に存在しなかった。
存在しない父を浮気者と軽蔑し、僕と母を捨てたと憎んでいた。
何と滑稽だろう。僕の体を仮支配した【魔王】によって会えもしない父を騙るメールに一喜一憂し、嘆いていた。
なんという独り相撲。
《僕》は受け入れがたい事実か逃げたいが為に回顧していた。
【魔王】の指が抜き取られ、魔紋が右目に刻まれた。
《……だが、我に貢物を奉げた、お前に褒美を与えよう》
僕の変容した右目に、崋山さん達の胸から出ている、漆黒の鎖が見える。
《僕》の普通の左目には見えない鎖は、【魔王】が魂に打ち込んだ楔の証。
【魔王】の意思で、いつ何時でも如何様にもできる、という印。
僕のせいで彼女達の未来は闇に閉ざされ、希望は潰えたのだ……いや、まだ希望は残っている。
【ログ】の【魔王】つぶやき。崋山さんのスキルが魔王と最悪の相性で魔王を滅ぼすやも知れない存在、だということ。
何とか、この場をしのいで崋山さん達を救出しないと………世界は【魔王】の悪意に翻弄されるだろう。
《フッフフフ………その目は…この期に及んで勝機を見出したかのようだな、面白い。我も余興を思いついた》
【魔王】は俺を見て楽しそうに笑うと僕に一つの提案をした。
今の僕に選択できる力が無いのを嘲る様に『選べ』、という。
《貴様は見出した勝機に賭けるがいい………だが、我の力が満ちるまでの余興として……貴様に選ばせてやろう》
【魔王】は自らの鎧の右肩に左手を添え引き剥がす。
重厚な鎧が消え去り、質の良いが装飾の無い深緑のローブに覆われた青年に姿を変える。
見た目は軟弱な風貌と華奢な肉体。
身長は190cmぐらいで、年齢は20代前半ば。黒髪と黒目は日本人を連想させる。
記憶に残る亡き父を若返らせれば、このような容姿になるだろう。
《お前の大切な三人の中から一人選べ…お前の前で慰み者にするのも一興だが…一人に限り見逃してやる》
この時の《僕》は詩織だけしか助けられなかった。
魔王の言葉を盲目的に信じ縋るしかなかった。
世界に唾する魔王の言葉に否が応でも従い、一人だけでも助けたかった。
愚かな選択。無力な今の自分の実力を【ステータス閲覧】で確認して、痛いほど身にしみていたから。
だから【詩織】を選んだ。《僕》を封印から助けてくれた、優しくて大好きになった女の子。
僕の慢心が招いた災厄から詩織だけを守る為に二人を見捨てた。
どうしようもなかった、仕方なかった。許してくれなくてもいい。僕は卑怯者だ。
世界の為………なんて大層な言い訳は言わない。
一番大事な女の子、詩織だけでも守りたい。結局、自己満足の為に【魔王】に頭を垂れた。
「どうか、詩織だけは助けてください」
《フンッ……まぁいいだろう》……そんなわけで、これからよろしくな愚息。俺の気が変わらないうちに早く強くなって挑むがいい…」
《僕》が土下座をしながらの願いを了承した【魔王】は念話から普通の会話に切り替える。
僕の無様を近くで観賞して楽しむ為だ、と言って【魔王】は僕の父の若い頃の姿で嗤った。
でも、僕は諦めない。全てを失った今から奪い返せばいいんだ。人間の底力を見せてやる。
まずは全ての要、【魔王】の魔術をも消し去る【絶対解除】スキルを持つ崋山さんを助ける。
そのために【魔王】だろうが何だろうがへりくだり、はいつくばってでも耐える。
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◆ログ
・スキル【不屈】【魔耐性】獲得。
【不屈】…何者の圧力にも屈しない心得。
【魔耐性】…【魔】に属する生物に対して耐性を持つ。【魔】属性に対して攻撃ボーナス。
・称号に【内なる反逆者】【魔王に挑むもの】が加わった。
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だけど、僕は知る。公都で再会した三人は既に【魔王】による楔が刻まれていた、ことを。
猶予は幾ばくも無い。僕は強くあらねばならない、絶対なる強さを手に入れる!
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◆ログ
・バッドステータス【強迫観念】によりリョウは生き急いでいる。
・【魔王?】は楽しそうに見ている。
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【魔王】は虚空手をかざすと、そばの空間が割れ魔獣にひかれた大きな馬車2両が現れた。
【魔王】自身の影から黒い影だけのヒト型が現れ、従者のごとく【魔王】に跪く。
影人達は鎖付きの首輪を気を気絶した少女達に繋ぎ、鉄格子で囲われた馬車の荷台に無造作に積んでいく、人ではなく物として。
【魔王】は周囲に張られた結界を何も無い空中に手を伸ばし、結び目を解くように解除した。
僕達がダムスさん達との合流点に着くと、ちょうど彼らが村から出てくるところだった。
驚いたことにあれだけのことがあったのに結界の外は半刻と経っておらず、長く待たせたかと表情が言っている。
だが、彼らも僕の後ろの情景………奴隷の首輪に繋がれ鉄格子付きの馬車に乗せられた少女達を見て気色ばむ。
それはそうだろう。自分達の窮地を救ってくれた少女達が、半刻の内に隷属され鎖に繋がれていれば誰でも驚く。
悪意ある【魔王】の瘴気にあてられ、昏倒していく彼らをただ見ているしかなかった。
今の《僕》は無力だ。でも、崋山さんを救出できれば転機もありえる。
でも、強くなければ、また蹂躙されて終わりだ。
悪質な洗礼を受け昏倒した、ダムスさん達を回復させながら今後について思いをめぐらす。
ダムス達冒険者のパーティーに加えてもらい、修練を積めば強くなれるだろうか?
今は先のまったく見えない絶壁と闇でしかない魔王。対抗できる力を得るにはどうしたらいい?
瘴気にあてられてもなお立ち尽くし、【魔王】に熱い眼差しを向けるシャル・ティエさん。
彼女の豊満な胸からも漆黒の鎖が見えた。【魔王】の魔の手はすぐそばに存在している。
こうして《俺》は一欠けらの希望以外の全てを奪われ、実力と見誤った力を喪った。
そして《僕》に戻る。
この世界の邪神とされているダイスの配下【魔王】の登場回でした。
自意識過剰でリリスとみよと詩織は《俺》の嫁………と広言してやまない彼は《僕》になりました。
元々の自分称は《僕》で【魔王】による精神侵食で《俺》になっていました。