第五話 未知との遭遇
おひさしぶりです。久々に投稿できました。
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「「「「かんぱーいっ!!」」」」
幾重にも声が重なり、猥雑で騒がしい周りの喧騒に飲み込まれていく。
ここは冒険者ギルド直営の酒場の一つ【戦火の炎亭】。
アルとシスの未成年組を除いたパーティーメンバーでクエスト成功を祝い、ささやかな
祝杯を挙げていた。
二人は冒険者証のメール機能で、しばらく街には帰れないことを伝える謝罪がされ、ここにはいない。
冒険者ギルドで報告した『オーク2万体余りの討伐』の案件で、王宮議会が紛糾しているとのことだ。
事情を知る二人は証人として出席を余儀なくされた。
対策を練る軍部と予算を割り振る官僚らの討論会にもつれこんで、退席する機を失したらしい。
森でのクエストは魔国の王子を名乗るリョウと、彼が率いる少女達の助成により無事終った。
さすがにオーク2万体余りの討伐というのは、常識外の出来事だとしても……
飛行艇で飛び立ったアル達を見送った後、依頼主のいる村へと向かった。
オークの討伐部位の牙を自分達が倒した、20体分見せると依頼人である村長は腰を抜かしてへたり込んでしまった。
無理も無い。安全に散策できていた場所に20体ものオーク。
尋常ではない多さだ。しかし、ダムズ達は事前に仲間達と相談したとおり、巣にいたオークも殲滅したので、安全だと村長に伝え安心させた。
胸をなでおろした村長は正気に戻り、あらためて自分達を眺める余裕が生まれたらしい。
アルとシスがいないことに気付き、
『お若いお二人がいないが………もしかして?』
と不安げに問いかけてきた。その目には尊い犠牲の上での成果だったのか?という問いかけが映っていた。
しかし、もちろんそんな事はないので二人の無事と先に帰らした旨を伝えたが、大層不思議がっていた。
さもありなん。この村は件の森と公都を結ぶ街道の中間点であり、ココを通るのが公都への近道だ。
であるのに村民の誰も二人を見ていないのだから当然のことだ。
その辺りの事はこちらに事情がある素振りで誤魔化し、深くは追求されなかった。
当初の報酬はオーク10体分の討伐分だったため、村の懐事情もあり追加できない旨を恐縮ながら言われた。
こちらがそれで十分であることを示すと安堵していた。
実力高い冒険者を6人も雇い、二日かけて20体もの成果に払うべき報酬は、彼らには莫大だ。
公王の直轄地で税収が安いとはいえ大した特産品も無い。
村が得られる収益は微々たるもので、報酬額プラス依頼料…さらにギルドが受ける手数料が加味されると、軽く年収に届いてしまう。
オークによる村の損失と経費を満額支払うことで、村の存続を危うくしてしまう。
これらを秤にかければ、どちらに多く傾くか?と、いうほどの問題なのだ。
周囲の関係村落の村長合議の上で算出された、報酬を払うだけであっぷあっぷしてしまうのだろう。
それだけに報酬額の上乗せを逃れたことを心から安堵した。
司祭であるシスティーナの奉仕活動も兼ねているのだ、というでっちあげた現実味の有る嘘も容易に納得してくれた。
教会の関係者が施しや奉仕活動を行っていることは、ひろく世界に知れ渡っている。
だからこそ民衆は教会の信徒として神を祭る。
どこの村でも教会や集会所を利用した説法を受け入れ、生活の中に教義が染み渡り溶け込んでいる。
ましてや神の言葉を直接聞く事ができるシスティーナという存在は、何よりも雄弁だろう。
おおかた、『神の試練』ぐらいの誤解は受けていそうだったが、ダムズもあえて撤回しなかった。
自分達のこともシスティーナの試練に同行する随員が年の近いアルフレッドで、それ以外は護衛だと思っているのだろう。
神の啓示でオークを討伐しに来た使徒として思われ、送り出されるほうがいいのだ。
オーク2万体が村の間近にいた事実を知って、絶望感にかられるよりはずっとましだろうから。
村長に別れを告げ見送られ、村を囲む害獣避けの塀にある門を出ると、先に出ていた集団と出会うはずだった。
が………2台の大きな馬車?が鎮座し、不貞腐れた表情を浮かべる少年…魔皇子リョウと見慣れないフードをかぶった人物が立っていた。
馬車?という表現になってしまうのは至極当然だ。
幌なし馬車を大きくして格子で覆われた檻を積んだものをひく馬らしきものが、8本足だったがためである。
ダムズ達は初見ながら脳髄の知識から、天界にいるという8本足の馬スレイプニールとかいうやつだろうか?とあたりをつけた。
しかし、毛並みは漆黒で表面に紫電を纏っているものを天界の馬である、なんて思う奴はいないだろう。
あきらかに自分達パーティーメンバーで討伐することはかなわない王者の気迫を馬?は漂わせていた。
体の大きさはゆうに背後の村の家の高さを超えている(ちなみに村の標準的な家は平屋だ)
2頭の巨大な馬?がそれぞれ檻つき幌なし馬車をひいている。
檻の中にいれられているのは粗末な麻のような貫頭衣を着せられた少女達。
太ももの半ばで断ち切られた布は際どいところが見えそうだ。
御丁寧にも奴隷の証である首輪からは鎖が繋がれ天井に消えている。
黒髪黒目で皆一様に日本人の容貌をした少女達。
出会ったときは快活であった表情は鳴りを潜め、気力溢れ輝いていた瞳からは光が喪われている。
一様に自らの境遇に絶望し暗い表情で俯いていた。
いったい、自分達が離れていた1時間ほどの間に何があったのだろう。
呆然としていたのは幾ばくか?
はやる気持ちを落ち着かせ事情を知っているだろうリョウに、問い合わせようとしたダムズを追い越し、血相をかえたザックが詰め寄った。
「皇子っ!!……これは何事ですか?彼女達はあなたの護衛ではなかったのですか?これは…」
尚も問いかけるザックに悔しそうな、今にも泣き出しそうな耐え切れない屈辱に苛まれたリョウ。
彼が顔をあげザックに応える前に、フードをおろした青年が応えた。
「はじめまして………愚息が世話をかけたようだな、感謝する」
リョウを息子と称するには若すぎる青年は、軽くこちらに頭を下げた。
屈辱だと言わんばかりのリョウの頭に手を置き名乗った。
「私は零。こいつの父親だ。皇魔帝って言えばわかるだろ?」
飄々(ひょうひょう)として口角を吊り上げニヤリと笑みを浮かべる男を俺は直感的に畏れた。
周囲に漏れ出す魔力が渦を巻き、ダムズ達を吹き飛ばすように駆け抜けた。
今すぐ頭をたれ、跪きたい衝動に抗い、かろうじて一言だけ発した。
「まさか………魔王?」
ダムズは何とか持ち直した気力を使い切り前のめりに倒れた。
彼の後ろでザックは膝をおり土下座しガクガクと震え、エルは後ろに倒れ泡を吹きピクピクと痙攣をおこしていた。
そんな男達の有様が目に入らないのか、シャルは恍惚とした眼差しで、零を熱く見つめていた。
「はにゃぁ~~旦那様~~」
熱い吐息と共に呟いたシャルの言葉を、エルが聞かずに済んだのは唯一の幸いか。
とにかく、これが我らパーティーが魔王と遭遇した顛末である。